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色彩搾取の灰色世界で、不器用な魔女は鉄の騎士に命を捧ぐ 〜クロマティック・ウィッチ〜  作者: w.t.
22章:『紫の円舞曲、見えない貴方へ』

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第6節:完成する器

第6節:完成する器



踊り疲れて、最後のポーズを決めました。

私は見えない彼の胸に顔を埋め、深くお辞儀をしました。



「……ありがとう、アイゼン」



その時です。



パキィ……と、硬質な音が響きました。


見上げれば、天井のシャンデリアが震えています。

300年間、この館の時を止め続けていた「巨人の涙」。


その中央にあった紫色の輝きが、私のダンスに応えるように、ゆっくりと切り離され――。



ヒュゥ……。

一粒の光の雫となって、私の手の中へ落ちてきました。



「……これが、最後の色」



私の掌で、紫色の結晶が冷たく脈打ちます。


それは、私の「孤独」を肯定する石。

誰かに守られるだけだった私は、もういません。


たった一人でも気高く立ち、踊り、振る舞う「女王《魔女》」としての資質。

この石は認めてくれたのです。



シャンデリアの輝きよりも強く、冷たく、高貴な光。

その光は、ドレスの紫と共鳴し、私の皮膚の下へと染み込んでいきます。



カチリ。



何かが、決定的に「嵌まる」音がしました。


赤、橙、黄、緑、青、藍、そして紫。

7つの色が、私の血管の中でネットワークを結び、一つの巨大な「虹」となって循環を始めました。


それはパワーではありません。

もっと無機質な、機能システムの確立でした。



『認証:全色相フル・スペクトル確保』


『個体名:イリス。器の修復完了。純正炉への接続権限を承認』



脳内に響くシステム音声。


同時に、右腕に走っていた激痛が、嘘のように消え失せました。

痛みが消えたのではありません。痛覚信号さえも、システムに取り込まれたのです。



袖を捲ると、どす黒い結晶が心臓の直前まで伸び、そこでピタリと静止していました。



これ以上進めば、私は人でなくなる。

これ以上進まなくても、私はもう人ではない。


私は、鍵だ。

塔を開き、アイゼンを救うための、ただの美しい道具だ。



「……終わった」



私はドレスの裾を握りしめ、荒い息を吐きました。

体は鉛のように重いけれど、心は湖面のように澄み渡っていました。


紫の意味は「自己犠牲」。

高貴であるということは、誰かのために散る準備ができているということ。



「行くぞ、マシロ」



いつの間にか、ヴェールさんが大広間の扉を開けて待っていました。


彼はもう、皮肉を言いませんでした。

ただ、完成してしまった「生贄」を見るような、痛ましく、けれど敬意に満ちた目で私を見ていました。



「……王子の迎えはないが、俺たちが送ってやる」



「はい」



私は涙を指で拭い、顔を上げました。


さようなら、一夜限りの舞踏会。

さようなら、ただの少女だった私。



私はドレスを脱ぎ、トルソーに戻しました。


再び袖を通した私の服は、生地もごわごわしていて、油の匂いがします。

でも、今の私にはこの匂いこそが相応しい。



私は鏡の中の自分に別れを告げ、扉へと向きました。

その背中には、もう迷いはありませんでした。



私は『彩りの魔女』。



世界を救うためじゃない。

たった一人を救うために、燃え尽きるの。



第22章 「紫の輪舞曲、見えない貴方へ」 完

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