酔って据え膳食わぬは男の恥
代表を抱えた龍丘のように、スタイル抜群の女性をお姫様抱っこするのなら、それこそ画になるものだ。男の俺でも憧れると言うもの。けれど、俺と琉歌の体格差では、荷物のように肩に担ぎ上げる形が一番適していた。幼い頃、ボーイスカウトで学んだファイヤーマンズキャリーとどっちで運ぶか悩んだが、楽な方を選んだわけだ。
それ以前に、骨ばっていない上にやけに柔らかくて華奢な琉歌の体の方が心配になる。こいつ、ちゃんと食っているのだろうか。
「んえへへへへ。あまにぇ」
「何だよ」
「んーん。なんでもない、呼んだだけっ」
なんだこいつ。周囲からは王子様と持て囃されているくせにやけに可愛くてムカつく。
俺の心配を他所に、大広間から部屋までの道中、琉歌は肩に担がれながら俺の名前を繰り返し呼んでは嬉しそうに笑うのであった。
「ほら、着替えるなりなんなり、自分でやれよ」
「あうっ。手伝ってくれないのぉ?」
「手伝うかアホ。風呂先入るか?」
「一緒に入ってくれる?」
「入るかアホ。疲れたから俺が先に入っちまうぞ」
「んう~」
部屋に戻るなり、俺は琉歌の体をベッドの上に放り投げる。
柔らかなマットレスは琉歌の細身の体を軽く跳ね返すのだが、当の琉歌は幼児退行というか、甘えたがるようになって我儘を口にする。
だが酔っぱらいの意見などまともに聞いてやる必要は無いと俺が切って捨てると、琉歌は拗ねたようにベッドに顔を押し付ける。
シーツのサラサラとした感触、アルコールで火照った身体を冷ましてくれるひんやり感に、琉歌は吸い込まれるようにして間もなく夢の世界へと旅立っていく。
叶うのなら俺だってそうしたいのは山々だが、一日中ハイになって疲れた体を温泉で労ってやらないと俺の一日は終われない。
部屋を空けていた間に綺麗に掃除された脱衣所で服を脱ぎ去り、いざ昨日ぶりの風呂へ突入だ。
「はぁ~。やっぱ最高だよなぁ、ここ」
体を流してから足を踏み入れた露天風呂に肩まで浸かる俺は、全身から脱力していくように、長く、そして深く息を吐いた。
風呂は命の洗濯とはよく言ったもので、ほのかに香るヒノキの香りと温泉の匂い。葉擦れと水音だけが支配する静寂に満ちた空間でお湯に浸かっていると、頭の天辺から足のつま先まで解れていくのが分かる。
際限なく心地の良い感覚が溢れてくる。性的快楽とはまた違った快感を覚えずにはいられない露天風呂は、思わずいつまでも入っていられる気がしてくる。爺ちゃん婆ちゃんが温泉にハマる理由が分かったような気がする。
ふと思う。
昨日は家族風呂に入った琉歌はこの風情ある温泉を体験しなくていいのだろうか。こんなところ、滅多に来られないようなところだ。満喫して損は無いだろうに。
明日で最後だというのに酔い潰れておしまいだなんて、もったいないことをするもんだ。
けどまあ、琉歌は琉歌であいつなりの楽しみ方があるんだろう。強制するようなことじゃないか。
「……天音? いる?」
噂をした訳では無いけど、なんとやら。
露天に続く扉をノックする音と、扉越しのくぐもった声。やはり琉歌も露天風呂の魅力には屈する他なかったのだろう、と現在進行形で露天風呂に心囚われている俺は納得しつつ返事をする。
「おー、起きたか。入りたいなら俺出るからちょっと待っててくれ」
心惜しさを感じつつも、また明日の朝にでも入ればいいか、と思い立ち上がる。
ざばぁ、と風呂から立ち上がってヒノキの浴槽から足を出そうと思って──
「……ううん、そのまま入ってていいよ」
続く琉歌の行動に、俺はすかさず浴槽へととんぼ返りを果たさざるを得なかった。
何せ、琉歌のヤツ、俺の返答を聞く前に扉を開けて中に入って来たのだから。いや、この場合、露天なのだから外に出てきたというべきか。
