表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色彩搾取の灰色世界で、不器用な魔女は鉄の騎士に命を捧ぐ 〜クロマティック・ウィッチ〜  作者: w.t.
20章:「涙の計算式、藍の解」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

121/164

第5節:理性の拒絶

再び鉄の柩(てつのひつぎ)を走らせます。

目指すは、氷原の彼方にそびえる「天蓋の基部(てんがいのきぶ)」。



そこは、世界で最も重力が強く、最も時間が遅く流れる場所。

そして、第六の色相結晶「藍」が眠る場所です。



車内は沈黙に包まれていました。

リアは重力酔いでぐったりと眠っています。



助手席のヴェールさんは、浅い呼吸を繰り返しながら、窓の外の闇を見つめています。



ズキリ、ズキリ。



右腕の結晶が、規則正しく痛みを信号として送ってきます。

目的地に近づくにつれ、私の思考は研ぎ澄まされ、余計なものが削ぎ落とされていきました。



(次の戦闘が発生した場合、ヴェールさんの生存確率はほとんどない)

(彼を守りながら戦えば、私の魔力消費は跳ね上がる)

(アイゼンを治すための魔力が枯渇するリスクがある)



――結論。

――彼をここで切り離すべきである。



その思考は、驚くほどスムーズでした。

罪悪感はありません。悲しみもありません。



ただ、複雑な数式を解いて、「解」が出た時のようなスッキリとした納得感だけがありました。



「……次は、理性の色」



私は無意識に呟いていました。



「私の、一番嫌いな色」



隣でヴェールさんがピクリと反応しましたが、私は構わず続けました。

なぜ嫌いなのか。その理由さえも、今の私には「分析対象」でしかありません。



「理性は、いつだって正しい顔をして言うから。『もう手遅れだ』って」



「『感情で動くのは非効率だ』って。『諦めるのが、最も被害の少ない賢い選択だ』って」



私は、冷え切った手で操縦桿を握りしめました。

その感触は、アイゼンの指の冷たさに似ていました。



でも、アイゼンの冷たさは優しかった。

今の私の中にある冷たさは、鋭利な刃物の冷たさです。



(ヴェールさんを連れて行くメリットはない)

(リアのお荷物になるだけだ)

(ここで彼を降ろせば、食料も燃料も浮く)



正しい。あまりにも正しくて、反論の余地がない。

藍色(インディゴ)領域(フィールド)の声が、私の耳元で甘く囁きます。



『楽になりなさい。正しさに身を委ねれば、迷わなくて済む』



私は横目で、助手席の男を見ました。

ボロボロの服。血の気のない肌。震える手。



そこにあるのは「仲間」ではなく、ただの「機能不全を起こした部品」。



「……ヴェールさん」



私は静かに彼を呼びました。

自分の声が、まるで他人のもののように響きます。



氷のように冷たく、感情のない声。



「次のポイントで、停車します」



「……ああ? 休憩か?」



「いえ」



私は前方を見据えたまま、淡々と告げました。



「荷物を、降ろします」



その言葉の意味を理解したのか、リアが寝言のように小さく「……いや」と(うめ)きました。



けれど、私の「理性」は止まりません。

だって、それがアイゼンを救うための、最短ルート(あいいろ)なのだから。



第20章 「宵闇の重力、星降る境界」 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