第5節:ネオンの残り香、家族の体温
頬を伝う涙を拭おうとした時、カツンと乾いた音がして、後部座席で眠るリアの胸元から何かが転がり落ちました。
ヴェールさんがネオン街の露店で、気まぐれに買い与えた安物の石です。
(……懐かしい)
あの時のことを思い出します。
濁った瞳の店主が売っていた、「命の残り香」と呼ばれるただの石。
その中で、リアが「あったかい色」と言って選んだ、小さな一粒。
拾い上げようとして、私は指を引っ込めました。
熱かったのです。
まるで、焼けた炭のように。
「……どうして? あの時は、こんなに熱くなかったのに」
私は恐る恐る、その石を掌に乗せました。
石は、ポゥ、ポゥ……と、呼吸をするように優しい光を放っていました。
それはネオン街の毒々しい色ではありません。もっと澄んだ、琥珀色の輝き。
指先に伝わるその熱さは、不思議と懐かしいものでした。
魔法のような熱さじゃない。もっと身近で、少し湿ったような、人の温もり。
「……あ、あぁ……」
この温度、私、知ってる。
記憶が、指先から流れ込んできました。
リアがパンケーキを頬張って笑った時の、体温の上昇を。
寒い夜に、アイゼンの冷たい装甲に押し当てて「温かくなあれ」と願った、あの小さな手の熱を。
ヴェールさんがぶっきらぼうに掛けてくれた毛布の重さを。
この石は、私たちの旅の体温を、ずっと吸い込んでいたんだ。
ありふれた日常の熱が、リアの純粋な心の中で育ち、長い時間をかけて本物の結晶へと変質していたのです。




