第2節:熱源探知
車を走らせて数十分。
私たちは荒野を抜け、かつての鉱山地帯へと足を踏み入れていました。
ここは「赤の遺跡」とは違う、放棄されたガス採掘場。
あちこちの岩場から、シューッという不気味な噴気音が聞こえ、腐った卵のような臭いが漂っています。
ピィ……。ピィ……。
風切り音に混じって、鳥の鳴き声のような電子音が聞こえました。
「……止まれ」
ヴェールさんの鋭い指示で、私はブレーキを踏みました。
岩陰から姿を現したのは、三機の監視鳥。
塔の自律兵器です。
彼らは普段、休眠モードのはず。
けれど今は、そのカメラアイが真っ赤に点滅し、執拗にこちらの機関部――つまり、私が熱を与えたばかりの駆動炉を睨んでいました。
「……チッ。炉の熱を探知されたか」
ヴェールさんが短剣を抜きます。
「やっぱ、余計な熱を持つとロクなことがねえな」
「私が……焼きます」
私は右腕を掲げようとしました。
けれど、制御盤の警告灯が激しく明滅します。
『警告:可燃性ガス濃度、危険レベル』
「ダメだマシロ! ここで赤を使ってみろ、俺たちごと消し炭だぞ!」
ヴェールさんが私の腕を掴んで制止します。
火花厳禁。爆発の危険があるこの場所で、私の最大の武器である「赤」は封じられていました。
監視鳥たちが翼を広げ、真空の刃を放つ予備動作に入ります。
「……ヴェールさん。背中、貸してください」
「あ?」
「赤がダメなら、あなたの速度で落とします。……熱、回します!」
拒否する間も与えず、私は彼の背中に両手を叩きつけました。
再び、私の中の熱がごっそりと持っていかれます。
今度は指先だけじゃない。
視界が白く霞み、内臓が裏返るような悪寒が全身を駆け巡りました。
ヒュンッ!
ヴェールさんの体がブレて消えます。
金属同士をぶつける斬撃は使いません。火花が散れば終わりだから。
彼は風のような速度で敵の懐に入り込み、関節の隙間へ正確に刃を突き立てました。
プシュッ、プシュッ、プシュッ。
硬質な打撃音はなく、ただ空気が抜ける音だけが三回響き――彼が足を止めた時には、三機の監視鳥は翼の付け根を貫かれ、地面に墜落していました。
「……はっ、すげえな。体が勝手に動く」
ヴェールさんは自分の手を見つめて笑いましたが、私はその場に崩れ落ちそうになりました。
寒い。
寒い。
歯の根が合わない。
橙を使えば使うほど、私はただの冷たい器に戻っていく。




