第3節:残酷な赤、鋼鉄の繭
第3節:残酷な赤、鋼鉄の繭
リアは、氷のような結晶の中で、虚ろな目をしていました。
結晶はすでに彼女の胸元まで覆い、その鼓動を止めようとしています。
その瞳から光が消えかけていました。
「……マシロ、おねえちゃん。……もう、いいの」
リアが、カサついた唇で呟きました。
「リア、だれにもあいされてなかった。おとうさんもおかあさんも、リアのこと、いらなかったんだ……。だから、もう……このまま、ゆめをみてたい……」
彼女は自ら、心を閉ざそうとしています。
この辛い現実よりも、アズールがくれる「嘘の夢」の方がマシだと。
親に売られたという事実を知って生きるくらいなら、氷の中で眠っていたいと。
(……救わなきゃ)
言葉では足りない。
「愛している」なんて言葉は、彼女の両親が散々使った嘘の言葉だ。
今の彼女に必要なのは、過去の真実でも、未来の約束でもない。
今、ここに流れている「生」の実感だ。
私は震える手でナイフを取り出しました。
迷わず、自分の指先を切り裂きます。
ぷくり、と。
鮮やかな赤い血が、玉のように膨れ上がりました。
「……ごめんなさい、リア。痛いかもしれない。でも……」
私はその血のついた指を、リアの凍りついた唇へと押し当てました。
「これが、私の『色』。あなたがくれた、命の熱です」
ぽつり。
赤い雫が、彼女の唇に落ち、染み込んでいきました。
瞬間。
ドクン!!
リアの心臓が大きく跳ねました。
「ん……ぁ……っ!? 」
私の血液が、彼女の体を蝕んでいた「青い停滞」を、強制的に循環させました。
血管を流れる冷たい水銀が、沸騰するようなマグマに置き換わる。
彼女の瞳がカッと見開かれ、そこから涙が溢れ出しました。
「いや……やだ……! 悲しい、悔しいよぉ……っ!」
悲鳴。
それは「諦め」ではなく、生きているからこそ感じる「痛み」の叫びでした。
「わらってる……なんで、わらってるの……!? わたしをすてるのに、なんでそんなに嬉しそうなの!?」
リアが泣き叫び、氷を割って両手を振り回しました。
その爪が私の頬を掠め、赤い筋を作りましたが、痛みは感じません。
「あぁ……ああああああっ!! 」
真実を直視させられた幼い精神が、悲鳴を上げながら軋んでいます。
拒絶されても、暴れられても、私は彼女を離しませんでした。
その痛みこそが、彼女が「標本」ではなく「人間」である証拠だから。
「泣きなさい、リア! 怒っていい、悲しんでいい! それがあなたの『心』よ!」
「うわぁぁぁぁぁん!! おねえちゃぁぁぁん!! 」
リアは私の首に腕を回し、しがみつきました。
その体温は熱く、脈動は力強い。
アズールの作ろうとした「冷たい標本」など、どこにもいませんでした。




