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穢れなき天使の愛し方  作者: 皇緋那
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第13話 とびたて!ニュージェネレーション・エンジェルズ!

「よし、みなも! 今日も元気にパトロールといこう!」


 今日も明るい声が響く。


 先日の一件があってから、まひるはよく街へ行こうと言い出すようになった。

 みなもやさやと離れないよう一緒に行こうとも言って、ふたりもそれを受け入れる。


 そして、街中では三人の見習い天使が、めるくとまきなだけでは補いきれない小さなことまで解決していく。

 数日も続けていれば顔も知られるようになり、手を振ってもらったり写真撮影を頼まれたりも増えていた。


 あの提案は、まひるなりの、あんなことがあったみなもへの思いやりなのだろう。

 みなもはまだ天使だ、一緒に飛び立とう、というメッセージがこめられているのだろう。

 彼女は素直なようで、ときに恥ずかしがりやであった。


 ありがとう、と人々に感激されるのは、天使としてこれ以上ない喜びである。

 こうして人々に見習いの天使の三人組がいると周知されはじめたまひるたちは、次の天使候補として名前があげられるまでにもなっていた。

 着々と人気や知名度をあげていったのである。


 そうすると、当然それを嗅ぎ付けて群がってくる輩も存在している。


「初々しい天使のたまご……仲良し三人組っ! いいねぇ、そそられるぜ」


 こんなふうに現れるネトリーノおよびゲレツナーは、いつも颯爽と駆けつけた先輩天使に成敗される。

 私のかわいい後輩に手を出させない、という精神のもと、もしかしたら陰から見守ってくれているのかも。


 そうした日々を繰り返し、この日ついに、まひるたちは本隊の先輩にお願いして、きょうはよぞら以外は出動しないほぼ単独パトロールを行うことになった。

 といっても、やることはいつもとなんら変わらないのだが。


 まずは軽く一周、落とし物や道案内など小さな人助けをいくつか繰り返してみる。

 不審なのは、いつもなら必ずといっていいほど遭遇するゲレツナーにいまだ出くわしていないということだ。

 エーロドージアの活動は旺盛になりつつある。

 ほぼ毎日のように天使を狙って現れては、しもべを繰り出し、撃退されている。


 なのに、街にはいっこうに現れる気配がない。

 なにか計画が水面下で進んでいるのか、と思い始める天使もいるなか、突然、けたたましいサイレンの音が響いた。


 市民の避難を促すゲレツナー出現の合図である。

 しかも、聴こえるのは天界社の拠点の方角からだ。

 近隣に出現したのは間違いないだろう。


 天界社にはいま、めるくたち先輩天使が四人もいる。

 だからといって、それだけで大丈夫とも言い切れない。

 心底から嫌な予感がしたのか、特によぞらとさやが先を急いだ。

 みなもの事件があったため、屋内も完全に平気とはいえなくなっていたからだ。


 まひるとみなももそのあとを追いかけて、本社の建物までたどり着く。

 その状況が見えてくると同時に、そこには少女の姿があるとわかる。


 彼女が足場にしているのは巨大な蜘蛛だ。

 建物を中心とし、ドーム状に巣を張り巡らせようとしているらしい。

 ゲレツナーで間違いない。


 そして、少女の姿もまた印象深い。

 身体から触手を伸ばした少女、クシュシュである。

 蜘蛛に巣をつくる指示を出したのは彼女で間違いない。


 巣はすでに、緊急時に展開される対エーロドージアの防護壁を変質させているらしく、ピンク色で半透明な壁があるのが見える。

 なにが起こるかは不明だが、敵はエーロドージアだ。放っておいていいはずがない。


「今すぐに倒さなきゃ」


「そう簡単には倒させない」


 変身した瞬間、エンジェル・トゥインクルは触手に巻き付かれ、振り払おうとしているうちに防護壁に叩きつけられていた。

 どうやら、いつもならエーロドージアやゲレツナーのみを通さないはずが、天使までもが出入りできなくなってしまっている。


 つまり、今クシュシュに立ち向かえる天使はトゥインクルのみ。

 そのトゥインクルもクシュシュに捕まってしまい、必死に抵抗しているが、敵の触手が多すぎた。

 服の中まで入ってこようとするものを止めるのでせいいっぱいで、状況は悪くなる一方だった。


 このままでは、トゥインクルさえも危ない。


 まひるはとっさにみなもの手をとった。

 驚くみなもだが、すぐにまひるの考えていることを察し、次にさやの手をとった。

 最後にさやがまひるに手をのばし、三人の少女が輪になった。


 見習いだって、三人集まれば、きっとなにかを起こせると思ったのだ。


 それぞれの身体を心が駆け巡っていく。

 三人が重ねてきた思い出と過ごしてきた時間が流れ込んで、そのうちのひとつの感情が翼を形成する。

