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色彩搾取の灰色世界で、不器用な魔女は鉄の騎士に命を捧ぐ 〜クロマティック・ウィッチ〜  作者: w.t.
21章:『白銀の無菌室、割り切れぬ問い』

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第1節:診断名「不潔」

駆動炉が唸りを上げ、鉄の柩が雪煙を上げて動き出した、その時でした。


ふっ、と。


世界から「音」が剥ぎ取られました。


あれほど狂ったように吹き荒れていた吹雪が、唐突に止んでいます。


いえ、止んだのではありません。

空中に舞う雪の一粒一粒までもが、見えない力で整列させられたように、空中で静止していました。



「……なんだ? 空気が、変だぞ」



助手席で、ヴェールさんが鼻を動かしました。


色漏症で嗅覚が鈍っているはずの彼が、露骨に顔をしかめています。



「臭わねえ。オイルの匂いも、土の匂いもしねえ……まるで、死体安置所だ」



その違和感の正体は、進行方向にありました。


雪原の上に、雪よりもさらに「白すぎる」壁が立っていたのです。


それは氷壁ではありません。

この空間だけを世界から切り離す、拒絶のカーテン。


その前に、一人の騎士が佇んでいました。


手術衣のような白さを纏った甲冑。

顔を覆う無機質な面体マスク


白の粛清騎士・ブランシュ。

彼女は武器を構えることなく、ただ事務的に、手にした羊皮紙のような薄い板に視線を落としていました。



「……汚染源ソース、イリス。ならびに随伴する廃棄物二名」



彼女の声は、硝子越しに聞くようにクリアで、そして体温を感じさせませんでした。



「一度は『切り捨て』という正しい判断をしたようですが……なぜ、エラーを起こした部品ヴェールを拾い直したのですか? 同情は感染します。あなたは今、自ら病を広げました」



私は車を降りました。


怒りよりも先に、肌が粟立つような恐怖を感じていました。

彼女が放っているのは殺気ではありません。

ただの「業務」としての冷たさです。



「そこを退いてください。私たちは、塔へ行かなければなりません」



「許可できません。この先は『人の住む世界』ではありません。選ばれた者だけの無菌の箱庭です」



ブランシュが、手に持っていた長い槍の穂先を、地面に向けました。


カツン、と石突が鳴ると、白い波紋が広がります。

波紋に触れた雪や土が、瞬く間に「真っ白な無機物」へと変質していきました。



「あなたたちは病原体です。特に、その男。……中身が腐って漏れ出している」



「……俺のことかよ」



「ええ。そして、その鉄屑アイゼン。錆びついた過去の遺物は、衛生環境を害します。……洗浄が必要です」



洗浄。


その言葉が、私の背筋を冷たく撫で上げました。



「あなたたちのその泥臭い感情、執着、痛み……全て洗い流してあげましょう。真っ白になれば、もう誰も苦しまなくて済む」



ブランシュの論理は、私がさっきまで陥っていた「藍色の罠」そのものでした。


感情を捨てれば楽になる。

切り捨てれば効率的だ。


彼女は、私が選ばなかった「冷酷な正解」の成れの果てなのです。



「……どうして」



私は震える声を絞り出しました。



「カルミナは……あなたの主は、私に色を集めさせているはずです。なのに、なぜあなたが邪魔をするんですか?」



「主の意図など関係ありません」



ブランシュは即答しました。



「私の機能は『清潔の維持』。……あなたが色を集めれば集めるほど、世界は複雑になり、混沌とし、汚れていく。それは私の美学に反します。主が許しても、私の規律があなたを許容できない」



それが答えでした。


彼女は忠実な騎士ではない。

自分の「潔癖」というルールに暴走している、壊れた掃除人形。

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