第1節:凱旋と異変
懐かしい匂いがしました。
カビとオイル、そしてネオンの焼ける匂い。
私たちは鉄の柩を走らせ、物語の始まりに近い場所――ネオン街へと戻ってきました。
かつて、この街の光は私にとって「暴力」でした。
目を焼き、頭痛を引き起こす過剰な色彩の洪水。
けれど今の私には、それらはただの「弱い光の集合体」にしか見えません。
「……まぶしくないの?」
助手席で、リアが心配そうに私を見上げます。
彼女の黄金色の瞳が、ネオンの光を反射してキラキラと輝いています。
「うん、平気。……すごく、静かに見える」
私の右目は、もう半分以上視力を失っていました。
代わりに、魔力の流れや熱源が、直接脳に飛び込んでくるのです。
街を行き交う人々の体温。建物の外壁を這うパイプのエネルギー流動。
世界から情緒が削ぎ落とされ、構造だけが冷徹に浮き彫りになる。
それが「魔女」として完成しつつある私の視界でした。
「……チッ。気味の悪い目になりやがって」
後部座席でヴェールさんが舌打ちをしました。
その言葉には嫌悪感ではなく、隠しきれない焦燥感が滲んでいました。
「おいマシロ。寄り道はナシだ。ヴィオラの所へ直行するぞ。……お前の体がもたねえ」
私は無言で頷き、推力桿を倒しました。
鉄の柩は迷うことなく、路地裏の闇へと滑り込んでいきました。