 それは、相手を大切に気持ち。そして、相手を特別に思う気持ち。


 大好き(・・・)だった。


「いくよ、みんな!」


 まひるの背には、まぶしいほどの純白。

 絵画に描かれるような、天使らしく羽ばたくための翼だった。


 みなもの背には、透き通る青。

 氷の彫刻であるような、しかし溶けることのない翼だった。


 さやの背には、やさしく咲いた花の色。

 静かな百合が、戦うための雄々しき竜の姿を得た翼だった。


 衣装の変化も訪れる。

 訓練生の制服が分解されて、かわりに天使の戦闘服がつくられる。

 陽光の橙に、海原の蒼に、陰りの灰。

 そこへ気高さの金色が走り、それが天使のあかしとなった。


 続けてスカートが作られ、髪型にもエネルギーが干渉する。

 後ろでひとつにまとめられていたまひるの髪がほどけ、かわりにサイドテールが可愛らしくあらわれる。

 みなものツインテールはくるくると巻いて、激しき波を表す。

 さやは髪をまとめていたリボンが大きくなって、同時にまとめられている髪もより多くなった。


 最後に手にするのは、戦う意思だ。

 身の丈よりも大きな斧と槍が橙の少女へ。

 澄んだ流れをまとう杖は蒼の少女へ。

 そして、悪しきを刈る大鎌が灰の少女へ。


 それらの行程をもって、ここに、あらたな輝きがみっつ生まれ落ちた。


「照らす翼のサニーブライト! エンジェル・ブライトッ!」


「深き翼のディープブルー。エンジェル・ディープ!」


「……蕩かす翼のファニーファンタジー、エンジェル・ファニー」


「──行こう。私たちなら、飛べるから!」


 敵に向かって飛び立つ三人。

 クシュシュの妨害が差し向けられるが、真っ先に飛び立ったブライトが斧を振るえば触手が切り落とされる。

 さらにはディープの杖から障壁が展開され、触手を弾いていく。

 最後はファニーの大鎌がクシュシュに追い付き、切断までとはいかずとも彼女の本体を捉えていた。


 ファニーと顔を付き合わせたクシュシュ。

 目の前の天使への攻撃への集中を切り換えたのか、自らとファニーを触手で包み、ブライトとディープから自らを隔離しようとした。


「さやちゃ……!」


 杖から水流を繰り出して攻撃しても、触手で固まった球は傷つかない。

 これしかないと思ったディープは、衣装を分解し、手元の衣装にすべてを集めていく。

 触手の海を穿つ波を作り出し、友達のために放つのだ。


「シャークハート☆ウェーブ!」


 水流が目標へ向かい、魚型の形を成して迫っていく。

 牙は触手を破壊し、生じた孔から水が流れ込む。

 それにファニーが応えて鎌を振るうことで球はばらばらとなり、彼女は解放された。


 しかし、やられているばかりのクシュシュではなく、彼女はファニーを残ったわずかな触手でもって投げ飛ばし、防護壁に激突させる。

 触れた瞬間に防護壁が閃光を放って、ファニーは気絶したのかそのまま地面に堕ちていった。


 クシュシュの脅威は薄くなったが、ここからは辛い展開となる。

 すでに衣装を分解してしまったディープ、そして反撃を受けて気絶しているファニー。

 残るゲレツナーとの戦いは、ブライトに託されたのである。


「一撃で決めるっ、シャイニーハート☆レイ!」


 二振りの武器に集められたエネルギーを交差させ、行き交わせることで増幅し、一条の光線として放つ。

 巣ごと蜘蛛の身体を焼き尽くし、その影響を取り去ってゆく。


 光線が止み、まひるがよろめきながら変身を解くころには、巣のあった名残はどこにも残っておらず、内側に囚われていた天使たちも解放される。


 おかげで、はじめての戦闘で出力を上げすぎたまひるがよろめいても、受け止めてくれる相手がいた。


「……変身、おめでとうございます。あなたたちは、一人前の天使になったんですよ」


 それは、リーダーであるめるくだった。

 彼女の口からは、まひるたちは天使の試験に合格した、という報せともいえる言葉が告げられた。


 ──めるくも、まひるたちが天使に憧れている、ということは言うまでもなく聞いている。

 だから、ゲレツナーを倒してくれたねぎらいの意も込めた言葉に、それを選んだのだった。


 ◇


 後日。まひる、みなも、さや──ブライト、ディープ、ファニーの三人は、正式へ正式に配属となった。

 まだまだ変身を遂げたばかりなので、教官のレッスンはまだ続いているが、内容は見習いのときよりステップアップしている。

 ということは、トレーニングのメニューやゲレツナー退治の仕事もまた、さらなる強敵となって立ちはだかってくる。


 でも、三人一緒なら、何も怖くないと思えて。

 時に手をつなぎ、ささえあって励んでいく。

 先輩たちと肩をならべる日を夢みて、どんな苦難も乗り越えていこうと誓いあう。


 三人いっしょに天使になれたことを、三人の誰もが疑わず、運命であるのだと思っていた。

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