第42話「戦い終わって」
ふと、刃は小破したデルタクローズに腰掛け、懐に入れたキシリトールガムを噛んでいた。
甘さの後に、キシリトールのスッとした感覚がやってくる。
予想以上にダメージを受けた上に、その上で無茶な操縦もした。
デルタクローズは、もう動けない。
もうすぐ、デルタクローズと自分達ヤタガラス小隊を回収しに、連合軍の部隊がやってくる。
それまでの、時間潰しである。
「俺にもくれないか」
そんな刃に、話しかける声があった。
見れば、そこに居たのはブレード。
彼もまた、突貫で修理したばかりのガイストパンドラーで無茶をした。
状況は刃達と同じ、という訳だ。
「………ほらよ」
「………感謝する」
子供らしくないなと思いつつ、刃はブレードにガムを一枚渡した。
受け取ったブレードは、包み紙を丁重に開くと、ガムを口の中に放り込んだ。
「………苦いな」
「そりゃあな」
頭上で、バラバラというティルトローターの音が響く。
どうやら、迎えが来たようだった。
………………
突如始まった、ウィーズの東京進行。
その結果は、セイグリッターを初めとするスーパーロボット達の活躍により、連合軍の勝利に終わった。
総指揮官であったヴォルガンが、乗機のグラングジョーごと戦場に散ったと同時に、ウィーズの軍勢は一斉にその行動を停止した。
そして、タカマガハラ基地の前まで迫っていた巨大円盤・デモニカの内部に、連合軍の部隊が突入した。
彼らは、その眼前に広がる光景を見て、唖然とした。
デモニカの内部に居た、戦闘員から整備士と思われる、ウィーズの人員。
その殆どが、死んでいたのだ。
内乱が起こったような形跡はなく、死者の全員が、自ら自害したと、後の調査で明らかになった。
上には絶対服従。
上が死ねば、自分達も死ぬ。
その異常すぎる忠誠心に、連合軍の部隊は唖然となった。
こんな奴等を相手に、戦っていたのかと。
………………
デモニカの制圧を終えた歩兵部隊と、ヤタガラス小隊以下スーパーロボット部隊が、その任を終えてタカマガハラ基地に帰還する。
毎度の事だが、カタパルトは慌ただしい。
任務を終えた機体を整備する者。
事後報告を行う者。
こんなに忙しいのは、おそらく初めての事だろう。
それまで、ウィーズが攻めてくるまでは、平和だったのだから。
「ふう………」
仕事を終え、整備ドックへと運ばれてゆくドリルデルタから降り、ぐぐぐと背伸びをする弥太郎。
「………ん?」
見れば、弥太郎の視線の先に降り立ったヘリから、何人かの人々が降りてくるのが見えた。
華やかで際どい衣装に身を包んだ美女達と、みすぼらしい格好をした子供達。
デモニカで生き残っていたのは、彼女達だけだった。
ヴォルガンのハーレムの為に連れて来られた女達と、洗脳して少年兵として利用する為の子供達。
ウィーズの恐怖と暴力による支配から解放された彼女達は、捕虜として捕らえられていたにも関わらず、
憑き物の落ちたような、安心した表情を浮かべていた。
その中に。
「………子供?」
十代ほどの、少女の姿があった。
ハーレムの女達が着るような際どい表情に身を纏っており、少年兵ではないように見えた。
つまり、彼女もヴォルガンのハーレムの為に、他の女達同様連れてこられたという事。
宇宙人とは、地球の、それも日本と比べれば価値観もルールも違うのは百も承知だ。
だが、こんな幼い少女まで自分の色欲の為に貪るヴォルガンの所業を、弥太郎は酷く邪悪に感じた。
現役中学生、高校生のモデルやアイドルはいるが、手を出すのなら話は別だ。
「………あ」
「ん?」
そんな事を考えていると、その少女と目が合った。
「………どうも」
愛想笑いで手を振ると、少女は不思議そうな表情を浮かべたまま、連合軍の兵士に連れて行かれる。
弥太郎の知る限りは、連合軍は善良な組織だ。
酷い目に逢わされるような事はないだろう。
「よっと」
シャルルも、戦いを終えたスカイセイグリッターから、デオンと共に降りてくる。
光と共にシャルルが着地し、デオンがスカイセイグリッターを縮小させ、内部に格納する。
「ふう………」
一仕事を終えたシャルルは、一息つく。
その時。
「シャルル君!」
突然の事であった。
いつも聞いていた声が、自分の名前を読んだのだ。
まさか?
