バカでヤバいカリスマ天才女
「ああッ?! 何してくれるんだ! 貴重な石なんだぞ!」
「大学の敷地内で拾った石のどこが貴重なんですか! そもそも、サークル室にガラクタの持ち込みは禁止だって言われているでしょう! つうか、さっさと着替えて来てください! 何すか、その恰好は!」
野太い悲鳴を上げて非難の声を上げる変人に、俺は至極真っ当な正論で切り返す。
彼女の背負っていたバックパックを覗いてみれば、他にも拾った石がゴロゴロと入っている。大容量のくせに一割が埋まる程度の石の数しか入っていない。分かるよ、石は重いもんな。と言うか、夏休みの小学生か、この人は。
石の形について熱弁する変人不審者女性をサークル室の別室に押し込んでから、俺は鞄の中身を掃討する。とは言え、ガラクタ同然の石ころたちを勝手に捨てる訳にも行かず、俺は奇人不審者女性がいつも良く座るテーブルの場所にうず高く積み上げるのだった。
その間、琉歌は呆然と立ち尽くしたままだった。
「──やあ。良く来てくれたね、我が後輩よ」
着替え終えた変態不審者が第一印象を取り払うべく咳払い一つして格好つけて見せるが、もう手遅れだと言わざるを得ない。と言うか、積み上げられた石ころの壁によって、女性の姿は目に映らない。
「なんだ、これは。邪魔だね。天音君、これ、捨てといてよ」
ああ、俺の自信作である石垣が……城が崩れていく……。捨てていいなら、どうして拾ってきた。
いそいそと窓から石ころを投げ捨てる俺を他所に、コホン、と咳払いを一つした女性は琉歌に向き直る。
「ようこそ、我が漫画研究会へ。君が、天音君の友人かな? いやしかし驚いた。天音君にこんなイケメンの友人が居たとは。友人を連れて来ると言うからてっきり、イマジナリーフレンドかと警戒していたんだ。その場合、どうやって接するべきか、とね。実体があって何よりだ。そうだ、お茶はいかがかな?」
「い、いただきます……」
失礼な話が聞こえてくるのを耳にしながら石を投げ捨てること、数分。
窓の下に石のお墓が転がる様を見て、「これ、後で管理人に怒られるの俺じゃね?」と思いつつ室内へと振り返る。するとそこには、互いに無言でお茶を啜る二人の姿があった。
ガラクタ集めに留まらない奇行が趣味の女性だが、見てくれだけは琉歌にも引けを取らない。
モデル顔負けの抜群のスタイルと切れ長の三白眼は、見る者にクールを通り越して冷徹な印象を抱かせる。王子様とも呼ばれる琉歌もクールな部類ではあるが、琉歌の場合は偶像のように可愛さの混じる信仰対象だ。だが俺をこうして顎で使う女性は違う。彼女は、一切の混じり気が無い冷徹さを醸し出す容貌で、言うなれば女王の気品が如き空気を放つ。それは彼女に対して無条件で憧憬や畏怖を抱かざるを得ないような、堪らず平伏しそうになる雰囲気を放つ。話に聞く限りでは、教授すらも彼女には頭が上がらないのだとか。
だが、いざ実際に話してみれば、印象はあくまでも印象に過ぎないということが分かる。
彼女はとにかく変わっているのだ。第一印象とさして変わらぬ変人なのであった。
今だって、着替えて来いとは言ったが、死ぬほどダサい柄Tシャツとアニメキャラがでかでかと描かれたブランケットを身に纏って出て来るとは思わなかった。それなりの恰好をしていれば衆目を掻っ攫うなど朝飯前の容貌を持っていると言うのに、この人にはそれに頓着が無い。そんな自然体な姿勢が俺としては接しやすくて、漫研の中では一番話がしやすい相手でもあった。
そんなクールな変人不審者女性は、今も「紹介しろ」と言う視線を痛いくらい向けてきている。琉歌も琉歌で、そんな不審者女を前にどうすればいいのか分からなくなっているようで、俺に助けを求める目線を向けている。
琉歌を連れて来た手前、紹介するのはもちろんやぶさかではないのだが、この人、俺をこのサークルに巻き込んだ時はあんなに意気揚々としていたのに。何だ、この違いは。
俺は俺の分のお茶を要求してから、琉歌に紹介する。
「あー、琉歌。紹介するよ。この人がサークル代表こと、甘楽亜里沙さんだ」
この変人こそが、漫画研究会の代表にして、俺をいいようにこき使う人物である。
