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色彩搾取の灰色世界で、不器用な魔女は鉄の騎士に命を捧ぐ 〜クロマティック・ウィッチ〜  作者: w.t.
17章:緑の森(嫉妬)

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第4節:泥の中の全速力

私たちは泥だらけの森の中を走りました。

一点の曇りもなかった白いコートの裾が、一瞬でどす黒い泥に染まります。


ヴェールさんが先頭で短剣を振るい、迫りくる蔦や枝を切り裂きます。

私はリアを背負い、右腕の魔力で足場を固めながら、その後を追いました。


「待てぇぇ! 行くなぁぁ!」


「私たちを置いていくのかぁぁ!」


背後から、木人たちの怨嗟の声が追いかけてきます。


地面からは根が伸び、私たちの足首を掴もうとします。

それは物理的な障害というより、粘着質な「呪い」のようでした。


――行くな。変わるな。お前たちも、ここで腐れ……。


「うるさいッ!!」


私は足首に絡みついた蔦を、素手で引きちぎりました。

右腕の痣が熱く脈打ちます。


私の「黄(強欲)」が叫んでいました。


(誰があなたたちなんかにあげるものですか。私の時間は、私の命は、アイゼンのためのものよ!)


「はぁ、はぁ……! マシロ、あそこだ!」


視界が開け、森の中心部に出ました。

そこには、天を衝くほどの巨大な枯れ木が一本、鎮座していました。


葉は一枚もありません。

その代わり、幹の至る所に、緑色に発光する巨大な腫瘍のような結晶が埋め込まれています。


「緑の色相結晶」。嫉妬の心臓。


大樹の根元には、何百人もの「住人」が癒着し、結晶から滴り落ちる緑色の雫を(すす)っていました。

彼らは私たちを見ると、一斉に顔を上げ、口を歪めました。


「来たね、ヴェール」


中央に埋まっていたのは、あの老婆でした。

彼女は大樹の一部となり、結晶の守護者と化していました。


「その美しい娘の『赤』と『黄』……。それを捧げれば、私たちはもっと若返ることができる。大樹様ももっと輝く!」


老婆の号令と共に、大樹の枝が鞭のようにしなり、私たちに襲いかかってきました。


「くそっ、キリがねえ!」


ヴェールさんが短剣で応戦しますが、切っても切ってもすぐに再生します。

彼らの生命力は異常でした。他者の命を吸い、嫉妬を糧にする限り、彼らは無限に再生するのです。


「マシロおねえちゃん、うしろ!」


リアの悲鳴。振り返ると、私の背後からも鋭い根が迫っていました。

避けきれない――!


ザシュッ!!


鈍い音がして、私の目の前にヴェールさんが割り込みました。

彼の左腕に、根が深々と突き刺さっています。


「ぐ、ぅ……ッ!」


「ヴェールさん!?」


ヴェールさんは脂汗を流しながら、それでも短剣を離しませんでした。


突き刺さった根を通して、彼の身体から急速に「色」が吸い出されていきます。

彼の肌が、土気色から灰色へ、そして透明に近い白へと変わっていく。


「あはは! いい味だ! 色漏症のくせに、いい色を隠し持ってるじゃないか!」


老婆が嘲笑います。


「さあ、寄越しな! お前の命も、未来も、全部私たちの養分になりな!」


ヴェールさんが膝をつきました。彼の命が、枯渇しかけています。


「……ヴェールさん、手を離して!」


「うっせぇ……! 離したら、お前らが……串刺しだろ……!」


彼は震える手で根を掴んだまま、ニヤリと笑いました。

その顔は、死にかけているのに、どこまでも不敵でした。


「……勘違いすんなよ、ババア」


「あぁ?」


「俺は『色漏症』だ。……漏れるってことは、逆流もしやすいってことだぜ?」


ヴェールさんが、右手の短剣を、自分の左腕ごと根に突き立てました。

短剣の刀身が、禍々しい紫色の光を放ちます。


「テメェらの腐った色なんざ不味くて食えねえが……。『毒』を流し込むくらいはできるんだよッ!」


ドクン!!


ヴェールさんの身体を媒介にして、短剣の呪いが大樹へと逆流しました。

それは「奪取」ではなく「汚染」。


彼がずっと抱えてきた自己嫌悪、虚無、そして世界への反逆心。

そんな黒い感情が、純粋培養された「嫉妬」のネットワークにノイズとして混入したのです。


「ぎ、ぎゃあああああッ!?」


老婆が絶叫しました。


「なんだこれ!? 苦い! 辛い! 痛いッ!」


大樹全体が痙攣し、襲いかかっていていた枝の動きが止まります。


「今だ、マシロ! 大樹の核をブチ抜けェッ!!

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