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色彩搾取の灰色世界で、不器用な魔女は鉄の騎士に命を捧ぐ 〜クロマティック・ウィッチ〜  作者: w.t.
18.5章:涙の海、愛の証明

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第1節:血塗られた申請書

「……不快。標本に『迷い』は不純物。……完全に、染める」



アズールがスゥ……と目を細め、懐から一枚の羊皮紙を取り出しました。

そして、躊躇なくそれをガラスの壁に押し当てたのです。



バァンッ!! 



突然の音に、幻影の中のリアがビクリと振り返りました。



「……え?」



そこに張り付けられていたのは、赤黒い染み――おそらく、持ち主の血で汚れた書類でした。



「見るの、リア。これがあなたの『愛』の正体」



マイクを通したようなアズールの声が、閉ざされた空間に響き渡りました。



「……ちがうよ。おとうさんとおかあさんは、わたしをあいしてたもん」



ガラスの向こうで、リアが小さく首を振りました。

けれど、その声には(すが)るような響きがありました。



アズールは憐れむように眉を下げ、残酷な文字を指差しました。

震える筆跡で記された、決定的な証拠を。



「……見るの。事故現場で回収した、『塔への昇格申請書』」



アズールが書類をガラスに押し当てました。

そこには、震える筆跡でこう記されていました。



『献上品:実の娘(黄金の瞳保有個体)』

『希望報酬:上層居住権、および第二階級への昇進』



「……?」



リアの目が点になりました。



そこには、娘の名前すら書かれていません。

あるのは、物としてのスペックと、自分たちの欲求だけ。



愛称の『リア』ではなく、『個体』。

それが、両親にとっての彼女の全てだったのです。



「これが真実(オリジナル)。あの日の『行け』は、『逃げろ』ではない。『お前だけでも塔へ行って、私を引き上げろ』という、強欲な叫び」



パリン。



音を立てて、リアの中の何かが砕け散りました。



幻影のリビングルームが色あせ、優しい両親の顔が、欲に歪んだ醜い笑顔へと変貌していきます。



愛されていた記憶。守られていた記憶。

それら全てが、「商品として管理されていただけ」という冷たい事実に塗り替えられていく。



「あ、あぁ……あああああっ!!」



リアが頭を抱え、その場に崩れ落ちました。



信じていた「愛」が、最も醜い「欲」だった。

その絶望が、彼女の幼い心を粉々に粉砕しました。



「……痛い? 現実は、いつも残酷」



アズールは満足げに頷き、再び指を鳴らしました。



すると、崩れかけた幻影が修復され、両親の顔がまた「優しい笑顔」に戻りました。



「でも、ここなら修正(リライト)可能。……選択の時、リア」



アズールは、悪魔のような慈愛で手を差し伸べました。



「……外は、不潔。傷つくだけの現実(ノイズ)。……ここで永遠に、父と母に愛されるのが……正解(ハッピーエンド)



「う、うぅ……っ!!」



リアは、泣き腫らした目で私を見ました。

そして、震える手で――。



「……おとうさん、おかあさん……!」



彼女は私――現実――に背を向け、アズールの作った「優しい嘘」の方へと駆け出したのです。



「リアッ!!!」



私の絶叫も虚しく、彼女は自ら檻の中へと戻り、その扉を閉ざしてしまいました。

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