第39話「タカマガハラ基地へ」
しばらくして、地平線の向こうから太陽が顔を出し、ゴーストタウンとなった東京の街を明るく染める。
戦いを終えたセイグリッターとガイストパンドラーを迎えに来たのは、三機のデルタ兵機と、それを護衛に従えた、二機の輸送ヘリだった。
「セイグリッター確認、思っていたより酷い状態だ、これより輸送します」
輸送ヘリは、その下部に備え付けられた牽引用のワイヤーをセイグリッターに取り付けると、ゆっくりと上昇する。
ボロボロになったセイグリッターが、言っては悪いが晒されるように浮かび上がった。
抵抗する様子は見えない。
彼等がセイグリッターにとって敵ではないというのもあるが、シャルルにもセイグリッターにも、抵抗するだけの力がない。
「………ひでぇな、畜生」
ボロボロになったセイグリッターを前に、弥太郎が呟く。
刃も珠江も、共にウィーズの送り込む怪ロボット………インベイドベムと戦っていた戦友がここまで追い詰められた事に、胸を痛めている。
同時に、仕方ないにしても、上の命令一つで戦友を助けに行けない「軍人」としての立場を、もどかしく感じていた。
「………僕達を、どうするつもりだろう」
『最悪、場合によってはセイグリッターを捨てて逃げる事も考えねばなりません』
怪訝そうに、ノイズの走るモニターから輸送ヘリを見つめるシャルルとデオン。
輸送ヘリがセイグリッターを空に浮かせると同時に、三機のデルタ兵機がそれに続く。
地上で待機していたガイストパンドラーも、それに続くように空へと舞い上がった。
「………シャルル君………」
何処かへと持ち運ばれてゆくセイグリッターを、不安げに見上げる春香と勝一達。
彼等には、朝日の向こうへと消えてゆくセイグリッターを、ただ見守る事しかできなかった………。
………………
ウィーズの東京占拠より、約数時間。
そんな事など知らぬと言うように、今日も、朝日を反射し、キラキラと波を輝かせる東京湾。
朝日を浴び、タカマガハラ基地は、東京湾にそのシルエットを浮かべている。
その一角がゆっくりと開き、普段は内部に格納されているカタパルトの姿を露にする。
そこでは、有事に備えていつでも出撃できるよう準備する、戦闘機の整備士と、そのパイロット。
先程ここを出撃した三機のデルタ兵機を待つ整備班と、それを率いる神楽月子の姿。
「………来たぞ!」
整備士の一人が、空を指差して叫んだ。
そこには、朝日に照らされながらタカマガハラに向けて飛ぶ輸送ヘリと、それを護衛するデルタ兵機とガイストパンドラー。
そして、輸送ヘリに吊るされる形で運ばれてくる、ボロボロのセイグリッターの姿があった。
「これより着地します、許可を」
『了解、着陸を許可します』
オペレーターとのやり取りの後、輸送ヘリのパイロットは、着陸の為に操縦桿を倒す。
叩きつけないようにゆっくりと、セイグリッターをカタパルトに降ろす。
普段は戦闘機ぐらいしか利用しないカタパルトだが、幸いにもセイグリッターが収まるだけのスペースはあった。
ずしん、とセイグリッターがカタパルト上に、座るように降りた事を確認し、輸送ヘリ側から牽引ワイヤーが取り外される。
その隣に、三機のデルタ兵機。
逆隣に、ガイストパンドラーが着陸し、跪くように身を屈める。
デルタ兵機のハッチが開き、刃達が。
ガイストパンドラーの顔が開き、ブレードが、それぞれ外に出る。
パイロットが降りたと同時に、整備士達が機体に集まってくる。
兵機が出撃する毎に点検と整備を行うのは、いつの時代でも変わらない。
それが、連合軍の切り札たる試作ロボットと、異星の技術で作られた機体であれば、なおの事。
「………僕達も、降りた方がいいのかな」
『そのようですね』
セイグリッターの額がぼんやりと光り、シャルルとデオンが降りてきた。
整備士の内の何人かが、その異星の技術によるシステムを興味深そうに見つめていた。
カタパルトの床に、スッと降り立つシャルルとデオン。
セイグリッターのパイロットの登場に、その場の視線がシャルルに集中する。
