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色彩搾取の灰色世界で、不器用な魔女は鉄の騎士に命を捧ぐ 〜クロマティック・ウィッチ〜  作者: w.t.
20章:「涙の計算式、藍の解」

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第7節:非合理な証明

「……う、あ……」



頬についた涙の熱が、急速に広がっていきます。

それは「(だいだい)」の魔法的な熱とは違う、もっと泥臭くて、生々しい**「体温」**でした。



ドクン。



凍りついていた心臓が、無理やり動かされたように跳ねました。



(……私は、何をしようとしていた?)



視界の端で、雪に埋もれかけているヴェールさんが見えます。

彼は笑っていました。諦めと、自嘲と、そして少しの安堵を浮かべて。



まるで、「マシロが非情になれてよかった」とでも言うように。



――その顔を見た瞬間、私の脳内で「正しさ」の定義が逆転しました。



「……ちがう」



私は(うめ)きました。

アイゼンは、私を「機能」で選んだわけじゃない。



私が「世界を救う鍵(部品)」だから守ったんじゃない。

何の役にも立たない、ただ泣いているだけの私を、彼は守ってくれた。



もし「効率」が全てなら、アイゼンはとっくに私を捨てていたはずです。

なら、私が今やろうとしていることは――アイゼンの否定だ。



「……うあああああっ!! 」



私は叫び声を上げ、車から飛び出しました。

雪の中を転がりながら、ヴェールさんの元へ走ります。



「マシロ……?」



彼が驚いた顔をする間もなく、私はその胸ぐらを掴み、力任せに引きずり起こしました。



「戻ってください! 乗ってください!」



「はあ? おい、お前正気か? 計算はどうした」



「計算なんか知らない! 間違ってました! ロジックが全部ボロボロです!」



私は彼を無理やり助手席に押し込みました。

涙が止まりません。寒いのか、悔しいのか、悲しいのか分からないけれど、ただ涙が溢れてきます。



「あなたは荷物です! お荷物です! 壊れかけで、口が悪くて、燃費も最悪です!」



私は泣きながら、ヴェールさんに怒鳴りつけました。



「でも! あなたがいないと、リアが泣くんです! リアが泣いたら、私が困るんです! だから……だから、連れて行きます!」



なんて非合理な理屈。

でも、それが今の私の出した、たった一つの**「解」**でした。





バタン! ドアを閉め、再び車内へ戻ります。

空気はまだ冷たいままですが、先ほどまでの「死んだような静寂」は消えていました。



リアが「よかったぁ」と泣きじゃくり、ヴェールさんが「……ったく、理屈の通じねえ魔女様だ」と苦笑いしながら頭を掻いています。



その時です。

猛吹雪が一瞬だけ、嘘みたいに静まりました。



空気が重く沈み、耳鳴りが止む。



――カチリ。



右腕の侵食(しんしょく)の隙間で、何かが「結晶化」する音がしました。



右腕を見ると、どす黒い侵食の隙間に、深く、澄んだ「藍色(インディゴ)」の結晶が輝いていました。



「……なんで」



私は呆然としました。私は「理性」を捨てたはずです。

感情に流され、非効率な選択をしました。なのに、なぜ?



脳裏に、静かなインフォメーションが響きました。



『認証:深度ロジック(ディープ・ロジック)

『短期的な損耗を許容し、長期的な精神支柱(モラル)を維持する選択を確認』

『それは、機械には導き出せない、人間だけの論理』



――ああ、そうか。

本当に賢いということは、損得だけで動くことじゃない。



「大切なものを守るために、あえて損をする」

それこそが、人が人として生きるための、一番高度な理性なんだ。



藍色の結晶が、静かに脈打ちます。

それはもう、私を凍らせたりしません。



深海の底のように静かで、けれど決して揺らがない**「覚悟」**の重さが、私の右腕に宿っていました。


「……行こう」



私は涙を拭い、推力桿(スロットル)を握りました。



「全員で、行くよ」



駆動炉が唸りを上げます。

鉄の柩(てつのひつぎ)は雪煙を上げ、藍色の氷原を切り裂いて進み始めました。



目指すは最後の色。

高貴で、残酷な**「パープル」**が待つ洋館へ。



第20章 「涙の計算式、青の解」 完

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