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色彩搾取の灰色世界で、不器用な魔女は鉄の騎士に命を捧ぐ 〜クロマティック・ウィッチ〜  作者: w.t.
18章:碧(あお)き沈黙の都、ガラスの揺り籠

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第1節:海のない世界の海

嫉妬の森を焼き払い、未だ煙の(くすぶ)る荒野を抜けた先に広がっていたのは、世界の果てのような光景でした。


灰色の大地が唐突に切れ落ち、その先を、鉛色の巨大な水面が埋め尽くしていたのです。


海と呼ぶには、あまりに静かすぎました。

波ひとつなく、鏡のように曇天を映し出す、死んだ水溜まり。


かつての大陸の窪地に、雨と地下水が何百年もかけて溜まり続けた、巨大な内陸湖です。


「……ここが、沈んだ図書館のある場所か」


助手席で、ヴェールさんが包帯を巻いた左腕をさすりながら呟きました。


彼の顔色はまだ悪いですが、森での一件以来、私を見る目にあった「怯え」や「値踏み」の色は消えていました。

代わりに宿ったのは、同じ地獄を見てきた者同士の、奇妙な「連帯感」。


私たちは共犯者。

あの腐った森を焼き払い、過去を断ち切った放火魔同士ですから。


「マシロおねえちゃん、みず! おみずがいっぱい!」


リアが窓に張り付き、目を丸くしています。

彼女は生まれて初めて見る大量の水に、恐怖よりも好奇心を刺激されているようでした。


その瞳は、水面と同じくらい澄んでいて、これから訪れる残酷な再会など知る由もありません。


「……結晶の反応は、この底からです」


私は右肩を、祈るように強く押さえました。


黒い結晶の中に、赤、黄、緑の三色が毒々しく渦巻くその痣は、肩の峰を越え、鎖骨の際で、息を潜めるように止まっています。

黒い血管が蔦のように肌を這い、私の命の時間を刻一刻と削り取っている。


けれど、その痛みが今、目の前の水面に向かって、静かに、深く脈打っていました。


そこにあるのは「青(哀しみ)」。


激しい怒りでも、焼けるような欲望でもない。

深く沈み込むような、冷たくて重い引力。


私たちは湖のほとりに鉄の柩(てつのひつぎ)を止めました。


水面から突き出ているのは、巨大なガラスのドームの頭頂部だけ。

かつては図書館の天窓だった場所でしょう。


入り口は口を開けた巨大魚のように、私たちを暗い水底へと誘っていました。


「……行くぞ。酸素供給機なんて上等なモンはねぇ。肺が潰れる前にカタをつける」


ヴェールさんが短剣を腰に差し、先頭に立ちました。


私はリアの手を握り、その冷たい湿気の中へと足を踏み入れました。

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