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色彩搾取の灰色世界で、不器用な魔女は鉄の騎士に命を捧ぐ 〜クロマティック・ウィッチ〜  作者: w.t.
20章:「涙の計算式、藍の解」

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第3節:藍色の重圧

峠を越えると、世界は唐突に表情を変えました。

それまでの夕暮れのような暖色は、ナイフで切り取られたように途絶えました。



目の前に広がるのは、見渡す限りの氷原と、頭上を覆う重苦しい「藍色(インディゴ)」の空。

昼なのか夜なのかも分かりません。ただ、深海のような濃い青が、すべてを塗りつぶしています。



さっきまで胸に残っていた(だいだい)の残り香が、頭から冷水を浴びせられたように一瞬で消え失せました。



「……耳が、痛い」



リアが後部座席で耳を押さえました。

私も異変を感じていました。キーンという耳鳴りが止まないのです。



そして何より、体が鉛のように重い。

推力桿(スロットル)を踏み込んでいるのに、鉄の柩(てつのひつぎ)は泥の中を進むように速度を落としていきます。



「重力異常だ」



ヴェールさんが冷めた声で言いました。



「この先は、(カルミナ)の制御システムの影響が強い。物理的な重力だけじゃねえ……思考のノイズまで、全部下に落ちていく場所だ」



藍色(インディゴ)。それは「理性」の色。

青の「静寂」よりも深く、冷たく。不要なものを全て沈殿させ、切り捨てるための色。



まだ色素核を手に入れていないのに、この領域(フィールド)そのものが、私たちの脳に干渉してくるのが分かります。



ズキリ。



右腕の結晶が、これまでにないほど鋭く痛みました。

それは熱を持った痛みではなく、凍傷のような、感覚を失わせる痛みでした。



私の思考が、急速に冷えていくのを感じます。



(……ヴェールさんの傷。リアの体力。燃料の残量)



頭の中に、無機質なパラメータが浮かび上がります。



(……足りない。ゴールまで辿り着くには、荷物が多すぎる)



ふと、隣に座るヴェールさんを見ました。

彼は激しく咳き込み、袖口で口元を拭っています。



その袖に、透明な飛沫が付着しているのが見えました。

限界だ。彼はもう、機能として壊れかけている。



(壊れた部品は、交換するべきだ)



そんな言葉が、私の意思とは無関係に、氷の棘のように脳裏を(かす)めました。



「……マシロ? どうした、怖い顔して」



ヴェールさんに声をかけられ、私はハッとしました。



「……いえ。なんでもないです」



私は慌てて視線を逸らしましたが、心臓が早鐘を打っていました。

今、私は何を考えた?



アイゼンならどうするか、と考えた途端――「足手まといを切り捨てる」という選択肢が、一番正しい答え(・・・・・)として輝いて見えたのです。

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