ともかく、琉歌はあろうことか俺の入浴中にもかかわらず突入してきたのだ。
「ぅおおっ?! る、琉歌?! ど、どど、どうしたんだよ、急に」
咄嗟に琉歌に背を向けたのは、英断だと言えよう。どうしてか分からないが、侵入を試みた琉歌を直視してはいけないような気がしたのだ。同性だというにもかかわらず。
実際に、一瞬チラッと目の端に映った琉歌の姿は、一糸纏わぬ姿だったように思える。
「……ねえ、こっち向いてよ。天音」
ひたひたと、素足が床を這う音が聞こえる。
琉歌の小さな足が、小さな一歩が近付いてくる感覚というのは、正しい理由こそ分からないが、どうしてかこの状況を避けなければならないと感じさせる。
無論、琉歌は男である。
男の俺が男である琉歌の裸を見る。
ここには何の問題も生じないはず。
だというのに、俺の首は前に固定されたまま、振り向くことを頑なに拒否する。
「ど、どうした? 俺が出るまで待ちきれなかったか?」
必死で動揺を隠そうと取り繕うために平静を装うが、俺の声は情けなく上擦る。
……琉歌は男だ。男の裸なんて見ても俺は嬉しくもなんともないし、見るのを躊躇うものでもない。だというのに、琉歌の裸を見ることに俺は強い抵抗感を抱いていた。
そして、見たくないと目を背けると同時に、見られたくないという強い忌避感にも駆られる。
その衝動が突き動かすまま俺は、迫る琉歌から俺自身を隠すように再び湯船に深くまで浸かる。見つからなければ、見なくて済むから。だから今度は、肩までじゃなくて口元まで浸かった。
「天音」
「る、琉歌……」
しかし、問題は最早かくれんぼで済む段階はとうに過ぎていて。
気が付けばひたひたと近寄ってくる足音は消えていて、代わりに琉歌の声が頭上から聞こえてくる。
さっきまで聞いていた酔っぱらい特有のふにゃふにゃな声ではなく、はっきりと本人の意思を感じられる、確かな声が鼓膜を震わせた。
「──ねぇ、天音」
「っ!」
背筋を駆け上がるゾワゾワとした感覚を植え付けるような囁き声に、反射的に顔が上を向いてしまう。
「やぁっと、こっちを見たね」
「み、見てない! 見てないから……。俺はもう出るから、琉歌はゆっくり──」
「そんなに逃げないでよ。一緒に入ろう?」
聞こえてきた声に反応して視線を上に向けたのは不覚だった。
見えたのは、赤みが増した琉歌の顔。
それが酔っているからなのか、それとも高揚しているからなのか、判別は出来ない。
俺の顔を覗き込もうとする琉歌と、ばっちり目が合ってしまう。俺と目が合った琉歌が嬉しそうに、けれどもどこか大人びた色気のある空気を纏って微笑むのが見えたが、今の俺にはまるで、獲物を前にした蛇のような目付きに見えた。
琉歌が上から覗き込むようにしていたお陰で、華奢な肩先までしか見えなかったのは不幸中の幸いというべきか。
ともあれ、俺はそのまま逃げるように湯船から立ち上がろうとしたのだが、背後に立つ琉歌の手がそれを防ぐように両肩に置かれ、俺は成す術なく湯船に戻される。
琉歌の華奢な細腕、小さくも確かな熱を持つ手の平、細くしなやかな指。本来であればその程度で俺の体が抑えつけられるはずがないというにもかかわらず、蛇に睨まれた蛙が如き俺の体は抵抗の意思すら抱けずに再び湯船の中に腰を下ろしてしまう。
無意識のうちに溢れた無力感は体から熱を引かせるのだが、琉歌と目が合って生まれた腹の奥底に沈んだ確かな熱だけは、血流に乗って全身へと巡っていく。
「うんうん。いい子だね、天音は。それじゃあ、お邪魔します」
「……な、なんなんだよ、この状況は」
天命に身を委ねるかのように身を固くして瞼を閉ざすことしか許されていない俺の隣に、琉歌が入ってくる。
琉歌の身動ぎ一つで波紋が生まれる度に、俺の体に緊張が走る。