シャルルが声のする方を振り向いた。
そこには、春香がいた。
勝一や早苗、匠の姿もあった。
「み………皆?!」
連合軍の基地にどうして?
シャルルが驚くより早く、春香がシャルルの方に駆け寄ってきた。
「シャルル君!」
シャルルの小さな身体を押し飛ばさない程度に、春香がシャルルに抱き付いた。
「は、春香さん………」
「よかった………シャルル君、無事だ………よかった………!」
春香の瞳から、涙がこぼれ落ちる。
シャルルが生きていた、それも五体満足の姿でという事を、春香は心の底から喜んでいた。
そんな春香の想いを感じ取ったのか、シャルルは優しく、春香を抱き返した。
「シャルル君………シャルル君………」
「はい、春香さん」
「生きてる………生きてるんだね………」
「はい、生きてます」
春香の優しさに包まれ、シャルルは多分、今までで一番、嬉しいと思っていた。
赤の他人であるはずの自分を、ここまで想ってくれる人がいる事に。
「………あのー」
完全に二人の世界に入ってしまったシャルルと春香。
そして、完全に外野状態の勝一達。
「再会を喜ぶのはいいんですけど、そろそろ俺達にも代わってもらえたら嬉しいかなーって………」
「はっ!」
勝一からの指摘で自分が何をしているか気付いた春香は、顔を真っ赤にして、飛び上がるようにシャルルから離れた。
気のせいだろうか、頭からは湯気が上がっているようにも見え、「いい歳こいて何ヒロインぶってんだ私は………!」とぶつぶつ言っている。
その心境は、黒歴史ノートを見られた時の物に近かった。
「にしてもシャルル、無事だったんだな!」
「本当によかった………!」
改めて、無事だったシャルルを前に、勝一達は喜びを隠せない。
彼等もまた、春香とは別の、他人である自分を心配して、ここまで来てくれた者達。
無論シャルルは、彼等にも感動し、感謝していた。
だが一つだけ、疑問に思う事があった。
それは………。
「………でも皆さん、どうして、このタカマガハラ基地に?」
一般人である彼等が、どうしてこのタカマガハラ基地にいるのか。
ここは、地球連合軍の日本支部基地。
デルタ兵機………デルタクローズをはじめとする、様々な連合軍の極秘情報が至る所に存在している。
ましてや、ここは出撃を終えた部隊が次々と帰ってくるカタパルト。
そんな所に、一般人である彼等が、何故こんな所に。
「それはな………」
勝一が話そうとした、その時。
「ちょっと頼んで、入れてもらったの」
彼等の後ろから、呼び掛けてくる声があった。
それは、シャルルも勝一達も知っている声。
「響さん!」
「皆、久しぶり」
そこに立っていたのは、帰還したブレードを隣に連れて立っている、響の姿。
「響も、無事だったんだな!」
「お陰様で」
響の無事を喜ぶ勝一達。
響も、心体共に回復しきったらしく、いつも学校で見せる物と変わらぬ笑顔を浮かべている。
これで、いつもの4班メンバーが集まった。
いつもの日常が戻ってきたように思えたのか、シャルルの顔には安堵の表情が浮かんでいる。
「響さんが頼んだ………?」
「ちょっと、無理を言ってもらってね………」
響の言う所によると、こういう話。
スカイセイグリッター達スーパーロボット軍団が、グラングジョーを倒した頃と同じ頃。
戦闘が収まった東京の一角。
タカマガハラ基地に繋がる検問所に、なんとか基地に入れないかという一団が居た。
勝一達だ。
セイグリッターが連合軍に連れていかれた後、状況が状況だっただけに、タカマガハラ基地への外部からのアクセスはその殆どが繋がらなかった。
その状況で、連れていかれたシャルルを心配して、その安否を伺おうと、戦闘が収まると同時にやってきたのだ。