「は、初めまして」
「そんなに緊張しなくていいよ。そんなに歳は離れていないしね」
「代表は三回生だけど、もう三回留年してるじゃないですか」
「ハッハァ! 天音君は面白いことを言うじゃないか。でも、それは言わないお約束だろう? 折角の威厳が台無しだよ、まったくもう」
「か、甘楽……先輩?」
突飛な登場に始まり、格好つけてハーブティーなんかを嗜んで「アチチ」と舌を火傷するサークル代表の姿には初めから威厳なんてものは微塵も感じられない。
翻って育ちの良さを感じさせるような一定の敬意を払う様子を見せる琉歌に対して、代表は目を輝かせる。
「おっと。折角の見学者が怯えてしまっているね。私のことは気軽に亜里沙先輩、とか、天音君みたいに代表、って呼んでもらって構わない。なにしろ君は天音君の友達なんだろう? 天音君ってば、漫研という狭いコミュニティの中でさえも私以外に友達が出来ないくらいコミュニケーション能力が壊滅的でね。彼に友達がいることを知って私は一安心しているのさ」
「代表は俺の何なんですか」
「私かい? 私は君のお姉ちゃんだよ」
「勝手に姉を名乗らないで下さい」
代表のこと、勝手に姉を名乗る不審者だと紹介してもいいんですよ。
「今日だって実際に友達の姿をこの目で見るまで信じていなかったくらいだからね」
「俺を何だと思ってるんですか」
信頼と言うか、代表の俺に対する誤解が腹立たしいが、あながち間違っていないからまともな反論が出ない。
俺は自分のコミュニケーション能力は人並みだと自負しているが、馬の合う相手が極めて少ないだけ。だけれども、今になって考えてみればこの漫研でも馬が合う相手が代表のような変人だけなのは俺にも問題があるのかもしれない。
気付きたくなかった真実を覗き込みながら、俺はニマニマと目を細める代表を眺める。
結局、新しく淹れたハーブティーが渋くて角砂糖を五個も六個も入れる情けない大人を見た後で、琉歌に向き直ると、
「か、カッコいい人だね……!」
そこには愚かにも代表に見蕩れる琉歌の姿があった。今のやり取りの一体どこに惹かれる要素があったのか。あの人、眼鏡かければ頭良くなると思ってるタイプだぞ。
「どこが?」
「なんていうか、たたずまいが。いいなあ、僕もあんな大人に──」
「なるな、なるな。代表みたいな人が二人とか、同じ空気吸ってるだけで疲れるわ」
「ハッハッハ! 聞こえているよ、天音君? どういう意味かな、それは」
やかましく高笑いする代表は自分を鏡で見たことがないのだろうか?
漫研に入った時点で他のメンバーが代表の異質さに辟易としているのを見れば俺でなくとも分かる。
まあ、三回留年しているというだけでも代表のヤバさが分かるというものだ。
「どうもこうもないですよ。あなたみたいな人は他人にとって悪影響しか及ぼさないですからね。お願いですから琉歌には手を出さないでくださいよ」
良く言えばカリスマ。悪く言えば詐欺師。
甘楽亜里沙という女性はそういう人だ。
半強制的に漫研に入れられて早三か月。その短い付き合いでも分かるくらい彼女が同年代とは到底思えない風格を漂わせているお陰で、否が応でも思い知らされたというべきか。
俺にとって代表がカリスマだとしても、琉歌からすればネズミ講かもしれないのだから。
「フフッ。そんな手放しに褒められると、こう……股の間が熱くなるというか」
「下ネタですか? やめてください」
「天音が言っても説得力ないよ……」
「いや、ただの生理さ」
「早くトイレ行ってくださいよ。それと、褒めてないですから」
熱っぽい顔をして股間をモジモジさせる亜里沙先輩がバタバタとトイレに向かって行くのを見送った後、部屋には俺と琉歌の二人だけが残される。
「……随分、仲良いんだね」
「どこをどう見たら仲良く見えるんだ? 他の先輩達から代表の世話を押し付けられてるだけだけどな」
「ふーん、そう。僕の目には、美人な先輩に迫られて情けなく鼻の下伸ばしてるように見えたたけど」
なぜか俺を責めるような視線を向ける琉歌。本当になぜだ。
もしや琉歌の奴、亜里沙先輩に一目ぼれでもしたのか? それで俺がライバルになるかもしれないと危惧して……?
