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光輝士セイグリッター  作者: なろうスパーク
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第26話「勇気を胸に」

「地球を………あなたに………」



地球をあなたにあげます。

匠の口からその言葉が漏れようとした、その直前だった。



「………あれ?」



歪む景色の中、一筋の光が走った。



「な………何だ?」



ジャクスの表情に、僅かな焦りが現れる。


光はどんどん輝きを増し、匠の視界を埋め尽くしてゆく。

歪んだ景色が、蒸発するかのように消えてゆく。


そして………。



「そんな所で何やってんだ?」



その一言と共に、匠の意識が引き戻された。

気がつけば、自分は小学校の校舎の裏に居た。


季節は夏だろうか、ミンミンと蝉が鳴いている。

熱い日差しが、校舎の影で遮られていた。


思い出した。


あれは五年生の時の、夏のある日。

家に帰ってもやる事のない匠は、放課後も学校に残っていた。


自分を虐める連中が、部活の為にグラウンドにいる為そっちには行けない。

かといって教室に戻るのも気が引けた。


そこで、匠は影になっていて涼しく、居心地もいい校舎裏に居る事にした。

何をする訳でもなく、ただじっとしている匠。


その時だった。

“彼”が話しかけてきたのは。



「………僕の事?」

「他に誰がいるんだよ?」



不思議だった。

匠は自分が、世界の全てから拒絶されているのだとばかり考えていた。


それなのに眼前の彼は、匠を見ても顔をしかめる事も、嘲笑する事もなく、ただ普通に話しかけてきたのだ。



「暇なんだったら手を貸してくれ!」

「ちょ、ええ?!」



否応なしに、彼は匠の手を引き、駆け出した。

暗い日陰にいた匠を、日の当たる場所へと引き出すかのように。



「今あっちの木にでっかいカブトムシが居たんだ!捕まえるの手伝って欲しいんだ!」

「ええ?!か、カブト?!」



戸惑う匠を、彼は引っ張ってゆく。

そこには、苦しみも、痛みもない。

匠にとって生まれて初めての、悪意のない人との関わりだった。


これが、彼との………秋戸勝一との初めての出会いだった。


そうだ、思い出した。


校舎裏にいた自分を、わざわざカブトムシを捕まえるために連れてきた。


そのカブトムシには結局逃げられたものの、それ以来、勝一は何かと匠と過ごすようになった。


今にして思えば、偶然だったのかも知れない。

だが生まれて初めて、匠に「友達」と呼べる物ができた瞬間でもあった。



………再び、場面は移る。



「私は桐生早苗」

「えっと、響、響麗香」



夏休みのある日、勝一に連れられて向かった先で、早苗と麗香に会った。


早苗は勝一の幼なじみ、麗香は匠のように知り合ったと聞かされた。



「これ、作ってみたの!」



そう言って麗香が、ラップに包んだ一枚の皿を渡してきた。

その中にあったのは、少々歪な数枚のクッキー。



「一枚どうぞ!」

「あ、ありがとう………」



ラップを剥がされ、一枚のクッキーを渡された。

戸惑いつつも、匠はそれを口に運ぶ。


さくっ


甘く、少しだけ、小麦粉の味がした。

一般的に考えて、美味しいと言えるほどではなかっただろう。


それでも、匠が受け取った人生初の贈り物は、とてもとても、甘く感じた。



次に、場面は夏の日差しが眩しい神社の広場から、匠の自室に移る。


勝一達と出会って、一年が過ぎた位。

六年生になった時の事だ。


中学の進学の話になり、勝一は時和中学を受けると言った。

早苗と麗香も、同じ中学に行くと話した。


やはり、友達と同じ中学に行きたいのだ。

そしてそれは、匠も変わらない。


時計の針は、既に寝る時間を過ぎている。

それでも、匠は机に向かうのをやめない。


時和中学の受験に対応した問題集を開き、書かれた問題を解き続ける。


進路指導では、匠の学力では何の問題ないと、先生から太鼓判を押された。

それでも、匠は問題集に向かう事をやめられなかった。


何としても時和中学に受かる。

そして、勝一達と同じ学校に通う。


その為には、合格を確実な物にしなくてはならない。


生まれて初めての事だった。

誰かの為にここまでしようと思えたのは。



「………そうだ」



沈みかけた心が、みるみる浮き上がる。



「………僕には」



あれほど淀んでいた感情が、晴れてゆく。



「大事な人達が居るんだ!!」



それは強大な力となり、匠の感情を揺り動かした。

バチィッ!と火花が散り、今までジャクスが仕掛けてきた全てが吹き飛ぶ。


視界に、元の白い部屋が戻ってくる。

混濁していた感情が、一気にクリアになる。



「………でえいっ!」

「きゃっ!?」



同時に、背後から自身を抱きしめていたジャクスを、匠は突き飛ばした。

そして驚くジャクスに対して睨みをきかせ、口を開く。



「僕は………お前なんかに地球を渡さない!」



その口調は強く、そしてはっきりしていた。

当初の匠とは、まるで別人のように。



「地球には大切な友達がいるんだ!それを、お前なんかの好きにされてたまるか!」



戸惑いと悔しさから表情を歪めるジャクスに対し、凛とした態度で匠は言い放つ。



『緊急事態発生、艦内に侵入者あり』



自身の策略を覆され、唖然とするしかないジャクスに対し、泣きっ面に蜂が刺さるかのような事が起きた。


何ですってと言い返そうとした、その時。



ズワォ!



