第6節:一番の宝物
石の輝きが増していきます。
まるで、「私を使って」と訴えかけるように。
「……だめだよ、リア。これはあなたの宝物でしょう?」
私は眠るリアの胸に石を戻そうとしました。
でも、石は私の手から離れようとしません。
それどころか、磁石のように私の右腕――黒い痣へと吸い寄せられていきます。
その時、寝言のようにリアが呟きました。
「……ん……アイゼン……おねえちゃん……なおって……」
リアが身じろぎをして、私に抱きついてきます。
「……リアのたからもの、あげる……」
寝ぼけ眼で満足そうに微笑んでいます。
「……おねえちゃん、だいすき」
胸が締め付けられました。
この石は、リアの「願い」そのものなんだ。
彼女にとっての宝物は、この石ころ自体じゃない。
**「大好きな家族が、ずっと一緒にいられますように」**という祈りこそが、彼女が抱きしめていた本当の宝物。
石が、その祈りを叶えるために、自ら私の力になろうとしている。
「……ありがとう、リア。大好きよ。私の小さな宝物」
私はリアを抱き返し、石を、冷え切った自分の胸――心臓の上に押し当てました。
「あなたの宝物、私がもらうんじゃない。……私たちが、一緒に生きるための熱にするね」
じゅわっ。
熱で蝋が溶けるような音がして、石が私の肌に沈んでいきます。
熱い。でも、火傷するような痛みではありません。
冷え切った身体にスープが染み渡るような、泣きたくなるほどの安らぎ。
私の右腕の黒い痣の中に、ぽっと温かい橙色の灯火が点りました。
それは、どんな冷たい風も吹き消せない、私たちで作った「家族の色」でした。
(おやすみ、アイゼン。……あなたがガラス越しに見ていた夢は、全部ここにあったよ)
湖畔の夜風は冷たいけれど、私たちの車の中だけは、春のように温かいまま。
赤、黄、緑、青。そして、橙。
五つ目の色が、私の心に灯りました。
夜が更けていきます。
明日になれば、また過酷な旅が待っています。
残る色はあと二つ。
私はリアの手を握り直し、アイゼンの幻影に寄り添うようにして、深く眠りに落ちました。
第19章 「琥珀の食卓、愛の証明」 完




