第41話「黄金蛮勇、堕つ」
デモニカをバックに、君臨するかのように空に浮かぶ、グラングジョー。
対するは、デルタクローズとガイストパンドラー。
「………敵の大将のお出ましってわけか」
額に汗を浮かべつつ、誤魔化すようにニヤリと笑う刃。
グラングジョーの強さは、十里木の戦いで知っていた。
セイグリッターをも圧倒する強さを。
だがこれはチャンスとも言えた。
今のウィーズは、ほぼヴォルガンが実権を握っている。
なら、それを倒せばウィーズは統制を失う。
正直、デルタクローズでグラングジョーに勝てるとは思えない。
だが、こちらにはほぼ同じ技術で作られたガイストパンドラーもいる。
やるなら、今しかない。
「やるぞ皆!奴を倒して、この戦いに終止符を打つ!」
「了解!」
「了解!」
エナジートマホークを構え、デルタクローズが飛び立つ。
平和を脅かす侵略者、その大本を仕留めに。
「………攻撃目標、グラングジョー!」
ブラッディランサーを構え、ガイストパンドラーが飛翔する。
新たなるマスターの命令に従い、古きマスターを倒しに。
「来やがれやクソ共がァァ!!!」
そんな二機を完膚なきまでに叩きのめす。
その絶体の自信を持ち、ヴォルガンはグラングジョーにメイスを構えさせた。
一対二。
三体のスーパーロボットの戦いの火蓋が、切って落とされた。
………………
東京湾岸を舞台に繰り広げられる、三体のスーパーロボットの決戦。
そこに怨敵が、しかも国の仇がいるというのに、シャルルにはその戦いをモニター越しに見守るしかできない。
彼には、この場に参戦する為のセイグリッターという名の手段がない。
「………そこに、奴が………奴がいるんだぞ………!」
悔しさから、ギリリと歯を食い縛り、拳を握る。
須佐も、そんなシャルルを不憫そうに見守る。
見守るしか、できない。
その時。
『シャルル様!』
聞き覚えのある声が聞こえたと思うと、モニターに見慣れた顔が映った。
デオンだ。
後ろには、興味深そうにデオンを見つめる月子の姿がある。
「デオン?」
『セイグリッターの修理が完了しました!何時でも出られます!』
幸運は二つあった。
一つは、デオンが内蔵している資材や予備パーツが、まだ残っていた事。
一つは、このタカマガハラ基地の整備士達がそれを組み立てられるほど優秀だった事。
『あなた、どんな原理で浮いてるの?ちょっと興味あるな!』
『な、なので早く格納庫に!シャルル様~~!』
迫る月子に身の危険を感じ、デオンが助けを求めるように叫ぶ。
「お友達が解剖されてしまう前に、早く行った方がいいんじゃないかい?」
「………はい!」
須佐の一言に押される形で、シャルルが駆け出す。
その瞳に迷いはない。
あるのは、長年の因縁に決着をつけるという、強い意思のみ。
………………
こちらは二体。
相手は一体。
勝てる、はずだった。
「おいおいこんなモンかぁ?地球のロボット兵機ってのはよ!」
地面に叩きつけられたデルタクローズを、グラングジョーの巨大な足が踏みつける。
その巨大な腕には、ガイストパンドラーの頭部が握られていた。
あれから、デルタクローズもガイストパンドラーも、その持てる全てをもってグラングジョーに挑んだ。
だが、どう攻撃しようとグラングジョーには傷一つつかず、逆に叩きのめされた。
「………さてと、ブレードお前よぉ」
晒し上げるようにガイストパンドラーを持ち上げ、頭を握る手に力を込める。
「最後に聞いてやる、何故俺達を裏切った」
脅しをかけるように、ブレードに言い放つヴォルガン。
こちらが有利な状況故の、余裕を持っての行動だった。
だが、対するブレードは。
「………あんたが俺を裏切ったからだ」
「何?」
「先にあんたが俺を捨てたからだ、だからこうして新しい主人に使えている」
ブレードが、相変わらず淡々と言う事は、まったくの正論である。
そもそも、最初にブレードを捨て駒にしたのはヴォルガンである。
だが、ヴォルガンにはそれが自分への無礼に聞こえた。
「………あーそうかい、だったらテメェは死ねや」
グラングジョーが、ガイストパンドラーにビームランチャーを突きつける。
その銃口に、光が灯る。
ブレードは、ビームランチャーの着弾と同時にガイストパンドラーのエネルギー炉心を暴走させ、大爆発によりグラングジョーにダメージを与えようと考えていた。
使命を果たせないなら、せめて一矢報いようと。
心の中で響に別れを済ませ、ガイストパンドラーの炉心の出力を上げようとするブレード。
だが、その作戦は果たせずに終わる。
その理由は。
「させるかぁぁぁぁ!!」
タカマガハラ基地のカタパルトが開き、そこから突撃する閃光。
それはがら空きになっていたグラングジョーのボディに体当たりを炸裂させ、その衝撃でガイストパンドラーを解放させた。
「ぐぬぉ?!」
