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僕の記憶の中の君と、また会える日まで  作者: 川桜あめ


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16/19

チャンス到来?

保険会社の営業の成績発表の日。

僕は月に一回の恒例行事が嫌いだ。

毎月、決まってその日は一日中憂鬱である。

営業の成績発表というもののせいだ。

今月、一番売り上げを伸ばした人が社員全員の前に立ち上司から褒められ表彰される。

それだけならまだいいが、売上が最下位だった人は上司に色々と言われる。

先月は最下位だったが、今月も自信がない。

今月もまた、僕は上司から指摘されるだろう。

その日は仮病を使って会社を休みたいと毎月思うが、そんな勇気のない僕は仕方なく会社に向かう。


そんなことを考えていると会社の前に来てしまった。

急に汗が出てきて手が震える。

やっぱり仮病でも使いたかったと一瞬頭をよぎる。

この会社自体は嫌いではない。

しかし、どうしてもあの恒例行事は好きにはなれない。

社員に挨拶を交わし、自分の席に着く。

しばらくして全員揃い、上司が前に立って話し始める。


「では、今月の成績を発表します。今月の売上トップ賞は…野村君。よくやった」

社員が拍手をし、僕もつられて拍手をする。

「ありがとうございます」

野村先輩はそう言うと、立ち上がる。

「先月に続き、今月も良く売り上げを伸ばしてくれた。野村君は本当に頼もしい。これからも期待しているよ」

普段は笑顔の欠片もない上司がこの瞬間だけは決まって笑みを浮かべる。

「そう言っていただけて光栄です。これからも精進していけるようにまいりますのでご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」

野村先輩の言葉に、上司はさらに口角を上げる。

周囲もやっぱりすごいな。俺もいつか野村先輩みたいになりたいという声で溢れかえっている。

野村先輩は僕より一つ上で社会人二年目。

彼は仕事が出来て優秀だと上司がいつも絶賛している。

彼は抜群のコミュニケーション能力と整った顔立ちから男女問わず、慕われている。


「…野村君に比べて全くダメじゃないか、大野君は。先月に引き続き今月も売り上げ最下位だぞ」

突然名前を呼ばれて焦る僕を見て、上司は先程までとは顔つきを変えて眉間にしわを寄せている。

僕は慌てて立ち上がる。

「…すみませんでした。来月こそは売上を伸ばせるように頑張ります」

僕がぼそぼそとした声で何とかそう言うと、場が急に静まり返る。

「その言葉は先月も聞いたよ。具体的にどう改善するかを考えないと意味がないんだよ。大野君はお客様に丁寧と言ってもらえることが多いし、夜遅くまで残業しているらしいけれどいつも結果が出ないよね。どんなに頑張っていても結果が出ないと意味はないんだよ。近々、作戦会議でも開こうかね」

「はい、この度は本当に申し訳ございませんでした」

何とかそう言い、頭を下げる。


世の中というものは結果が全てなのだろうか。

周りの人間は過程よりも結果が大切だと口を揃えて言うが僕はそう思わない。

結果だけでその人の価値が決まるのなら、生まれつき才能がある人が優位に決まっている。

そんなの、僕の力だけではどうにもすることはできない。


その日は会社帰りに行きつけの喫茶店に立ち寄った。

お店に着き、席を案内されると僕はメロンソーダを注文する。

夜だからか、お客さんは僕しかいなかった。

落ち着いたシックなデザインとオレンジ色のライトの店内は僕の気持ちを少し癒してくれる。

このお店のメロンソーダが好きで、僕は月に一度は必ずこの店を訪れる。

僕は窓側の席でぼんやりと外を眺めていた。

「お待たせしました、メロンソーダです」

「ありがとうございます」

メロンソーダが席に運ばれてくると、僕は上に載っているバニラアイスをスプーンですくって一口食べる。

程よい甘さと冷たさは、僕の身体全身に染み渡る。

その時、スマホの通知が鳴った。

画面を見ると、第68回白崎高校卒業生のトーク画面であった。

僕は驚きながらも嬉しくなる。


LINEの文面

「夜分遅くに失礼いたします。突然ですが、来月1日に同窓会を開催することになりました。場所は淵町駅から徒歩5分ほどにあるかパルロというイタリアンのレストランで、18時から20時までの予定です。参加費は1人6000円です。たくさんの方の参加をお待ちしております。参加人数を早めに把握したいので、10日までに個人LINEの方に参加する予定の方はご連絡ください。よろしくお願いいたします」


これは佐々木さんともう一度会える最後のチャンスかもしれない。

卒業式の日に彼女に渡そうと思っていた手紙は捨ててしまったが、今度は自分の言葉で佐々木さんにあの時の気持ちを伝えたい。

卒業してもう5年という月日が経っているのに、僕は彼女以外の女性を好きになることはなかった。

いつまでも、高校時代の彼女の姿が目に焼け付いている。

今度こそ、彼女にちゃんと自分の思いを伝えたい。


でも、ふと思う。

僕は、中学校の先生になれなかった。

佐々木さんに将来の夢を聞かれたときに中学校の先生になりたいと語った記憶がある。

現状を知られるのは少し気まずい。

数学の先生になることを夢見て僕は大学で理学部を専攻したが、教員採用試験に落ちてしまった。

それで仕方なく大学4年の夏くらいに就職活動を始めて、どうにかこの会社に入ることができた。

しかし、このチャンスを逃したらもう一生佐々木さんに会えなくなるかもしれない。

それが一番怖かった。

彼女に会ったら話したいことはたくさんある。

高校の時の思い出話はもちろん、今の近況や雑談など。


そして、今度こそは伝えたい。

僕のあの時の気持ちと今の気持ちを。

彼女はどんな反応をするのだろうか。

そして、彼女はどんな大人になっているのだろうか。

そんな淡い期待が広がっていく。


「どうしたの?そんなにニコニコしちゃって」

僕が嬉しい気持ちを隠しきれていなかったのか、マスターに話しかけられた。

マスターは白髪頭で、優しそうな目をしている。

年齢は正確には分からないがおそらく70歳くらいだろうか。

ここの喫茶店のマスターとは世間話程度しかしたことはない。

突然話しかけられて少し驚く。


「…あ、高校の同窓会が今度開催されるみたいで」

マスターは何かを悟ったような表情をしていた。

「ほう、同窓会に好きだった子が来るってわけか。それは楽しみだな」

「いや、それは行ってみないと来てるかどうか分からなそうなんですよね」

僕がそう言うと、マスターはひっそりと笑みを浮かべる。

「やっぱり恋愛関係なんじゃな。旧友に会えるとかでも十分嬉しいが、それを飛び越えた表情をしとる。なんか目が輝いているからな」

マスターに僕の心を見透かされている気がして頬が火照る。

「まあ、そんなに照れるなって。でも、そんなチャンス中々ないと思うから頑張れよ」

マスターはそう言い、僕の席から離れて行った。


マスターに背中を押された僕は、同窓会のLINEの送り主に参加したい旨を個人LINEに送った。

そしてメロンソーダを飲み干し、お会計を済ませると喫茶店を出た。

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