確かに代表は琉歌と同じで、人の目を惹き付けて止まない容姿の持ち主だ。スタイルも良いし。男としてそそられない方がおかしいくらいの見た目をしている。
当然、俺も初めは亜里沙先輩の容姿で距離感の近い対応にドギマギしていたし、琉歌の言う通り今も少ししている。外見は一つの器に過ぎない。どれだけ中身が残念だろうと、代表の見てくれが良いことに変わりは無いのだから。そしてそれは逆もまた然り。
それでも、俺が代表に心惹かれることは絶対に無いと神に……、エロ漫画に誓って言える。
「そりゃあ、あれだけ美人に迫られたら鼻の下も伸びるだろ。それに、中身はアレだが、代表が俺の憧れの人であることには変わりないんだからな」
「あ、憧れの人……?」
マッチングアプリで出会った大人の社会人お姉さん、バイト先の先輩そして、漫画研究会の代表である亜里沙先輩。
この三人が俺の好みど真ん中を貫く三銃士であり、同時に尊敬してやまない人物でもある。
社会人お姉さんとバイト先の先輩は言わずもがな外見がタイプで好きで好きで堪らない一方で、亜里沙先輩に関してはまた別のベクトルで尊敬していた。
「あの人、超有名同人作家の『リョナ吉しこ太郎』先生だぞ」
「りょ、りょな……?」
「ほら、二週間くらい前に貸したエロ漫画あるだろ。『水彩』ってタイトルの。引きこもりの幼馴染のところに足しげく通って甲斐甲斐しく世話を焼いてた男の子が、学校の話で自分が告白されたことをポロっと零したら男の子を取られたくなくて幼馴染に犯されて既成事実作らされる奴」
「ああ、そう言えばあったね。女の子が想いを吐露するシーンはちょっと感動的だったやつ!」
リョナ吉しこ太郎先生。
壁サークルに名を連ねる常連、人気の同人作家。
その名が示す通り、普段は登場人物が酷い目に逢う作品を中心に発信している同人作家である。彼女の作品の特徴は、美麗な絵柄と細やかな線のタッチで絶望的なシーンすらも絵画的な演出を醸し出す作風で、エロスとサディスティックを織り交ぜた多くの作品が界隈から高い評価を得ている。
彼女の凄い点は、「リョナ」という一般的ではない性的嗜好を持つ紳士たちのみに刺さる作品でありながらも性癖にマッチしない人たちからも評価を集めている点だろう。
ただ酷い目に逢うだけではない。そこに至るまでの物語や、人物の背景までもを一冊の同人誌で、一話で書き切るという構成力。
先生の作品レビューを覗くと、「エロより人間模様が主題。むしろエロはスパイス」というような文言をよく見かける程に作品としての出来が素晴らしい。
女の子が酷い目に逢うやつが苦手な俺でも、彼女の作り出す世界には引き込まれずにはいられないという異色の世界観こそが、リョナ吉しこ太郎先生が作り出す作品の最たる特徴。
そんな先生が稀に出す純愛本。ただでさえ世界観が好きな先生の、俺の大好きな純愛作品だ。そんな作品を俺が好きにならないわけがない。
そんなこんなで好みが合う琉歌に貸したところ、興奮した様子で感想を伝えてきたのを覚えている。
琉歌の奴もそれを思い出したようで。
「あれは確かに、えっちな漫画というより普通の漫画だったね。感動もしたし」
「良い作品だよな、あれ。願わくば今年も純愛で作って欲しいところだが、逆に稀に出るからこそ価値があるいうか……。オタクのジレンマだよなぁ、これは」
「そういうものなの?」
琉歌にはまだそのありがたみが分かっていないのか。分かるように染め上げるのが俺の仕事というものだろう。
と、そこで代表がトイレから戻ってくる。
「おうおう、天音君ったら。そんなに尊敬してくれているんなら、もう少し私に対する普段の扱いをだね」
「普段の自分の行いを見返してから言ってください」
「ハハッ、痺れるくらい辛辣だなぁ! 今度は本当に濡れちゃうじゃないか」
下らない言い合いを交わしながら荷物を片付けたあと、代表は琉歌に向き合う。
170センチを超える身長と凛とした顔付きの代表と並ぶと、こぢんまりとした琉歌はまるで子供のように見える。
二人して顔が良いため、下手したら姉弟のように見えるかもしれない。
もしかして今この部屋の顔面偏差値めっちゃ高いですか?
