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色彩搾取の灰色世界で、不器用な魔女は鉄の騎士に命を捧ぐ 〜クロマティック・ウィッチ〜  作者: w.t.
17章:緑の森(嫉妬)

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第3節:隣の芝生は青い

「待ちなさい」


私は、ヴェールさんの首根っこを掴み、力任せにシートへ引き戻しました。


ドン! と背中を打ち付け、ヴェールさんがハッと我に返ります。


「……あ? 俺は、今……」


「この森の空気に当てられたのね。しっかりして、この三流詐欺師」


私は冷たく言い放ち、窓の外の老婆を睨みつけました。

右腕の「赤」と「黄」が、不快感でチリチリと燻っています 。


「安息? 楽園? ……嘘つきですね」


私は窓ガラスに掌を押し当てました。


「あなたたちの目は、全然笑っていない。……ヴェールさんを見て、(うらや)ましくて仕方がない顔をしているわ」


図星だったのでしょう。

老婆の顔から、穏やかな仮面が剥がれ落ちました。


「……ああ、そうさ。羨ましいねぇ」


老婆の声が、地の底から響く怨嗟へと変わりました。


「私たちは根を張り、動けなくなった。なのに、どうして一番の落ちこぼれだったヴェールが、五体満足で外を歩いているんだい?」


「どうして、あんなに綺麗な車に乗っているんだい?」


「どうして、そんなに美しい娘を二人も連れているんだい?」


ザワザワ、ザワザワ……。

森全体が揺れ始めました。それは風ではなく、無数の住人たちの「嫉妬」の震えでした。


「ズルい。ズルい。ズルい!」


「お前だけ幸せになるなんて許さない!」


「引きずり下ろせ! 根を張れ! 私たちと同じ泥人形になれぇぇッ!!」


ドゴォォォン!!


地面が裂け、巨大な根が槍のように突き出してきました。

鉄の柩が激しく突き上げられ、横転寸前まで傾きます。


「きゃあああっ!」


「チッ、やっぱりこうなるかよ!」


ヴェールさんが正気を取り戻し、素早くハンドルを切ります。

しかし、タイヤはすでに泥濘と蔦に絡め取られていました。


バキバキバキッ!


無数の枝が窓ガラスを叩き、車体に巻き付いてきます。

彼らは私たちを殺すつもりはありません。ただ、車ごと地面に縫い付け、永遠にこの場所から出られないようにしようとしているのです。


「足を引っ張ることにかけては一流だな、故郷(クソタレ)の連中は!」


ヴェールさんが悪態をつきながらアクセルを踏み込みますが、車は軋むだけで動きません。


「マシロ! どうする!? 焼くか!?」


「いいえ、森ごと焼けば……猛烈な煙と蒸気で、私たちも巻き添えになります!」


この森は湿度が高すぎます。下手に「赤」を使えば、水蒸気爆発か、あるいは不完全燃焼の煙で全滅です。


それに、私の直感が告げていました。

この森の本体……「緑の色相結晶」は、この嫉妬の根源にあると 。


「……ヴェールさん。結晶の場所は分かりますか?」


「ああ……森の中心にある『大樹』だ。あいつらが養分を吸い上げている親玉だ!」


「なら、走りますよ」


私はドアを蹴り開けました。

むわっとした熱気と、腐敗した甘い臭いが車内に雪崩れ込んできます。


「え?」


「車は置いていきます。……走って、引きちぎるしかないわ!」


「冗談だろ!? この『柩』を捨てろってのか!?」


「ここで根を張らせるわけにはいかないんです! 私が道を切り開きます。ヴェールさんは先導を!」


「……クソが、分かったよ! あとで新車を買い直させなきゃ割に合わねぇからな!」


ヴェールさんは短剣を抜き放ち、外へと飛び出しました。

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