突如、ジャクスと匠の間を引き裂くかのように、部屋の壁が吹き飛ばされる。

そして、その爆煙の中から現れたのは。



「き………貴様ッ!?」

「船の残留粒子を辿らせてもらったよ、宇宙船の構成物質は地球の大気中では目立つからね!」



そこに居たのは、何度もジャクス達ウィーズの作戦を打ち破ってきた、シャルルだった。

戦闘礼装に身を包み、デオンカリバーを構えたシャルルが、またもやジャクスの前に立ちはだかったのだ。



「さあ、早くこっちに!」

「は、はい!」



シャルルに連れられ、匠は逃げてゆく。



「ま、待てッ………くっ!」



それを追おうとするジャクスだが、爆発に遮られてしまう。



『動力部に引火、このままでは危険です』



どうやら、この場所にたどり着くまでにも内部を破壊して回ったらしく、各部が崩壊してゆく。

もうこの船は限界だ。


ジャクスにも、それは解った。

そして、彼女が下した判断は。



「………私のインベイドベムを出しなさい!機動準備!」





………………





シャルルに連れられ、匠はジャクスの船………ネストダイバーの外へと脱出した。


逃げる二人の背後で、ネストダイバーの各部が火を吹き、爆発する。

強力な外装に守られていても、内部から破壊されたのではひと溜まりもない。



「………あ、あれ!」



爆発の上がるネストダイバーを、匠が指差し叫ぶ。


その先。

ネストダイバーの爆煙の中から、巨大な影が姿を現した。


キノコの傘のように、大きく膨らんだ頭部。

深海のクラゲのように、光の走る顔。


スリムなボディはどことなく女性的で、白を基調に各部に黒いラインが走っている。


ウィーズの機動戦力たるインベイドベム。

その中でも、ジャクスやヴォルガンのような将軍クラスの幹部に与えられる特注の専用機。


ジャクス専用インベイドベム「エトワール」が、その巨大な姿を現した。



「………逃がしませんよ」



モニター越しにシャルル達を捉えたジャクスは、エトワールの巨体を、彼等に向けて進ませる。


地を揺らし、エトワールがシャルル達に迫り来る。



「この先に街に続く道がある、君はそこに向かって、出来るだけ遠くに逃げるんだ!」

「あ、貴方はどうするんですか?」

「奴を止める!」



匠にそう言うと、シャルルはエトワールに向かい走り出す。

その場に残された匠は、少々戸惑ったが、シャルルの言った通りに、遠くへ向けて走り出した。



「来るか!」



エトワールが腕と一体化したプラズマ砲を構え、シャルルに向けて放った。


プラズマを圧縮した青白い閃光が、いくつもシャルルに向けて飛んで来る。

だがやはり、小さい目標に当てるのは難しいのか、一発も当たらない。



「来い!セイグリッター!!」



シャルルがデオンカリバーを構え、叫ぶ。

瞬間光が広がり、ジャクスの視界を埋め尽くす。


ズウンという地響きと共に、セイグリッターがその巨体を現した。



「来い!」



シャルルもセイグリッターを出した。

これで巨大ロボ対巨大ロボ。

条件は互角だ。



「く………ッ!」

「ふぅ………ん」



睨み合う、シャルルとジャクス。

対峙する、セイグリッターとエトワール。


互いの力量と性能を感じているのか、両者は一歩も動かない。



「………オレイユビームッ!」



先に動いたのはセイグリッター。

顔の両サイドの金装飾より、電撃状のオレイユビームを放つ。



「………プラズマシュートッ!」



それに対し、再びエトワールより放たれるプラズマのビーム。

両者は空中でぶつかり、相殺され、火花と共に四散する。



「………ショルダーカッタァーーッ!!」



ならば今度は実体だ。

セイグリッターが肩からショルダーカッターを射出。

ブーメランのようにエトワールに向けて投げつける。



「………プラズマウィップ!」



エトワールのプラズマ砲より、今度は青白い光の鞭が展開。

投げつけられたショルダーカッターを叩き落とした。


弾かれたショルダーカッターが、セイグリッターの背後の丘に突き刺さる。


再び、両者の間に流れる静寂。

まるで西部劇の決闘のように、両者共に動けないでいた。


太陽が、ジリジリと両者を染める。


風が吹き、砂塵が巻き上がる。

そして。



『………やめましょう』



エトワールからジャクスの声が響いたかと思うと、エトワールは構えたプラズマ砲を下げた。

唖然とするシャルルに、ジャクスは続ける。



『………こういう事は、私の美学に反します、この勝負、私の負けという事です』



戸惑いつつも、セイグリッターは構えを解いた。



『………しかし、私はまだ諦めたわけではありません、いずれまた、地球人に挑戦しにやってします』



エトワールの機体が宙に浮く。

セイグリッターの見ている前で、それは空の彼方へと去ってゆく。



『その時は貴方にもご参加頂きましょう、セイグリッター!』