敵意ではない事は解っているが、シャルルにとっては少々恥ずかしい。
「………こうして、顔を合わせるのは初めてだな」
そんなシャルルに、声をかける男が一人。
「俺は刃、草薙刃、スカイデルタ………あの戦闘機のパイロットをしている、よろしく」
「こちらこそ」
刃の差し出した手を、スッと受け止めるシャルル。
流石は王子様と言った所か、こういう社交辞令については妙に慣れている様子。
「俺は鏡弥太郎、ドリルデルタの担当だ、よろしく!」
「私は真奏珠江よ、あのシャドーデルタに乗ってるわ」
続いての弥太郎と珠江の挨拶にも、シャルルは握手で答える。
二人とも正規の軍人なだけはあり、シャルルよりも力強い手をしていた。
「………あっ」
握手を交わした後、弥太郎が、シャルルの後ろでそのまま去ろうとするブレードの姿を見つける。
「おーいブレード!お前も挨拶しろよ!」
弥太郎に呼ばれたブレードは、特に面倒臭がる様子を見せる事なく、シャルルの方にスタスタと歩いてくる。
「君は………」
「ブレードだ」
身構えるシャルルに、ただ自己を紹介するブレード。
ブレードはシャルルより背は低かったが、生身での戦いではブレードの方が“手練れ”である事は、雰囲気で解った。
シャルルは、彼がガイストパンドラーから降りてくる姿を見た。
彼が、今までセイグリッターと何度も刃を交えてきたガイストパンドラーのパイロットであるという事は、もう知っていた。
「………君、ウィーズの人、だよね?どうして僕を………」
何故セイグリッターを助けたのか。
シャルルは、まずはその疑問を投げ掛けてみる事にした。
本来、ウィーズのパイロットであるはずのブレードが、セイグリッターを助ける道理はないはずだ。
「俺はもうウィーズではない」
「えっ?」
「俺は捨てられた、もうウィーズではない」
シャルルの問いに、少し悲しげな表情を浮かべ、ブレードが答えた。
当たり前の事を言うように、淡々と。
「ブレード君!」
どういう事かとシャルルが思っていると、突然、ブレードを呼ぶ声が聞こえた。
シャルルにとってそれは、聞き覚えのある声だった。
その主は。
「響さん!?」
ブレードの元に走ってきたのは、烈華響その人である。
連合軍に保護されたとは聞いていたが、まさかこんな所で再開するとは、シャルルも思ってもみなかった。
「ブレード君、大丈夫だった?怪我とかしなかった?」
「ああ、何もない」
甲斐甲斐しく、まるで母親のようにブレードの身を案じる響。
そんな響に動じる事なく、ブレードは相変わらず淡々と真実を伝える。
この二人は知り合いなのか?とシャルルがきょとんとしながら見ている事に気付いたブレードは、「ああ忘れてた」と言うように、シャルルの方を見て口を開く。
「彼女が、俺の新しいマスターだ」
「………どういうこと?」
ブレードの説明は、あまりにも大雑把すぎた。
困惑するシャルルに対し、口を開いたのは響だった。
「つまり、ね………」
響が言う所によると、こういう事らしい。
十里木での戦いにおいて仲間であるはずのグラングジョー………ヴォルガンが、自分を巻き添えにしてでもセイグリッターを仕留めようとした事から、
ブレードは「とうとう自分がウィーズから捨てられた」という事に気付いた。
ヴォルガンも「これが最後のチャンス」と言っていた事や、これまでも自分のような少年兵が用済みとして捨てられてきた事から、察しがついたらしい。
主を失ったブレードは、何もかもを諦めた。
元々、ウィーズに忠誠を誓う事こそが全てだと教えられて生きてきたのだ。
それから捨てられた今、何をどうすればいいか解らない。
だから、連合軍に何の抵抗をする事もなく捕虜になった。
そんなブレードを前に、響がある提案をした。
「今度は自分に雇われないか」と。
全てを失ったブレードを前にして、放っておけなかったのだろう。
幸い、響の家はそこそこ金があった。
傭兵一人雇うには、十分すぎる金が。
お給料、そして衣食住を引き換えに、ブレードは響という新しい主人を得た。