だが、当然ながら一般人である彼等を基地に入れる訳にはいかないと、検問所の兵士は彼等を足止めした。
警戒態勢が解かれていないから、付近の避難所に向かえとも言った。
その時、運良くそれを基地内の窓から響が見つめていた。
久々に見る友人達の姿に、響は基地を飛び出して、彼等の元に向かった。
そして事情を聞いた響は、諏佐に直談判して、勝一達を基地に入れて貰えないかと頼んだ。
彼等の姿を見れば、きっとシャルルが喜ぶと思ったからだ。
そして、基地内の戦闘機等の物資に手を触れない事を条件に、勝一達はこのタカマガハラ基地への入場許可を得たのであった。
これが、彼等がこのタカマガハラ基地に居る事の理由である。
「………シャルル君?」
ふと、先ほどまで赤面していた春香が、シャルルの異変に気付いた。
見れば、シャルルは肩を震わせて、静かに泣いていた。
「ど、どうしたシャルル?!どっか痛いのか!?」
「い、いえ………ぐすっ」
心配する勝一にそう返すと、シャルルは涙を流しながら、笑顔を浮かべた。
「皆様が………優しくて………ぐすっ」
自分のために、彼等はここまでしてくれた。
勧告が解かれていない=まだ危険な状況にも関わらず、自分を心配してタカマガハラ基地にまで来てくれた。
自分が喜ぶと思い、彼等を基地に入れるよう、わざわざ頼んでくれた。
それが、シャルルには堪らなく嬉しく、心の底から彼を感動させていた。
地球には、彼等のような、他人の為にここまでやれる人間がいる。
この星を、なんとしてもウィーズから守らなくてはならない。
友人達を前に、シャルルは誓いを新たにするのであった。
………………
同じ頃。
タカマガハラ基地・司令室にて。
「どうでしたか、司令官」
「本部の連中は、ようやく奴等が侵略者だと解ってくれたよ」
司令室の人々が、あわただしく戦闘の事後処理に奔走する中、
諏佐もまた、重要な一仕事を終えて、自身の椅子にどっかりと腰かける。
そして手元にある、もうとっくに冷めてしまったコーヒーを一口飲むと、ふうと溜め息をついた。
諏佐が終えた、重要な一仕事。
それは本部や、他国の連合軍に対する、呼び掛けであった。
共に、侵略者ウィーズと戦おうという。
当初、地球連合政府は、ウィーズを侵略者ではなく、遠い宇宙からたまたま地球にやってきた来訪者として認識していた。
だから、東京にデモニカが居座っても、何の対抗も出来ないでいた。
本部より、攻撃を仕掛けられない限りは待機するよう、言われていたのだ。
だが、ウィーズは地球連合政府の想像と違い、邪悪な侵略者であった。
インベイドベムの大群を率い、東京を破壊し、このタカマガハラ基地の喉元まで迫った。
デルタクローズにガイストパンドラー、そしてセイグリッターが居なかったら、今頃どうなっていた事か。
少なくとも、基地の戦力だけでデモニカを迎え撃つのは、無茶と言えた。
スーパーロボット達の尽力により戦いを制した諏佐は、各国の連合軍に対して、ウィーズが敵であるという事を訴えた。
防戦だけではだめだ、こちらも手を打つべきだと。
そして、長い平和の中ですっかり平和ボケした連合政府をなんとか説き伏せ、
ウィーズに対する徹底抗戦を行う事になった。
「司令!大変です!」
諏佐がそんな事を考えていると、オペレーターの一人が、切羽詰まった表情で大声を出した。
「どうした?まさかウィーズが………」
早速ウィーズが、次の行動に出てきたか。
諏佐を始めとする、その場にいた人々の意識と視線が、そのオペレーターに集中した。
そして、諏佐が予想したその最悪の予想は、的中した。
「米国の連合軍支部より緊急連絡!月の裏側に、ウィーズの物と思われる巨大な宇宙船を発見!動いているとの事です!」