「ふぅ~、良い湯だねぇ。……あ、天音と一緒に入ってるかな?」
「……そうかもな」
「むう。そんな逃げなくても、いいでしょ。せっかく、一緒に入ってるんだから」
「百歩譲って一緒に入るのは構わないとして。わざわざ近くで入る必要、無いだろ」
一体こいつは何が目的で、そして何を考えているのか。
さして広くもない湯船ならまだしも、湯船には俺と琉歌の二人が一緒に入っても尚余りある空間がある。流石は高級宿である。部屋風呂でこのクオリティ。
なんて感心している場合ではなく。
それをこいつは、わざわざ肌が触れ合う程にまで距離を縮めようとしてくるのだ。俺の精神がものすごい勢いで削れていく音がする。
近付かれる度に接触から逃れようとそそくさと逃げ回っているのだが、琉歌の声音からして、どうやらそれがお気に召さないようだ。
俺の気遣いを邪険にするんじゃない。親しき中にも礼儀あり、だろ。
「お、俺は先に出させてもらうぞ。琉歌はもうしばらくここで酔いを覚ますなり、頭を冷やすなりしてから──」
だが、そうやって湯船の中で逃げ回るのもそろそろ限界だ。
温泉の熱で茹だるのではなくて自分の熱で発火しそうなくらい思考がまとまらなくなってきた。どうして琉歌の裸を見るのが駄目なのかも自分で説明できないくらいぼやけてきた思考の狭間で、俺は今度こその離脱を図る。
図ったつもり……だったのだが、
「待って」
ざばぁ、と音を立て、盛大に水しぶきを上げて俺よりも早く立ち上がった琉歌はその言葉と共に俺の前に立ちふさがる。
琉歌の急な動きに、湯船から大量の湯が溢れていく。
「は、離してくれ。このままだとのぼせそうなんだ」
俺の体は、肩に琉歌の手が乗るだけで抵抗の意思が消え失せる。まるで俺が琉歌を恐れているみたいに。
確固たれ、と抱いた逃亡を図るための意志さえもなくなっている。
どうやら俺は、この華奢な琉歌から逃げることすらままならないらしい。
それでも俺は最後の抵抗とばかりに顔を背け、瞼は固く閉ざしたままを維持する。ここが最後の防衛線である、と自分でも訳の分からない決意に漲る一方で、どうして目を背けるのか、と疑問を提起する自分の声も聞こえてくる。
「ねえ」
だがそれも、琉歌の一声で俺の体は強張る。思考は途切れる。
次に琉歌の口から何が紡がれるのか、全く想像がつかないからだ。
そもそもこいつは一体、何の目的で俺のお風呂タイムに突入してきたのか。
ただの酔っぱらいならはた迷惑だが、先程から聞こえてくる琉歌の口ぶりにアルコールの気配が無いのが余計に俺の頭を混乱させる。
今目の前に立っている琉歌は何を考えているのか。
普段なら手に取るように分かることが、今の俺にはさっぱり想像がつかない。
だからこそ、琉歌の次の行動に全てを委ねるしかない。
俺の全神経を掌握されてしまったかのように俺の行動は全て、琉歌の手のひらの上である。
しかし、自分の身を他人に委ねる、という恐怖を覚えて然るべき状況であるにもかかわらず、俺の頭の中にあるのは混乱のみ。そこに恐怖はない。
それこそまさに琉歌のことを信頼している証に他ならないのだが、今更その事実が証明されたところでどうでもいいことだ。
何せ。俺と琉歌は、唯一無二の親友だから──
「──見てよ。僕のこと、ちゃんと、見て」
だけどもまさか。その親友の言葉一つで、俺は今世紀最大の──、否。この世に生を受けてから今に至るまで、きっと金輪際更新される事は無いと確証を持って言えるくらいトップレベルと言うに相応しい衝撃を受けるとは、思ってもみなかった。
「……は?」
「やっと、こっち見てくれた、ね」
琉歌の声に誘われるように首を正面に向け、固く閉ざしていたはずの瞼を開く。
そうするべきだと、俺の体が望んだかのように、すんなりと開いていく。
