第40話「東京湾の死闘」
重い空気が流れる司令室。
その時。
「緊急事態です!」
沈黙を破ったのは、それまで街に居座るデモニカを監視していたオペレーターの一人だった。
「どうした?!」
何事かと訪ねる諏佐に対し、顔を青くしたオペレーターが答えた事。
それは。
「東京上空の巨大円盤が移動を開始しました!無数の怪ロボットを率いて、こちらに向かってきます!」
「何ィッ!?」
見れば、メインモニターに映るデモニカが、都市部から動き出していた。
その周囲には、出撃させたのであろうインベイドベムの軍団を率いている。
無人の街をインベイドベムで破壊し、焼き尽くしながら向かう先にあるのは、他ならぬタカマガハラ基地。
まっすぐ、ゆっくりとだが確実に、それは破壊を振り撒きながらこちらに向かってきている。
さっきまで、何の動きも無かったというのに。
『………地球人に、そしてそこに居るクソ貴族に告ぐ』
驚く間もなく、メインモニターに砂嵐が走り、切り替わる。
電波をジャックされたのだ。
そして映し出されたのは、いかにも下品そうな、美女を侍らせた男………ヴォルガンの姿。
『俺様はヴォルガン、今現在のウィーズのナンバー2、地球進行を任されてる男だ』
高圧的で、見下すように、そして無礼にいい放つヴォルガン。
その態度に、諏佐も思わず眉を潜め、刃達も不愉快そうな顔を浮かべる。
シャルルに関しては、言わずもがな。
兄の形見とも言えるドラグカイザーを下品に改造した男に向ける笑顔など、持ち合わせてはいない。
『いいか、てめえ等に選べる道は二つだ』
そんな、相手の不愉快さなど関係ないと言うように、ヴォルガンは態度を変えずに話を続ける。
『そこにいるクソ貴族を黙って俺達に差し出すか、それとも俺達に叩き潰されるか、この二つだ』
ヴォルガンが要求してきたのは、シャルルの引き渡しだった。
要求を飲まなければ、武力を行使するとも言ってきている。
『残念ながら俺は短気なんでな、そう長くは待てねぇ、今すぐ答えが聞きたい、答えろ』
高圧的に、ヴォルガンは訪ねる。
シャルルを引き渡すか、戦うか。
しばしの沈黙が流れる。
画面の向こうのヴォルガンを睨み、見上げ、諏佐はその重い口を開いた。
「………我々の答えはただ一つだ」
諏佐の選んだ答え。
それは。
「どんな理由があろうと、我々は戦友を裏切る事も無ければ、無礼な侵略者の要求を飲むつもりはない!」
凛とした態度で、気高く、諏佐は言い放った。
貴様ら侵略者の要求など飲むつもりはない、と。
ようやく言ってくれたかと刃は微笑み、その気高さに、シャルルは感動と尊敬を含めた瞳で、諏佐を見つめていた。
『………そう、かよ』
そして、そんな態度を取られて面白くないのはヴォルガンの方。
彼からすれび生意気極まりないその態度に、青筋を立て、ピクピクと震えている。
怒りが、完全に態度に出てしまっていた。
『だったらお望み通り叩き潰してやるよ!いくら命乞いをしたって、てめえ等は跡形もなくぶち殺す!』
地球人である諏佐達を侮辱する為、ヴォルガンは中指を立てて、捨て台詞のように言い放つ。
そしてヴォルガンの電波ジャックは解除され、メインモニターには元の映像が戻ってきた。
沈黙が流れる。
そして。
「………全軍、攻撃準備!」
諏佐が命令を下した。
今が、戦うその時だと。
「了解!ヤタガラス小隊、出撃準備に入ります!」
諏佐の命令に、待ってましたと言わんばかりに敬礼し、刃達は愛機の待つカタパルトへと走る。
上からの命令は、緊急事態が起きない限りは待機。
なら、ウィーズがはっきりと敵だと解り、この基地に攻撃を仕掛けようとしている、今がその時だ。
「………響、俺はどうしたらいい?」
「うん、ヤタガラスの皆さんと一緒に、ウィーズと戦って!」
ブレードもまた、響の「命令」を受け、戦いに向かう。
今のブレードにとって、もうウィーズはその為に戦う相手ではない。
自分を捨てた物であり、自分と敵対する相手なのだ。
「………僕達も行こう!」
シャルルも、そんな彼等に続こうとした。
だが。
『それは、不可能です』
「えっ?」
『今のセイグリッターでは、かえって邪魔になるだけです』
