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色彩搾取の灰色世界で、不器用な魔女は鉄の騎士に命を捧ぐ 〜クロマティック・ウィッチ〜  作者: w.t.
20章:「涙の計算式、藍の解」

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第6節:エラーコード『涙』

キィィィン……。



氷原のど真ん中で、鉄の柩(てつのひつぎ)が停車しました。

外は猛吹雪。視界は白一色で、気温はマイナスを遥かに下回っています。



私は無言で機関ハッチのロックを解除し、助手席のドアを開けました。



「……降りてください」



吹き込む冷気が、車内のわずかな熱を奪っていきます。

ヴェールさんは、抗議しませんでした。



彼は私の瞳をじっと見て――そこに「迷い」が一切ないことを悟ったのでしょう。



「……へえ。本気かよ」



「本気です。計算しました。あなたがここで降りれば、食料消費率は40%改善。私の魔力リソースも温存できます。この先、天蓋の基部へ到達するための生存確率は、今の12%から48%まで上昇します」



完璧な計算です。数字は嘘をつきません。

感情は不確かですが、確率は絶対です。



「……そうか。48%か。そいつは高いな」



ヴェールさんは皮肉っぽく口の端を吊り上げ、よろりと車外へ出ました。

雪に足を取られ、膝をつきます。



その背中はあまりに小さく、(もろ)く見えました。



「じゃあな、マシロ。……せいぜい、うまくやれよ」



彼は振り返りません。私も、ドアに手をかけました。

これで完了。タスク終了。



そう思って、ドアを閉めようとした瞬間です。



「――いや!!」



後部座席から、小さな塊が飛び出してきました。




リアです。

彼女は私の腕にしがみつき、ドアが閉まるのを全力で阻止しました。



「だめ! ヴェールをおいていかないで!」



「リア、離れて。これは必要な処置です」



私は淡々と説明しました。子供相手に、分かりやすく、論理的に。



「彼はもう壊れています。連れて行っても役に立ちません。荷物を軽くしないと、私たちもアイゼンも助からないの」



「わからない! そんなのわかんないよ!」



リアが泣き叫びました。

その声が、静寂な青い世界に不協和音として響きます。



耳障りです。思考のノイズになります。



「マシロおねえちゃんのバカ! けいさんなんて大嫌い!」



「嫌いでも、事実は変わりません」



「かわるよ! だって、ヴェールはくれたもん!」



リアは鼻水を垂らしながら、ポケットから何かを取り出しました。

それは、赤の遺跡でヴェールさんが彼女に渡した、ねじれた鉄屑の花でした。



ただのゴミです。機能的な価値はゼロです。



「ヴェールは優しいの! これくれたの! パンもくれたの! だから置いてっちゃダメなの!」



「それは過去の事象です。現在の彼のスペックには関係ありま……」



ドンッ。



リアが、私の胸に頭突きをしました。

物理的な衝撃。そして、彼女の涙が私の頬に飛び散りました。



熱い。火傷しそうなほど、熱い涙。



『警告:論理エラー発生。計算式に矛盾』



脳内で、青い文字が明滅しました。

価値ゼロの鉄屑を「宝物」と呼ぶ非合理性。壊れた部品を「優しい」と呼ぶ評価基準。



私の計算式には、その変数が入力されていませんでした。

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