夢であってほしくて
最後のバスケの大会前日。
通常のバスケ部の活動が終わり、部員は帰り支度を始めている。
啓介と渉が立ちあがる。
「じゃあ、俺たち先に帰るわ」
「文哉、お疲れ」
二人に声を掛けられて僕も返す。
「うん、お疲れ」
誰もいなくなった体育館に一人で自主練に打ち込んだ。
帰ろうとすると、スマートフォンを教室に忘れたことに気が付く。
急いで教室に向かい、入ろうとしたが僕の話を誰かにされていることに気が付く。
僕はそっと教室の外から耳を澄ます。
「明日、最後の大会だけどどうなんだろう。一人お荷物君がいるからなあ」
馬鹿にしたように笑いながら話す声が聞こえる。
「おいおい、よせよ。文哉のこと悪く言うなよ。三年間一緒にバスケやってきた仲間じゃないか」
「おまえだって、文哉がお荷物君って内心はそう思っているんじゃないか。俺は別にお荷物君って言っただけで文哉とは言っていないよ」
「…まあな」
誤魔化すように笑いながらそう言う声が聞こえる。
僕は部員から悪口を言われていることに気付いた。
お荷物君って周りから思われていたんだ。
泣きそうになるが、必死に涙を堪える。
「でも、そんなお荷物君と仲良くしてあげていて啓介たちは心が広いよな。俺は絶対無理」
ヘラヘラと笑いながらそう言う声が聞こえる。
「別にそんなことないよ。バスケの試合は5人いないと成り立たないだろう。だけど、俺たちの高校はバスケ部員が5人だから誰かが辞めたら大会に出られなくなる。で、淳太たちが文哉の悪口を言っていて、もしそれを文哉が聞いて辞めたら困るから仲良くしているだけだよ」
予想外の啓介の発言に、僕はいつの間にか涙が出ていた。
僕のことを本当は友達だと思っていなかったってことか。
僕は高校一年生の頃にバスケ部に入部して、啓介と渉に声を掛けられた。
二人は同じクラスで僕は違かったが、部活の後に自主練に付き合ってくれたり時々放課後にラーメンを食べに行く仲になった。
二人にバスケのコツを教えてもらったこともあった。
でも、いつからか僕だけが部活の後に自主練をして二人は先に帰るようになった。
佐々木さんは僕がいつも一人で自主練をしているのを見ると言っていたから、高校一年生の秋くらいまでだったのだろうか。
二人が僕の自主練に一緒に付き合ってくれていたのは。
いつから友達だと思われなくなったのだろう。
知りたいような知るのが怖いような複雑な気持ちだった。
「まじか、啓介ってけっこう腹黒いな。普段よく文哉と一緒にいるのにそんなこと思っていたのかよ」
「いや、表面上では仲良くしてあげているんだから優しいだろ」
「まあ、確かに」
啓介の声に、僕はこれが夢であってくれと必死に願った。
教室のドアの隙間からそっと教室の中を覗くと、そこにはバスケ部で隣のクラスの淳太と恒平、同じクラスの啓介と渉が向かい合い、馬鹿にしたように笑いながら僕の話をしていた。
「それにしても、そろそろ結果を出してほしいよな。結果が出なかったらどんなに自主練をしていても意味がないのに」
「ほんとだよな。なんか、逆にあれだけ自主練していて上手くならないって可哀想」
渉と恒平がそう言い、教室全体はどっと笑い声に包まれた。
「あと文哉、最近調子乗っているよな。ちょっと佐々木さんに文化祭の時に一緒に写真を撮ろうって声を掛けられたからって」
渉が悔しそうにそう言う。
文化祭で佐々木さんと一緒にいたところを見られていたんだ。
あまりの衝撃に身体に力が入らなくなる。
「俺も思っていた。ツーショット頼んだのは佐々木さんだったけれどLINEを交換してほしいって言っていたのは文哉だったよな。渉が佐々木さんのことを前から気になっているって知りながらそんなことを言うなんて酷すぎる」
啓介が呆れたようにそう言う。
「てか、佐々木さんとツーショット撮っている時の文哉の顔を見たか?めっちゃにやけていた。あの顔で佐々木さんのことを何とも思っていないことはないだろ」
渉は口を尖らせながらそう言う。
僕が佐々木さんのことが好きなのを二人は知っていたんだ。
二人にバレないようにと思っていたのに、バレていたなら正直に佐々木さんのことが好きなのを打ち明けるべきだったかもしれない。
それが原因で二人と一緒に文化祭を周れなかったり、友達だと思われなくなったのかな。
僕の頭の中は後悔でいっぱいだった。
以前、こんな言葉を聞いたことがあった。
友達と好きな人が被った時に友情を取るか好きな人を取るか。
今まで好きな人ができたことがなかった僕にとってはそんなことは他人事であった。
それに迷わず友情を選ぶと、僕はそう思っていた。
しかし今、同じことを聞かれたら僕はすぐに答えが出せない。
それくらい、佐々木さんのことを好きになってしまった。
「文哉が?なんか意外だな」
淳太が目を丸くしてそう言う。
「普段は女子なんか一切興味ありませんみたいな顔しているのに。佐々木さんを気になっていることを俺達には隠して陰でこそこそ仲良くしているんだろう。タチが悪いんだよな、文哉には絶対に負けたくない」
そう言った時の渉の目は怖かった。
目が鋭く、眉毛も吊り上がっている。
僕はぎょっとして呼吸が荒くなる。
深呼吸をして、どうにか息を整えた。
「渉、落ち着けって。よりによってあの文哉に負けることはないだろう」
啓介が渉の肩を叩きながらそう言う。
「ていうか、俺たちの今の話、誰かに聞かれていたらやばくね?」
「確かに、そうだな」
啓介が何かを察したのか、ドアを閉めようとする。
僕は走ってその場から離れて体育館に向かった。
気を紛らわせるために自主練を再開しようとしたが、そんな気分にはなれなかった。
頬が涙で溢れて視界が見えない。
黙ってその場にしゃがみ込む。
それから三十分くらいが経って、再びスマートフォンを取りに教室に行くと誰もいなかった。