そうだ、デオンの言うとおりだ。
今のセイグリッターはほとんど破壊されたも同然の状態。
そんなセイグリッターで出ていっても、やられに行くような物だ。
『この基地の整備員の皆さんと協力し、できるだけ早くセイグリッターを動けるようにします!シャルル様は、それまで待機を!』
そう言い残し、デオンは基地の格納庫向けて飛んでいった。
その場に残されたシャルルは、何も出来ない無力さからか、項垂れる。
「気にする事はないさ」
そんなシャルルの肩にポンと手を置き、励ますように笑いかける諏佐。
「人にはそれぞれ、タイミングという物がある、今は皆を信じて待つのも、悪くはないさ」
諏佐のその言葉に、シャルルはほんのりだが、心が軽くなった。
………気がした。
………………
見れば、デモニカに率いられたインベイドベム軍団は、もうタカマガハラ基地のすぐ近くに迫っていた。
空にはホルニッセ、地上にはタオゼントフースが、我が物顔で闊歩している。
港街を破壊し、東京湾をすぐ前に捉えるインベイドベム軍団。
その時、タカマガハラ基地のカタパルトが轟音を立てて開いてゆく。
そして、それを取り囲むかのように、海中より砲台が上がってくる。
有事に備え設置してあった、タカマガハラ基地の迎撃モードだ。
立地が日本の為、海外の基地と比べれば抑え目だが、今はこれでどうにかするしかない。
『総員出撃!繰り返す!総員出撃!』
開いたカタパルトより、インベイドベム撃退の為出撃してゆく戦闘機部隊。
その殆どが、実践経験のないパイロットばかり。
まさか、初の出撃が宇宙人の侵略メカとの戦いになるとは思ってもみなかっただろう。
「よし、俺達も行くぞ!」
そんな戦闘機部隊に混ざり、デルタ兵機も出撃せんとしている。
「スカイデルタ、発進!」
「シャドーデルタ、発進!」
「ドリルデルタ、出撃!」
大空に飛び立つスカイデルタと、ドリルデルタをマウントし飛び立つシャドーデルタ。
「ガイストパンドラー、発進する!」
ガイストパンドラーも、その翼を大きく広げ、大空に飛び立つ。
『ギュガオオオ!』
敵が来た!と言うようにタオゼントフースが背中のビーム砲を放つ。
何体ものタオゼントフースが地上から放つビームは、弾幕となって空の防衛軍の部隊に迫る。
戦闘機が次々とビームを浴び、撃墜されてゆく中、三機のデルタ兵機とガイストパンドラーは、その合間を縫うように飛行する。
「合体だ!」
「了解!」
「了解!」
「ユナイトアップ!フォーメーション・デルタクローズ!!」
スカイデルタ、シャドーデルタ、ドリルデルタが重なりあい、合体する。
爆炎の散る空に、連合軍の誇るスーパーロボット・デルタクローズがその姿を現した。
そして、ズシン!という轟音を立てて、デルタクローズは地上に降り立つ。
脚部のキャタピラが展開し、回転。
デルタクローズの巨体が大地を疾走する。
『ギュゴオ!』
『ギュグググ!』
無限起動を活かして向かってくるデルタクローズを前に、タオゼントフース達は、デルタクローズを仕留めんと背中のビーム砲を撃つ。
しかしデルタクローズは、その全てを回避してみせ、タオゼントフースの軍団と距離を詰めてゆく。
「レールガン、発射!」
そして腰に装備したレールガンを展開。
電磁加速された弾丸を次々に放ち、タオゼントフースの軍団を破壊してゆく。
『グギュオオオ!』
『ギュグググ!』
ならば、と、タオゼントフースはその長い腕を伸ばし、デルタクローズを捕らえにかかった。
無数の放たれた矢のように、何本もの腕がデルタクローズに向かい飛来する。
距離と速度から考えて、回避は難しいだろう。
「だったら………これだっ!」
瞬間、デルタクローズの背部。
シャドーデルタの二つの後翼が射出されるように分離。
取っ手が伸び、デルタクローズの手に握られた。
「エナジートマホーーークッ!どりゃあっ!」
両手に握る戦斧「エナジートマホーク」を、まるで舞うかのように振り回す。
向かってくるタオゼントフースの腕は、その全てに切り裂かれ、叩き斬られ、大地に落ちる。
『グギ!?』
「喰らえぇッ!」
そして、そのままタオゼントフースの大群に突っ込み、エナジートマホークでそのボディを叩き斬った。