偏差値下げてるの俺ですよね。邪魔ですよね。生まれてきてごめんなさい。
「千崎君、と言ったかな? 女の子みたいな顔してるね」
「初めまして。……天音が、お世話になってるみたいで」
「ハハハ、天音君。ここにも君の保護者がいるみたいだよ?」
「俺は子供じゃないんで。琉歌も変に対抗しようとしなくていいから」
二人が向かい合う中、俺は漫研の壁一面が本棚になった棚から、漫画を選んで引き抜く。漫画研究会の名に恥じないくらい幅広い年代の漫画が数多く置かれているサークル室は、いつだって素寒貧の大学生の財布に優しいのだ。
やかましい先輩が居なければ。
いつ来ても代表はここにいるから、多分この人は今年も留年するんだろう。
このままいけば再来年には代表と同級生になるとか、想像するだけでも嫌なんだが。
「サークル見学に来たのなら、ここに学籍番号と名前を記入してくれるかい?」
「あ、はい──」
「ちょっと待った」
「え?」
俺の浅い記憶力でどこまで読んだっけ、とページをパラパラ捲っては読んだような読んでいないような気がして首を傾げるといった行為を繰り返していると、聞き覚えのある会話が聞こえてきて琉歌の手を止める。
もう、あと数瞬でも遅ければ、琉歌は手に持ったペンで書き始めていただろう。
「代表。俺がいる場所で俺に使った手と同じ手を使うのは浅はかじゃないですか?」
「チッ」
この人いま、舌打ちした?
生活能力皆無の代表の世話を焼いてくれている可愛い後輩の俺に向かって、舌打ちした?
