第1節:凍える暖炉
翌朝、旅は唐突な「沈黙」から始まりました。
荒野の朝霧が晴れても、鉄の柩の駆動音が聞こえてこないのです。
昨晩の雨と、標高による急激な冷え込み。
老朽化した点火核が、ついに音を上げたのです。
「……クソ鉄屑め。ここでくたばるのかよ」
ヴェールさんが機関ハッチを蹴り開け、悪態をつきます。
彼の手は油まみれですが、その指先が微かに震えているのを私は見逃しませんでした。
寒さのせいじゃない。彼の中の「色」が、器の底を突き始めているからです。
「……どいてください」
私は彼の横をすり抜け、操縦席へ滑り込みました。
制御盤に両手を添えます。
冷たい。まるで死人の肌のような冷たさが、鉄板越しに伝わってきます。
(動いて。……私の熱をあげるから)
昨夜、リアと三人で手に入れたばかりの、大切な家族の温もり。
私は、その琥珀色の灯火を意識しました。
理屈なんていらない。これは「生成」じゃない。
私の内側にある熱を、外へ流すだけ。
――それはつまり、私が冷えるということ。
ドクン。
心臓が一度、大きく跳ねました。
次の瞬間、私の指先から琥珀色の波紋が広がり、鉄の塊へと吸い込まれていきます。
ガウルルルッ!!
死んでいたはずの駆動炉が、歓喜の咆哮を上げました。
まるで焼きたてのパンを食べた後のように、車体全体が小刻みに震え、温かい振動を返してきます。
けれど、その代償はすぐに私を襲いました。
「……っ」
指先から、私の右腕にあった「ポカポカとした温もり」が、すぅっと消えていきました。
まるで、焚き火に水をかけられたように。
見ると、血の気が完全に引いて、蝋細工のように真っ白になっています。
琥珀色の結晶はまだ輝いていますが、そこから伝わってくるはずの「安心感」が、鉄の柩の燃料として消費されてしまったのです。
(……寒い)
「おい、マシロ。お前の手、氷みたいだぞ」
ヴェールさんが私の手を掴み、眉をひそめました。
「……大丈夫です。ちょっと、熱が移動しただけですから」
私は震える手を隠すように、操縦桿を握りしめました。
指先は凍えていましたが、心の中には不思議な「安堵感」がありました。
焦りがない。
ただ、「これでまだ進める」という、陽だまりのような静かな安心感。
それが橙の力の正体なのかもしれません。




