本当の思いを伝えたくて
冬休みは終わり学校が再開したが、啓介と渉と話すことはなくなった。
僕はお昼も休み時間も一人で過ごした。
朝、僕が登校中に一人で歩いていると佐々木さんに後ろから声を掛けられた。
「文哉君、おはよう」
「…」
僕は佐々木さんを無視して足早に歩いた。
「ラーメンかキムチ鍋一緒に食べに行こうって言ってたのいつにする?」
「…」
佐々木さんは僕があえて無視をしているとは思っていないのか、僕に話しかけ続ける。
それでも僕は佐々木さんに合わせる顔などはなく、ただひたすらに前を向いて歩き続けた。
バスケの最後の大会以来、僕は佐々木さんを避けるようになった。
前に彼女は僕の自主練の姿を見て、部活を続けられたと言っていた。
それがすごく嬉しかったから、彼女だけには僕が誰からもパスをもらえない姿も友達関係が上手くいっていない姿も見られたくなかった。
彼女に僕の弱い部分を知られたら彼女から嫌われてしまうかもしれない。
そう思い、僕は自分から彼女と距離を取った。
何より彼女にどう思われているか、それを知るのが一番怖かった。
僕が彼女を避けているのを彼女は感じ取ったのか、話しかけられることはなくなった。
そしてまともに会話を交わすことがないまま席替えが行われ、彼女とは席が離れてしまった。
僕は後ろの列の教室の端の席になった。
少し前の方に佐々木さんと渉の姿があり、二人は席が隣だった。
渉が佐々木さんに話しかけている姿に僕は複雑な気持ちになった。
そのまま日にちだけが過ぎ去り、卒業式の前日となった。
夕方、僕は自分の部屋でベッドに寝ころんでいた。
僕は佐々木さんと話さなくなってから、学校生活がとても退屈に感じた。
誰とも話すことはなく、授業を受けて帰る。
そんな日々を繰り返していた。
そして、気が付いた。
彼女だけはいつも僕の味方でいてくれたと。
彼女は僕がバスケの最後の大会で恥をかいても話しかけてくれた。
責めることも否定することもなかった。
かっこ悪い姿を見られてしまったのに、僕が彼女を避けるまで彼女は態度を変えることはなかった。
それなのに、僕はプライドの高さから彼女を避けてしまった。
彼女と話すことがなくなり、後悔した。
前みたいにもう一度、彼女と話したい。
彼女が僕に向かって微笑んでくれるあの眩しい笑顔が見たい。
今更、謝っても許してもらえるかは分からないけれど。
僕は手紙で、彼女への思いを綴ることを決意した。
自分の机の中から便箋を取り出し、書き始める。
手紙の内容
「今までありがとう。急にそっけない態度を取っちゃってごめんね。最後のバスケの試合で、部員から一度もパスをもらえない姿を佐々木さんに見られたのが情けなくて、恥ずかしくて。どんな顔をして話せばいいか分からなかった。周りの人は結果がすべてだと言うけれど、佐々木さんはいつも頑張っている過程を褒めてくれて、努力を認めてくれて。いつの間にか好きになっていました」
僕は手紙を書き終わり、封筒に入れた。
そして、卒業式当日を迎えた。
式が終わり、生徒たちは校門や桜の木の近くで友達と写真を撮っている。
僕は昨日書いた手紙を持ち、廊下や体育館を歩き周って佐々木さんを探した。
体育館の裏に一人の男子生徒と女子生徒が向かい合って立っている姿が視界に入る。
僕は徐々にその二人に近づくと、渉と佐々木さんであることに気が付いた。
「今まであまり話せなかったけれど、実はずっと前から好きでした。俺と付き合ってください」
渉は佐々木さんをまっすぐと見つめて真剣な表情でそう言う。
「…」
佐々木さんは突然の渉からの告白に戸惑っている。
その姿に僕は圧倒される。
さっきまでは佐々木さんに手紙で本当の僕の思いを伝えようと決めていた。
しかし、急に怖くなり緊張で手が震える。
もしかしたら、渉と佐々木さんが付き合ってしまうかもしれない。
それを目の前で見るのは怖い。
気付いたら、僕は必死に走っていた。
胸が苦しくなる。
彼女に手紙を渡したかった。
もう一度、あの頃のように話したかった。
でも、それができずに僕は自分が傷つくのが怖くて家に帰って来てしまった。
「文哉、お帰り。早かったね」
母がテレビを見ながらそう言う。
「…うん」
僕は返事をする。
そして、二階に上がり自分の部屋に入る。
カバンを床に置いて、制服のままベッドに横たわる。
彼女とは大学もきっと違う。
もう彼女と会えることは二度とないかもしれない。
そう思うと、涙が溢れて止まらなかった。