声のする方を見上げるように目を向けた俺の目に最初に飛び込んで来たのは、夜空に浮かぶ赤い顔。
羞恥か、興奮か。それともその両方か。リンゴやイチゴに例えるには些か、艶やかすぎる琉歌の表情にまず、俺は目を奪われた。
水に濡れた髪。潤んだ瞳。薄い唇に滴る雫。
そのどれを取っても、普段の純真無垢なむっつりスケベな琉歌とは結び付かない程に魅力的……いや、蠱惑的と呼んでも差し支えない程に、艶めかしい。
それだけ取ってもまるで別人のように見えたのも束の間、俺の目と合っただけで心の底から喜色を沸き上がらせて細められた目と、口元が弧を描いた。
たったそれだけで、いつもの見慣れた琉歌だと分かってしまうがゆえに、かけ離れた雰囲気に俺は混乱を禁じ得ない。
「っ…………!」
「ねえ、天音」
琉歌の手が俺の肩から離れる。
逃げるなら今だ。それは分かっているが、視線誘導のように動かされた琉歌の右手を、俺は飼い犬が如く目で追ってしまう。
そして次に目に入るのは、琉歌の華奢な肉体。
何一つ纏うもののないその姿は、正真正銘、生まれたままの姿である。
アニメでよくある、視界を遮るお風呂の湯気なんてものはここには存在しない。だってここは、露天風呂だから。
だから俺の目ははっきりと、月下に浮かぶ琉歌の裸を捉えていた。
「る、琉歌……」
何も着飾ることができない裸だからこそ、着飾る必要のない琉歌の裸に目を奪われた。
吸い込まれるように視線が向かう先は、琉歌の細い首筋。
そこを伝い落ちる水滴は、選ばれし存在と言えよう。触れれば折れてしまいそうだと思わせる首を這い、鎖骨に落ちた雫はやがて、胸元へと移動する。
何も隠すものが無いからこそ、はっきりと見えてしまったのだ。
琉歌の胸にあるささやかだけれども、確かな膨らみを。
あるはずのない──乳房を。
俺は、生まれて初めて、母親以外のおっぱいを、この月夜の下で目にしたのだった。
「ある……」
目を凝らさなければ分からないほどに起伏のない平坦な肉体。
半球を描くわけでもなければ、指が沈み込むような柔らかさを感じるわけでもない。だが、落ちてきた雫を弾くかのようにツンと上を向く二つの突起は、明確に男の物とは違うのが分かる。
それは紛れもなく、琉歌という個が男子であることを否定する要素。
男児であるならば我を忘れてむしゃぶりつくのが礼儀だと言わんばかりの、俺の視線を押し留めて止まない琉歌の秘部。
そしてそれは、どんなに言葉を尽くして言い繕おうともひっくり返すことのできない、女体の証。
俺が夢見る程に焦がれ、憧れた女性の体が、手を伸ばせば触れられる程の距離に今、目の前に存在している。
それはつまり、琉歌が女の体をしているということ。
琉歌が、女であるということの何よりの証拠である。
最早、自分を騙すには限界が訪れたと言ってもいいほどに目の前に証拠を羅列された俺が取った行動は、目線を更に下に運ぶことだった。
「な、ない……!」
いつまでも見ていたいと思える琉歌の胸から泣く泣く視線を下に移すと、見えてくるのはくびれた細い腰と、綺麗に縦に割れた、へそ。
人のへそなんてめったに見るものじゃないから興味をそそられたが、その穴に指を突っ込みたい衝動を押さえて更に下へと向けた視線の先で俺が見たのは、男女を分ける決定的な身体的特徴。
来たるべき時に備えて整えられたであろう下の毛は、下品とは正反対の、むしろ気品とエロスを醸し出していた。
その奥に何があるかなんて、アマゾンの奥地に行かなくても分かる。
ただ、それを考えるには俺の頭はまだまだ青臭い童貞に過ぎなくて。
──童貞には、あまりにも刺激が強すぎる光景で。
「……」
「あっ……」
それを認識した途端、酒を一気に呷ったみたいに全身が熱くなる。
熱くなるのは、血の巡りが良くなる証拠。