最後にそう言い残し、ジャクスとエトワールは空の彼方………宇宙へと去って行った。



『………追いますか?』

「空の飛べないセイグリッターには無理だよ」



後を追えないセイグリッターは、悠々と去ってゆくエトワールを、地上から見守るしかなかった。

既に日は傾き、セイグリッターの青いボディを、夕日が赤く染めていた………。





………………





脱出した匠は、無事防衛軍に保護された。

後でシャルルも、自分も宇宙人に囚われたと言い、名乗り出た。

そして、事件から数日が過ぎた。



「よぉ」



時和中学の一角にて、匠は以前自分にカツアゲを仕掛けてきた野球部に取り囲まれていた。



「俺たちさァ~お金なくて困ってるんだよねェェ~~ッ」

「だからさァ~恵んでくれないかァ~?」



ヘラヘラと笑いながら、獲物を取り囲んだハイエナのように、匠の周りを囲む野球部員達。


今日も、いつものように気弱な匠から金を徴収できると考えていた。

だが。



「………誰が」

「あァ?」

「誰がお前達なんかに恵んでやるものかーーーーッ!!」



匠が叫んだかと思うと、手に持ったカバンを振り回し、野球部員に立ち向かった。



「ぐわおっ!?」



振り回したカバンが、野球部員の一人に命中。

思いもしなかった反撃に、野球部員達は驚きを隠せない。



「な、なんだこいつ!」

「ちっ、今日は勘弁してやるよ!」



反撃に逢った野球部員達は、蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げてゆく。

そこには、肩で息をする匠が一人残された。



「………なんだ、以外と大した事ないじゃん」



今まで従っていた自分が馬鹿のようだと、匠は笑ってみせた。


あの一件以来、匠の心に勇気が芽生えた。

友の為、侵略者に立ち向かった事で、彼は今までよりも、自分に自信が持てるようになった。



「………行こう」



今日も学校生活を送る為。

そして友と過ごす為、匠はその場を後にした。




………かくして、龍将軍ジャクスの企みは、失敗に終わりました。


いじめられっ子の心の闇を利用するとは、おそるべき侵略者です。


しかし安心してください。

これは異世界のお話なのです。


え?何故かって?


現実のいじめられっ子は、誰かの為に地球を渡さないと思えるほど、余裕のある生活は送っていませんから………。





………………





地球軌道上。

人工衛星の監視の目を掻い潜り、エトワールは月を目指していた。


総統より与えられた「地球を君なりのやり方で手にいれてみろ」という特例は失敗に終わったものの、地球が自分の思ってたより遊び甲斐のある星だと解った。


ジャクスには、それだけで十分だった。


さて、今度はどんな方法で地球を攻めようか?

そんな事を考えながら月を目指していると。



「………なッ!?」



突如、熱源の接近を知らせる警告と共に、エトワールにビームが迫る。


直撃寸前の所で、エトワールは回避。

ジャクスが何かと思う前に、通信に下衆な声が響いた。



『ッハハハハ!ざまぁねえなジャクス!!』

「その声………ッ!」



ビームの飛んで来た方向を見上げる。

そこにあったのは見たこともない異形の機体。

太陽光を反射したその姿は、黄金に光って見えた。



『どうだぁ?俺の専用マシン、ついに完成したんだぜぇ?』

「ヴォルガンッ!!」



そして今通信を繋げている、異形の機体の操り手。

獣将軍ヴォルガン。



『総統から特例が降りたんだぜぇ、てめえが進行に失敗した場合、その場でブチ殺せってなァァ!!』

「何ですって?!」



エトワールに迫る、異形の機体。

全身の砲身よりビームが吐き出される。


エトワールはそれを必死に避ける。

だが弾幕とも言える規模のそれを避け続けるのであれば、当然ながら道は限られる。


そして、異形の機体はそこに向かう。



『いい気分だぜ………今まで俺を散々見下したてめえを、この手で殺せるなんてなァァ!!』



その大出力を活かしてエトワールの前に現れた異形の機体は、片手でエトワールの首を掴む。

そしてもう片方の手についたビーム砲を、エトワールの胸………コックピットに突き立てた。


異形の機体のパワーは、エトワールを大きく上回っている。

エトワールでは、もう脱出はできない。


全てを諦めたジャクスの眼前で、ビーム砲の光が増してゆく。



「………総統閣下、私も所詮、あなたのゲームの駒でしかなかったという事ですね」



自嘲するジャクス。

ビームの光が、その視界を覆う。



「………残念です」



瞬間、ジャクスの意識は途切れた。


エトワールは閃光に貫かれ、大爆発を起こした。

両腕のプラズマ炉心が爆発した青白い光は、まるで宇宙に咲いた一輪の花のようだったという。

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