第2節:廃材の魔女への報告
路地裏の最奥。
巨大な隔壁扉の前で、鉄の柩は停止しました。
ヴェールさんが慣れた足取りで車を降り、無造作に扉を蹴り飛ばします。
ガンッ!
重い金属音が響き、扉が開きます。
そこから漂ってきたのは、煮詰まった薬液と、紫煙の香り。
「……ヴェール、あんたね。私の扉を蹴っていいのは、修理費を前払いした奴だけだって言わなかったかしら」
その声を聞いた瞬間、私の胸に懐かしさが込み上げました。
紫煙の奥から現れた小柄な影。オイルまみれのツナギ。回転するモノクル。
ヴィオラさんです。
彼女は以前と変わらず、スパナを片手に気怠げに立っていました。
しかし、彼女の視線が私とリアを捉えた瞬間、その表情が凍りつきました。
ボロボロになったヴェールさんと鉄の柩を見て、モノクルのレンズが激しく回転し、私の全身をスキャンします。
「……生きて帰ってきたのね」
彼女は呻くように言いました。
「それも、全部――七色を持って」
私は無言で右腕の包帯を解きました。
指先から肩口まで、漆黒の結晶がびっしりと覆い尽くしています [cite: 1, 2]。
その奥で、七色の光が血管のように脈動していました。
あの日、通信機越しにカルミナが告げた「完成」の条件。
七色を統合した神の器。
それが今、ここにあるのです。
「……馬鹿な子」
ヴィオラさんがスパナを取り落としました。
カラン、という乾いた音が響きます。
「これじゃもう、あんた自身が『爆弾』じゃない。……姉さんと一つになるための、最悪の供物よ」
「分かっています」
私は静かに答えました。
「でも、これしか方法がないから。……ヴィオラさん、約束通り持ってきました。これで『三要素』は揃いましたよね」
ヴィオラさんはハッとして私を見ました。
前に、彼女は言いました。
純正炉を動かすには、私が持つ「生体鍵」と、彼女が持つ「論理鍵」、そして失われた「七色の結晶」が必要だと。
今、その全てがこの工房に集結したのです。
彼女はしばらく黙っていましたが、やがて短く息を吐き、ポケットからタバコを取り出しました。
「……やれやれ。300年前の喧嘩の続きを、あんたみたいな子供に背負わせるなんてね」
彼女は火をつけず、タバコをくしゃりと握りつぶしました。
「分かったわ。私も腹を括る。……でもその前に、飯よ。爆弾抱えて腹ペコじゃ、戦えないでしょ」