なんという恩知らず。この人がリョナ吉しこ太郎先生でなければ、とっくにサークルなんて辞めているというのに。
「琉歌。その見学者台帳、何かおかしくないか?」
「おかしい? いや、特には……。あ、天音の名前もあるよ。ほら」
「いや、おかしいんだよ、その見学者台帳は」
「ハハハ、おかしいところなんてあるわけないだろう? おかしいのは天音君の方じゃないか? 余計なことは言わない方がいい」
分かりやすいくらい額に汗をかく代表。
これが犯人を追い詰める探偵の気分なのだろうか。最高に気持ちが良い。
今の俺は江戸川乱歩にコナン・ドイルも頭を抱える名探偵気分だ。
俺は立ち上がって優雅に室内を歩き回る。探偵ってこういうことするだろ。
「台帳ならなぜ……右側に、しかも人一人分のスペースしか無いんですか?」
「そう言われれば、確かに。普通ならたくさんの人数を記せるように名前と学籍番号だけでいいし、裏表の両面印刷にすればいいのに。……もしかして、学籍番号と名前を書く欄がこんなに大きいのは、何かのフォーマットを引用してるんじゃ?」
「……そ、そうだな。うん、俺もそう言いたかった」
鈍いのか鋭いのか分からない琉歌は、ひょっとしてワトソンなのだろうか。
知ってて俺に言い聞かせているのか。そうなると琉歌は最高の助手であるサンチョ・パンサで、俺はとんだピエロでドン・キホーテだ。
「琉歌、その紙の裏を捲ってみろ」
「裏? 二枚、紙が重なってるけど、なにこれ」
「感圧紙と、入会届だ。見学者台帳に名前と学籍番号を記入すれば、たちまち漫画研究会に入会させられるという、非難されてしかるべき手法だ」
「……どういうことか、説明してくれませんか? 亜里沙先輩」
「うっ、ぐぅっ……!」
いつだって飄々とした態度の代表が、気が付けば壁際まで後退して秘密を暴かれた顔を見せる。脂汗を滲ませて顔を歪ませていても画になるのは、代表や琉歌のような美形だからこそ。
俺がやったらきっと潰れたゴブリンみたいな変顔にしかならないだろうし。
「サークル人数が年々減ってるから、つい……。ほんの出来心だったんだよお」
「大学のサークルにも、高校の頃の部活みたいに部費が出たりするもんなんですか?」
「出るところもあるけど、うちは出ないよ? サークルメンバーから徴収するサークル活動費でやりくりするって感じかな。だからサークルメンバーが多ければ多いほど色々出来るって言うか……。いやまあ、別にお金目当てとかそういうわけじゃないんだよ? ホントなんだよ!」
俺がこの感圧紙と入会届に気付いたのは、何も観察眼に優れているからではない。
実際に俺が同じ手法で入会させられたから気付いたというだけ。
もしこれが本当にお金目的でサークル入会させて年会費を搾取しようとしていたなら即刻大学に通報案件である。これはれっきとした詐欺だからな。
しかし、騙されて入会したとは言え俺は漫研に入って良かったと感じているから代表を責めるつもりはない。けれどもサークル入会する気のない琉歌にまで手を伸ばそうとしたから忠告しているだけだ。
「お金目当てじゃないならなんですか。今ならまだ事情を話してちゃんと謝れば許してあげなくもないですよ。な、琉歌」
「え、僕? 僕は別に何とも──」
「琉歌もそう言ってるみたいなので、さっさと吐いてくださいよ」
「うぅ、仕方ないか……」
よよよ、と泣いた振りをする代表。
女の涙は最強の武器とはよく言ったもので。
嘘の涙だと分かっていても、俺は彼女に近付く足を止めてしまう。
「──なんて、言うとでも思ったかっ!!」
「あ、逃げたよ?!」
「ああ、逃げたな」
代表はすくっと立ち上がり、彼女が出入り口として多用する窓から飛び出して、逃げて行ってしまう。ここが一階だから取れる逃亡手段だ。
開け放たれた窓の外から、「ハ~ハッハッハッハ!」という大学中に響き渡るような高笑いが聞こえてくる。マジで自由な人だな、あの人。
まんまと逃げられた俺たちは呆然と見つめ合う。
「……嵐みたいな人だね」
「俺たちが巻き込まれに行ったみたいなもんだけどな」
「……そんなに僕にこのサークルに入って欲しくなかった?」
「言ってただろ、お前。サークル入るつもりはない、って」
「言ったけどさぁ……」
どこか不服そうに頬を膨らませる琉歌に、俺は首を傾げる。
サークル棟の通過儀礼に憤慨し誓いを立てた数分前のお前はどこに行ったのか。
というかそもそも漫研に入るつもりだったのかも分からない俺には琉歌の考えていることなど分かるはずもなく、俯いたまま手元の入会届に目線を落とす琉歌を眺める。
分からないのであれば聞けばいいと考え、俺は束の間の思考を挟んだ後に声を掛ける。
「琉歌は──」
だけれども。サークルに入りたいのか、と尋ねようと思った瞬間、大学の敷地内に響き渡るかのようにこだましていた亜里沙先輩の高笑いがぶつ切りのように途切れる。
「あ、捕まったな」




