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第3節:琥珀色の罠
「……誰かいるのか?」
ヴェールさんが短剣を抜き、音もなく階段を降ります。
私たちは書架の陰に隠れながら、声の主の元へと近づいていきました。
『――むかし、むかし。あるところに、とても幸せな家族がいました』
『おとうさんとおかあさんは、可愛い娘を何よりも愛していました。世界が滅びても、この子だけは守ろうと誓いました』
その声を聞いた瞬間、リアの肩がビクリと跳ねました。
「……え?」
「リア?」
『ある日、悪い事故が起きて、おとうさんとおかあさんは離れ離れになってしまいました。でもね、二人は最期まで祈っていたのです。愛する娘が、いつか帰ってくることを』
リアは、何かに操られるように、私の手を離して駆け出しました。
「リア、待ちなさい!」
私が慌てて追いかけたその先。
最下層の円形広場に、その人はいました。
山積みにされた本の上に腰掛け、一冊の絵本を開いている女性。
ボロボロの白い布を纏い、慈愛に満ちた瞳でこちらを見上げる狂信者。
「……遅かったですね。迷子の羊――」
アズール。
地下水路でリアの心を壊しかけた、あの女が微笑んでいました。