そして巡りの良くなった血が何処に集まるか、なんてのは、男であれば常日頃から分かり切っているわけで。
見上げる俺と、見下ろす琉歌の目が合ったのは一瞬の間。琉歌の視線が先に逸れたからだ。
彼女の逸れ行く視線の先にあったのは、俺の理性なんて関係ないと訴えるばかりか、むしろどこか誇らしげにムクリと情け容赦なくイキり立つ、我が息子であった。
「──う、うわあああああッ?!」
「え、ちょっと、天音?!」
それは、決して言い逃れすることが出来ない決定的証拠。
男のソレが勃つ理由は数あれど、この状況でその現象を起こす理由など、一つしかない。
性的興奮。
それ以外にあるはずもなく、俺はついさっきまで男だと思い込んでいた相手の裸を、それも親友の裸を見て、痛いくらい興奮してしまったのだ。
しかもそれを当の本人に目の当たりにされるという、絶望的状況。
琉歌が女だろうと、俺たちが親友であることに違いはない。
……ないはずだったのに、俺の見境ないイチモツはその関係を容易く貫く程に素直な反応を示した。
最高級の湯船が一瞬にして釜茹で地獄に変わったかのように思える俺は、尊厳も矜持もかなぐり捨てて湯船から飛び出し逃げていく。逃げ出した理由は、言わずもがな。
しかし、その行動はさしもの琉歌も予想外だったらしく、俺に続いて慌てた様子で追いかけてくるかと思った、その時だった。
「待って、あま──ねェッ?!」
「る、琉歌ぁっ?!」
そこで振り向けたのは、微かに残った親友への示しのつかない申し訳なさが為した奇跡か。
外を向く足を止めて振り返った先で見たのは、溢れた湯で滑りやすくなっている床に足を取られた琉歌が、つるん、すってーん、とコンボを決めて転ぶ姿。
「ぐぅぇっ」
先程の妖艶なまでの仕草とは打って変わって、潰れたカエルみたいな声を発して盛大に転んだ琉歌は、そのまま目を回して気絶したようで。
「きゅう」
「…………南無三」
全裸で風呂の床に倒れる琉歌。
このまま放っておくわけにもいかず、俺は慎重に慎重を期して彼女の体を外へと運び出す。
琉歌の柔肌に触れる度に変な気が起きそうになるのを今度こそ必死で理性で押し殺して脱衣所まで運んだあと、琉歌の濡れた体を拭うべくタオルを手にしたところで俺は体の動きを止める。
「……どうしよう。割とマジで」
女体を見たのも、触れたのも初めてである。そんな俺に何をどうしろと言うのか。女だと分かった以上、無意識の琉歌の裸に無遠慮に触れるわけにもいかないし。
かと言って、このまま何も出来ずに琉歌に風邪を引かれても困るわけで。
「……どんな顔すればいいんだよ」
葛藤に葛藤を重ねた結果、最終的にバスタオルでグルグル巻きにして体が冷えるのを防ぐためにベッドに放り込んだ。多少雑なのは許してくれ。俺の理性の問題だ。
軽い触診の結果、頭に傷もなかったからその内目を覚ますだろう。
琉歌から目を逸らすようにしてソファに腰を据えてようやく、俺は深い息を吐くのだった。
「はぁ……。ドッと疲れた……。でも、気付く要素はいくらでもあっただろ、俺……」
手のひらに残る庇護欲をそそられる感触。瞼の裏に焼き付いた鮮明な光景。
未だにギンギンと主張を強める股座を見る度に自己嫌悪に陥りながら、独り言ちる。
どうして誰も教えてくれなかったんだ、と誰かに責任を押し付ける間もなく、気付かない俺が悪いのだと答えが出る。
それと同時に、異性に対してエロ漫画を勧めまくるという、デリカシーを盛大に欠いた自身の行動を顧みて自己嫌悪に陥る。俺はなんという愚かな真似を。
「……セクハラで訴えられないかな」
琉歌が目を覚ますまでの間、俺は自分のこれからの身の振り方と、琉歌とのこれからを考えながら悶々として過ごすのだった。
それから琉歌が目を覚ましたのは、約十分後のことだった。