吹き飛ばされたガイストパンドラーは、地面に激突する寸前でなんとか体勢を建て直し、睨み付けるように上を向く。
そこに立っていたものは。
「………あのクソ貴族!」
そこに居たのは、他でもないセイグリッター。
ジャンボフェニックスと合体し、スカイセイグリッターの姿となって、グラングジョーに体当たりをしたのだ。
「………シャルルか」
「ごめんブレード、こいつは僕の相手だ」
通信でブレードに一礼をすると、シャルルはモニター越しにグラングジョーを睨む。
一方的にやられた十里木での戦いと違い、基地の整備士達も修理を手伝ったセイグリッターは万全の状態で、シャルルも冷静でいる。
「………ヴォルガン、これは王族として恥ずべき事だ、だが、あえて言おう!」
しかし、故郷の、家族の仇であるヴォルガンを倒したいという感情までは変わっていない。
その静かな怒りを込め、シャルルはヴォルガンに向けて言い放つ。
「復讐を果たす為に!お前を倒すッ!!」
瞬間、レーヴァテインが射出され展開。
スカイセイグリッターの手に握られる。
そして光波推進システムを全開にし、スカイセイグリッターはグラングジョーに向けて突撃する。
「調子に乗るなよクソ貴族がァァァ!!」
対するグラングジョーも、メイスを構え、スカイセイグリッターに向けて飛び立つ。
直に上空で、力と力がぶつかり合い、花火のようにいくつもの火花が散った。
「食らえッ!」
その一瞬の隙を突き、スカイセイグリッターがグラングジョーに向けて、レーヴァテインの一撃を叩き込もうとする。
それはグラングジョーの金色の装甲を切り裂く………はずだった。
「効くかよォ!」
レーヴァテインの刃が叩き込まれる直前、グラングジョーのボディを紫に輝く光の膜のような物がおおった。
バリアである。
「何ッ!?」
それは、レーヴァテインの一撃を軽く受け止め、弾いた。
ジャンボフェニックスと合体した事により、出力は上がっているはずなのに。
「効かねェんだよクソ貴族がァッ!」
「がはあっ!」
逆に、グラングジョーのメイスが振るわれ、スカイセイグリッターのボディを打つ。
その衝撃は凄まじく、スカイセイグリッターはホームランボールがごとく、海の方へと弾き飛ばされる。
その時、弾き飛ばされたスカイセイグリッターを、二機の機影が受け止めた。
「大丈夫か、シャルル君!」
「ブレード!刃さん達も!」
それは、ガイストパンドラーとデルタクローズ。
セイグリッターの体勢を建て直させ、三機のスーパーロボットが並び立ち、グラングジョーを睨む。
数ではこちらが上だが、戦力も性能もグラングジョーの方が遥かに上。
この強敵を前に、一体どう戦えばいいのだろうか。
『シャルル、少しいいか?』
すると、ブレードが、シャルルに通信を入れてきた。
『これは憶測だが、奴は恐らくビーム砲とシールドを同時には使えない』
「えっ?」
先程までブレードと刃達が戦っていたのだが、その最中、奴はビーム砲とシールドの同時使用はしなかった。
もしそれが本当なら、攻撃中はグラングジョーは無防備の状態になる。
『奴がビームを使っている間、なんとかして懐に飛び込めば………』
「………あいつを倒せる!」
圧倒的な力の差に若干諦めが浮かんでいたシャルルの表情に、再び希望が戻ってきた。
「訳の解んねぇ話してんじゃねえぞゴラァッ!!」
痺れを切らしたヴォルガンにより、グラングジョーのビーム砲が火を吹いた。
それは三機のスーパーロボット向けて飛ぶが、着弾の寸前で三機は散開し、回避する。
「弱点は解ったんだ!行くぞ!」
再び、スカイセイグリッターがレーヴァテインを構え、グラングジョー向けて突撃する。
グラングジョーもメイスでそれを受け止め、再び始まるつばぜり合い。
「パワーがダンチなんだよォ!」
「ぐうっ………!」
だがパワーはあちらの方が上。
じりじりと、スカイセイグリッターが押されてゆく。
そこに。
「弥太郎!」
「OK!ミサイル発射!」
地上にいたデルタクローズより、ミサイルが。
「………当たれ!」
空中にいたガイストパンドラーからはバルチャーミサイルが。
それぞれ、グラングジョーに向けて放たれる。
ヴォルガンがスカイセイグリッターに気を取られていた事により、バリアを展開していないグラングジョーに、全てのミサイルが着弾した。
グラングジョーを倒すまでには至らなかったものの、それはスカイセイグリッターからグラングジョーを弾き飛ばした。
「この野郎………ナメんじゃねえぞ!!」
怒り心頭のヴォルガン。
周囲の敵を一気に仕留めようと、グラングジョーの全身のビーム砲からビームを放った。
ズワォ!と吐き出されたビームは、ビルを焼き、地面のアスファルトを抉る。
「うわっ!?」
「ぐうっ!」
射程圏内いたデルタクローズも、ガイストパンドラーも、ビームの直撃により各パーツが破損する。
だが!
