表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/29

神の仕事(プリミーティヴ視点)

 彼女はぱちりとまばたきをした。

 それだけで、望むものが見える。初めに見たのは日本に返した少女、紗希だ。

 あれからしばらく時が経っているが、彼女は暴力を振るわれたことがトラウマになっていて、登校拒否して部屋に閉じこもっている。

 しかし、家族が根気よく説得しメンタルクリニックへの通院を始めたようだ。


 彼女の未来が明るいものになるかは彼女次第だが、彼女を見捨てない者がいる限り、大丈夫だろう。

 次の人間へ視点を移す。


 ミサに送って貰った礼司だ。彼はちゃんと登校しているが、周囲には遠巻きにされている。

 美織が電車に飛び込んだ事件が広まったからだ。

 電車に飛び込んだはずの彼女の遺体はなく、監視カメラの映像だと電車に接触する前に消えている、なんて噂もあって、恋人の礼司が好奇の目に晒されている。


 ただ、彼もまた孤独ではない。言葉はなくとも寄り添ってくれる友人や家族がいる。

 だから、彼もまた、大丈夫だ。今は暗澹たる気持ちでもいつかは乗り越えられる。


 続いて、少し考えてから美織の両親のことも見てみた。

 今回の件に直接関係はないが、どれほど影響を受けているか、確認する必要があった。


 美織は電車に飛び込んで行方不明になったことで世間に注目された。彼女をネタに怪談ができたり、異世界転移したなんてプリミーティヴからしたら真実の与太話が流行ったのだ。

 両親は否応なくそれに巻き込まれて、ときにマスコミよりも恐ろしい一般人によってSNSにプライベートが公開され、美織をネグレクトしていた疑惑まで知られてしまった。


 彼らは裕福なので、海外に移住して逃げた。

 逃げられるなら問題なしと何もしないことを決める。

 大過はないようだと満足して一旦異世界を覗くのをやめた。


「……また、人の世界を覗いていたのですか?」

「あら、ジュルネ。そうよ。だっておもしろいんですもの」

「ぐぁっ、ちょっと動かないでください。痛いんですよ!」

「家具のくせに口答えするなんて、生意気な椅子だわぁ」

「ちょ、いた、やめ、やめろ!」


 尻を跳ねさせるとジュルネが痛がり、喚く。そんな口を彼女にきくといつもなら夫に締め上げられるのだが、今はいない。

 マタンの後任でソレイユの守護神になって貰ったので、しばらく忙しくしているのだ。


 夫は不在にするからと手製のクッションを彼女に渡して行った。表はふわふわで大層座り心地が良く、裏にはびっしりつぶつぶした突起のあるクッションだ。

 ジュルネに直接座らずこれを敷けということだろう。

 異世界にある健康サンダルに似ていて体に良さそうだ。確か不健康だと痛いらしいので、痛くなくなるまでしっかり使ってやろうと思っている。


「ジュルネは人の世界見るの嫌いよね〜。そんなだから未来もよく見えないのよ?」

「き、興味ないのでっ! っ! グリグリするのやめませんか!」

「え〜。やめなーい。ライラは人間大好きなのに。知ってる? 趣味が合わないと恋ってうまくいかないのよ?」

「そ、そんな、ことは……」

「あるのよ〜。まぁ、あなた千年くらいライラの大好きなバドルの民を虐め倒したからね〜。もう趣味とかそういう問題じゃなく嫌われてるわ〜」

「……」

「こら、低いわ」


 心が折れたのか、気力が折れたのか、ジュルネは蹲って丸まる。軽く叩いてみたが反応はないので仕方なく放置する。


 ライラのことを放置してしまったのは彼女にも非がある。当時は結婚したばかりで浮かれに浮かれていたのだ。

 何事にも無関心なジュルネが唯一執着していたのがライラだったから、まさかこんな拗らせ方をするとは思ってもみなかった。


 ミサが訪ねて来るまで不利益を受けてしまったバドルの民にも申し訳ないことをしてしまった。

 消滅しかけていたライラもすっかり元気を取り戻しているらしい。一時的に補佐を命じたミサが大変上機嫌で報告してくれた。

 あくまで一時的な出向なのだが、もう二度と戻って来なさそうな様子だった。

 次の試練の時は他の大陸で百年後なので、それまでには戻ってきてほしいものだ。


 プリミーティヴとしては、能力的に主神をできるのはジュルネしかいないので、彼の安定のためにライラとうまくいってほしかった。

 しかし、こればっかりは外野が何をしても無駄だ。ジュルネが自分で頑張るべきことである。

 最低千年は彼女の椅子をやって貰うつもりなので、何をするにもそれからだが。


 ジュルネがこれからどうしようと、ライラが彼をどう思おうと、ほかの神が何をしようと、彼女は妨げることはない。


 そして、それは人に対しても同じだ。

 これから先、もし戦争が起きて地上が地獄に成り果てたとしても、彼女はきっと、何もしない。

 地獄を作ったその手で地上に楽園を築き上げることも彼らにはできると、知っているからだ。もしかしたらの、未来の話だが。


 いつか来る神という(しがらみ)のない世界で、彼らがどう生きていくかがとても楽しみで、同時に残念でならない。

 この目で直には見れないからだ。


 ぱちりとまたまばたきをする。

 見落としていた家族の姿が映って、彼女はふわりと微笑を浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