第4節:青き決意
「……理解不能。哀しみを、受け入れた……?」
アズールが呆然と立ち尽くしていました。
彼女の周りにあった無数の本――偽りの記憶――が、パラパラと崩れ去っていきます。
彼女にとって、悲劇とは「鑑賞するもの」であり、「当事者として背負うもの」ではなかったのでしょう。
だから、傷だらけになっても立ち上がる私たちの強さが理解できない。
私はリアを抱きしめたまま、アズールを見据えました。
私の右腕が、熱く、そして深く脈打ちます。
湖の底にあった「青」の力が、アズールの支配を離れ、私の中へと流れ込んでくるのを感じました。
「哀しみは、消すものじゃない。……背負って、歩くものです」
ズズズン……!
私の右腕に、四つ目の色が宿りました。
赤・黄・緑、そして「青」。
四色の光が混ざり合い、図書館全体を揺るがすほどの輝きを放ちます。
それは停滞していた時間を動かす、夜明けの色でした。
「ッ……! 強欲な魔女……! 悲劇すら燃料に……!」
アズールが顔を歪め、後ずさりました。
彼女の自慢の「青い結界」は、ガラス細工のように砕け散りました。
「記憶しなさい。……塔は、許さない。その業が、いつか貴方を焼き尽くす……!」
「……オーレリア。いつか貴女がその『痛み』を抱えきれず、立ち止まる時……また、私の図書館へ」
「……その時まで。貴女を『未完の悲劇』として、私の栞に挟んでおく」
アズールの体が霧のように霞んでいきました。
彼女は幻影と共に消え失せ、後には静まり返った図書館だけが残されました。
「……終わったか」
ヴェールさんが、ふう、と息を吐いて座り込みました。
私は腕の中のリアを見ました。
彼女は泣き疲れて眠っていましたが、その手は私の服を強く、痛いほど強く握りしめていました。
その寝顔はもう、死んだような無表情ではありません。
眉を寄せ、時折しゃくり上げる、愛らしい子供の寝顔でした。
(……行こう)
私はリアを背負い、立ち上がりました。
右腕はずしりと重い。
それは、リアの哀しみを、私が半分引き受けた重さでした。
私は思わずよろめき、自分の肩を押さえました。
白いコートの下。
肩を覆い尽くしていた黒い痣が、ついに鎖骨のラインを乗り越え、喉元と胸の境目にまで冷たい根を伸ばしていたのです。
骨の上に、氷の蔦が這っているような感触。
息を吸うたびに、右の肺が何かに押さえつけられているような、嫌な重苦しさを感じました。
外に出ると、鉛色の空が少しだけ明るくなっていました。
雲の切れ間から差し込む光が、湖面をキラキラと照らしています。
残る色はあと三つ。
私たちは「鉄の柩」へと戻り、次なる色――**「藍(恐怖)」**の待つ地へと、車輪を進めました。
第18.5章 「涙の海、愛の証明」 完




