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色彩搾取の灰色世界で、不器用な魔女は鉄の騎士に命を捧ぐ 〜クロマティック・ウィッチ〜  作者: w.t.
22章:『紫の円舞曲、見えない貴方へ』

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第1節:時を止めた館

藍色の氷原を抜けた先に、それはありました。


猛吹雪が支配する極寒の世界で、そこだけがまるで別の法則で守られているかのように、風が凪いでいます。


雪の中に埋もれることなく、凛と佇む『紫紺の洋館』。


尖塔を持つ屋根。優美なアーチを描く窓枠。


かつて、塔の貴族たちが下界の景色を愛でるために建てた別荘でしょう。

300年という風雪に晒されながら、その外壁は高貴な紫の輝きを失っていません。


廃墟と呼ぶにはあまりに美しく、現役と呼ぶにはあまりに静かすぎる。



「……すげえな。ここだけ時間が止まってやがる」



ヴェールさんが感嘆の息を漏らしました。


彼が吐いた白い息が、館の敷地に入った途端、ふわりと消えていきます。


「結界か? いや、もっと古い『保存魔法』の類か……」


私たちは鉄の柩を降り、重厚な正門を押し開けました。


ギィィ……。


蝶番が軋む音が、静寂な空気を震わせます。


一歩足を踏み入れると、世界が変わりました。


埃っぽい、けれど甘い香り。

古書と、ドライフラワーと、蜜蝋の匂い。


エントランスホールには深紅の絨毯が敷き詰められ、頭上には巨大なシャンデリアが――光こそ失っていますが――宝石の涙のようにぶら下がっています。


そこは、私たちの知る「灰色の世界」とは隔絶された、夢の跡地でした。


壁に掛けられた肖像画の貴婦人が、目も口も動かさずに、侵入者である私たちを見下ろしています。



「おしろみたい……!」



リアが目を輝かせて走り出しました。

彼女の足音が、吸い込まれるように響きません。


私も、その非現実的な光景に目を奪われていました。


ボロボロの旅装束。

泥と油にまみれたブーツ。

包帯だらけの手。


ここにある全てが美しすぎて、自分たちがひどく汚れた異物のように感じられ、思わず身を縮めてしまいました。

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