密集していたのが仇となり、タオゼントフースは次々と撃破され、砕け散ってゆく。
一機がビーム砲で仕留めようとするも、放たれた光弾をデルタクローズは飛び上がって回避。
代わりに後ろに居たタオゼントフースが撃ち貫かれた。
そして舞い上がったデルタクローズは。
「必殺!スパイラルキィィーーック!!」
光波推進システムを全快にして、放たれるスパイラルキックの一撃。
地面めがけて放たれたそれは、タオゼントフースの軍団を次々と破壊し、地上に爆発の花を咲かせた。
「………やるな」
デルタクローズの猛攻を前に、ブレードが一言漏らした。
何時ぶり………いや、こんな言葉を漏らすほど余裕があるのは、記憶の中では初めてだ。
「………ッ!」
だがそんな余裕に浸る間もなく、ガイストパンドラーを火線が襲う。
空のインベイドベム、ホルニッセの大編隊だ。
『グオオオッ!』
胸のガトリング砲を開き、ガイストパンドラーに対して無数の弾丸を放つ。
「………ッ!」
だがガイストパンドラーは、翼を器用に羽ばたかせ、その全てを回避して見せる。
飛行性能事態は元の姿より低下しており、ホルニッセの方が有利なのにも関わらず、だ。
『グウウッ!』
遠距離戦がダメならば、と、ホルニッセの編隊がガトリング砲を格納し、腕のサーベルを構えてガイストパンドラーに向けて突撃する。
対するガイストパンドラーはブラッディランサーを展開。
ホルニッセの振り下ろしたサーベルを、両方の刃で見事に受けきる。
『グウウッ!』
『グオオオッ!』
ホルニッセと接近戦を演じるガイストパンドラーを、別のホルニッセ数機が遠くから狙っていた。
彼等はガイストパンドラー………それを操るブレードがこちらに気づいていないと考えると、胸のガトリング砲を展開。
ガイストパンドラーに狙いを定めた。
そして。
『………グオオオッ!』
今だ!というように、ガイストパンドラー向けてガトリング砲を発射。
無数の弾丸が、ガイストパンドラーに迫る。
「来るか!」
しかし、ブレードは既に、その事に気付いていた。
そして、ガイストパンドラーと刃を交えていたホルニッセの内一機の隙をつき、ブラッディランサーをそのボディに突き刺した!
『グギイイ!?』
血のようにオイルが噴出する。
そして串刺しにされたホルニッセを、盾代わりにガトリング砲の飛んでくる方向へと向けた。
『グオッ!?』
味方ごと撃つのか?!と言うように戸惑うような様子を見せるホルニッセ。
だが、もう回避も防御も間に合わない。
ズワォ!
ガイストパンドラーに向けて放たれたガトリング砲は、周りに居たホルニッセと盾にされたホルニッセを撃ち貫き、大爆発を起こした。
「………エネルギー、チャージ完了」
そして爆煙が晴れた時、そこにあったのは、胸部のビーム砲にエネルギーを貯め、紫色の光を放たせるガイストパンドラーの姿。
そして。
「ブレスターキャノン………発射!」
グラヴィティストームの代用品として取り付けられた、高出力三連ビーム砲「ブレスターキャノン」が、ホルニッセ向けて放たれる。
仲間を巻き込んで攻撃したホルニッセへの、報いとでも言うように放たれる、紫色の破壊の奔流。
回避する間もなく、それはホルニッセの一団を飲み込み、更にその後ろの、その更に後ろにも居たホルニッセを飲み込んだ。
ズオオオオッ!
あっという間に、空を飛んでいたホルニッセの殆どが、その一撃により葬り去られた。
「すげぇ………こりゃすげぇ!これなら………!」
戦闘機に乗り、戦っていた連合軍のパイロットが、思わず言葉を漏らす。
デルタクローズに、ガイストパンドラー。
この二体がいれば、連合軍は勝てるかも知れない、と。
だが、希望を抱いたその直後。
「………え?」
機体ごと、パイロットは一筋のビームに焼かれ、消滅する。
「何だ!?」
「ッ!」
互いのセンサーに現れた高エネルギー体に、刃とブレードは、その方向を向く。
そこにあったのは、もう目と鼻の先に迫っていたデモニカ。
そして。
「よぉクソ地球人、そして裏切り者………てめえ等をブチ殺しに来たぜ」
ウィーズの獣将軍ヴォルガン。
そして彼の操る、最強のインベイドベム・グラングジョーの姿だった。