そして、最初に響から下された命令が「ヤタガラス小隊と協力してセイグリッターを助けて」という物だった。
それを聞き、タカマガハラ基地で応急処置を施されたガイストパンドラーで出撃し、見事セイグリッターを救出。
そして、今に至る、というわけだ。
「まあ、ウィーズと戦うための強力な戦力ではあるが、一応は敵の捕虜、監視用の“首輪”はさせてもらってるがな」
刃の言った通り、ブレードの首には機械仕掛けの首輪のような物がしてある。
これは、連合軍が捕虜に対して使う物で、監視を担当する士官の権限により、電気ショックが流れたり、内部の小型爆弾により“処分”する事も可能となる、少々おっかない物。
そして権限………首輪の自爆装置を握っているのは刃。
ブレードが可愛そうな気もするが、致し方あるまい。
実際、刃達も敵だった時のブレードと対峙している。
「じゃあ、早速行こうか」
挨拶代わりの対面を果たし終わった刃が、シャルルに語りかけた。
「行くって、どこに?」
知らぬうちに動いた状況に、シャルルは少し不安そう。
刃は、肝心な事を言うのを忘れたと、シャルルの質問に対し、笑って答えた。
「君が悪くないと証明しにだよ」
………………
カタパルト部を離れ、タカマガハラ基地内を少し歩いた。
そして、シャルルがブレードや響と共に連れて来られた先。
それは、この基地の全てを統括する、司令室だった。
「シャルル・アマーリアを連れてきました」
「うむ、入りたまえ」
扉がプシュウと音を立てて開き、刃達に連れられたシャルルは、司令室へと入る。
そこには、大きなメインモニターに映る、ウィーズの巨大円盤………デモニカの姿。
そして、コンピューターで街の様子を見ているオペレーター達。
その後部に位置する、司令官用の席の前に立つ、初老の男。
このタカマガハラ基地の総司令官・諏佐武だ。
「君がセイグリッターのパイロットのシャルル君か、私はこのタカマガハラ基地を任されている」
「はい、よろしくお願いします」
シャルルに歩みより、手を差し出す諏佐。
シャルルはそれに答え、二人は握手を交わした。
「………早速で悪いが、君の事を聞かせて欲しい」
「僕の事、ですか?」
「君は何故セイグリッターに乗っているのか、そして、君は何者なのか」
そういえば、彼等はシャルルの事について何もしらない。
これから共に戦うのであれば、知っておく必要はある。
少しの沈黙を起き、シャルルは口を開く。
「………はい」
………シャルルは、自分の事について、全てを話した。
自分が、シャルル・アマーリアではなく、アマデウス星の王子である、シャルル・ルイ・アマデウスである事。
そのアマデウスが、ウィーズによって滅ぼされたという事。
地球にたどり着き、春香の家のお世話になっている事。
………そして、アマデウスに続くウィーズの標的が、この地球に定められている事。
「………なるほど、よく解った」
こんな小さな少年が背負うにはあまりに重すぎる過去に、諏佐は静かに頷く。
刃達ヤタガラス小隊も、哀れみを込めた表情を浮かべている。
「………でも、これでハッキリしました」
そんな中、刃が真面目な表情を浮かべて、諏佐に向かい進言する。
「奴等は………ウィーズは我々の敵です、その敵が街に居座っているなら、叩かねばならないハズです」
刃は、デモニカに対してすぐにでも攻撃をしなければならないと考えていた。
自分達の、人々を守るという使命を果たす為なら、当然の考えである。
諏佐も、このまま街に居座るデモニカを放置するのは危険だと考えていた。
だが。
「………上層部は、相変わらず緊急事態が起きない限りは待機だと言っている、勝手に動く事はできん」
彼等の、連合軍軍人という立場が、それを許さなかった。
上層部は、あくまでウィーズを「単に地球に訪れただけの異星人」だと考えており、ドラッヘとの交戦があってもその意見を変えようとしなかった。
「ぐっ………!」
自分達の組織がここまで平和ボケしていたとは。
目の前に敵がいるのに何もできないもどかしさと、シャルルへの申し訳なさから、刃はその拳をギリリと握った。