「デオン!ありったけのエネルギーをレーヴァテインに送れ!」
『了解!』
そのビームの雨の中、全エネルギーをその刀身に集中し、グラングジョー向けて突撃する機体があった。
スカイセイグリッターだ!
「うおおおーーーッ!!」
降り注ぐビームを、通常時の二倍になったレーヴァテインの刀身で弾きながら突撃し、それは一気にグラングジョーとの距離を詰める。
「な?!ば、バリ………」
咄嗟に、グラングジョーのビーム放射を止め、バリアを展開しようとするヴォルガン。
だが、時は既に遅かった。
「ヴォルガァァーーーンッ!!」
愛と怒りと悲しみを込め、シャルルは初めて、負の感情を込めた剣を振るう。
それは、無防備となったグラングジョーの装甲に、深々と突き刺さる。
そして。
「地獄に………落ちろぉぉぉーーーーッッ!!」
ドワォ!
爆発と共に、それはグラングジョーの、その肥大化した右腕を切り落とした。
ズジン、と、巨大な右腕が、破壊された街に落下する。
それを背に、エネルギーのほとんどを使い果たしたセイグリッターが、地面に転がった。
………さて、何故グラングジョーはビームとバリアの同時使用ができないか。
それは、そのエネルギーの供給システムに理由がある。
そもそも、グラングジョーは鹵獲された光輝士・ドラグカイザーをベースに、それを改造する形で製造された。
ヴォルガンからの注文であったが、その道のりは難航を極めた。
かつての宇宙大戦時に作られたドラグカイザーは、それ自体が現在のウィーズからすればオーバーテクノロジーとブラックボックスの塊であった。
その上、ヴォルガンからは「高火力にしろ」「強力なバリアもつけろ」と無茶な注文を受けた。
その結果、なんとか注文通りグラングジョーは完成はした。
が、ヴォルガンの要求に答えた結果、エネルギー送信システム等が不安定な機体として仕上がる事となってしまった。
腕が切り落とされた直後、グラングジョーの全身にスパークが走り、各部に小さな爆発が起こる。
エネルギーが暴走しているのだ。
「ふ、ふざけるな!なんで………なんで俺が!」
今まで数々の惑星を破滅させてきた事を棚にあげ、狼狽えるヴォルガン。
何故、自分が死ななければならないと。
何故、ウィーズのナンバー2の自分がと。
「おい!助けろ!誰でもいい、助けろ!命令だぞゴラァッ!!」
いくら叫ぼうと、誰も助けに来ない。
コックピットが緊急事態を知らせる赤に染まり、爆発がコックピットのある頭部にまで上がってくる。
そして。
「嘘だ!こんな事あっちゃいけねぇんだよオオ!!」
一閃。
グラングジョーの全身に光が走ったかと思うと、内側から破裂するかのように、爆炎と閃光が走った。
ズオオ!と轟音を立て、グラングジョーはエネルギー暴走による大爆発を起こした。
ヴォルガンは、最後まで自らの死を受け入れなかった。
だが現実は残酷に、そして因果応報の言葉通りに容赦なく、その虚栄心の塊のような機体ごと、その命を終わらせた。
「はあ………はあ………」
全ての体力を使い果たしたシャルルは、よろよろと立ち上がり、振り向く。
そこには、破壊されてパーツが四方八方に飛ぶ、グラングジョーの最後が見えた。
「………兄さん………」
これで、兄ブライは安心して眠れる。
シャルルの頬に、一筋の涙が走った。




