表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色彩搾取の灰色世界で、不器用な魔女は鉄の騎士に命を捧ぐ 〜クロマティック・ウィッチ〜  作者: w.t.
22章:『紫の円舞曲、見えない貴方へ』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

130/164

第3節:道化師の休息

書斎を出て、サロンへ移動した直後でした。



「……っ、くそ」



ヴェールさんの膝が、音もなく折れました。

雪原での無茶が、今になって彼の体を蝕んでいるのです。


彼は倒れ込むように、そばにあった紫色のベルベットの長椅子カウチに体を預けました。



「ヴェールさん!」



「騒ぐな、ちょっと目眩がしただけだ……。座り心地のいい椅子じゃねえか」



彼は強がりましたが、その左腕からは、まだ制御できない「色」が漏れ出しています。


ポタリ、ポタリ。

包帯の隙間から、濁った絵の具のような雫が滴り落ちます。


それは、高貴な紫の布地に落ち、見るも無惨な黒いシミを広げていきました。



「……あーあ。やっちまった。国宝級の椅子が台無しだ」



ヴェールさんが自嘲気味に笑い、慌てて体を起こそうとしました。


この館の完璧な美しさを、自分の「汚れ」が侵してしまったことへの、彼なりの引け目なのでしょう。

私は、その痩せた肩を強い力で押しとどめました。



「そのままでいいです。休んでください」



「おい、汚れるぞ。ここは貴族様の別荘だぜ? 俺みてえなのが寝ていい場所じゃ……」



「いいえ」



私は首を横に振りました。


かつて、ブランシュはこれを「汚物」だと断じました。

この館の住人たちも、きっと眉をひそめるでしょう。


けれど、私には分かります。



「その汚れは、貴方が私を守るために戦って、生きて、流してくれた色です。

……この館にある、どんな綺麗な調度品よりも、そのシミはずっと価値がある」



私はポケットからハンカチを取り出し、彼の額に浮かんだ脂汗を拭いました。


紫の椅子に残る、どす黒いシミ。


それは、300年間止まっていたこの館に刻まれた、最初の「生きた痕跡」でした。

永遠に変わらない紫の世界に、私たちが確かに爪痕を残したのです。



「……へっ。お前も随分と悪趣味な女になったな」



ヴェールさんは呆れたように目を閉じ、深く息を吐き出しました。


その顔には、皮肉の色は消え、少しだけ安らかな色が戻っていました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