表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/93

第89話 香島宮潜入②


 忘れてた……

 この二人、足めっちゃ速い……


 参道の木々の間を縫うように走る。

 後ろを見ているはずの夕夜が、もう隣まで戻ってきている。


 得意の走りでも足手まといな私。

 そんな私を狙って無貌は追いかけ、五本の腕を伸ばしてくる。


「華っ!」


 夕夜に背中を押され、すんでのところで避ける。


「名竹さん、もっとスピード上げて」


「わ、わかった」


 歯を食いしばって、腕を振る。


 藤原君が振り返って私の手首を掴む。

 一気にスピードが上がる。


 参道の中程まで来たところで、一番大きな杉の木に身を潜める。

 夕夜が少し離れて構える。


「水鏡――っ」


 夕夜が言葉を切る。

 小さく舌打ちして、夕夜が息とともに漏らす。


「まだだめか」


 砂利の踏みしめられる音と、電気の弾ける音が近づく。


「もう……追いつかれ、ちゃう」


 呼吸もままならない。

 宝物殿まで辿り着くかな。


 息を切らす私を見て、藤原君が辺りを見回す。


「逃げるのも限界か」


 そして無貌に視線を向け、目を細める。


「あいつ……落雷がないな」


「前回より電気、少ない」

 

 夕夜の言葉に私は木の影から、そっと無貌を見る。


 確かに。

 というか……


「さっきより電気減ってない?」


 藤原君がもう一度、無貌を見て口角を上げる。


「作戦変更。あそこの手水舎までダッシュ」


 藤原君と夕夜が同時に駆け出す。


「あ、待って!」


 転びそうになりながら立ち上がり、夕夜に手を引かれて駆け出す。


 並走する藤原君が腰を落として石を拾い、その勢いのまま無貌へ投げつけた。


「弱ければいいけどな!」


 電気の弾ける音と鈍い音がして、無貌の身体が一瞬揺れる。


「物理は通る」


 藤原君が体勢を立て直す。


「ってことは」


 手水舎に駆け込むと、藤原君は私の帽子を剥ぎ取った。


 足元の玉砂利を一掴みして帽子へ放り込む。

 そのまま手水へ突っ込み、濡れた玉砂利を掬い上げた。


「電気を散らせば」


 無貌へ向かって駆け出す。

 間合いの外から、すれ違いざまに濡れた玉砂利をぶちまけた。


 無貌の身体が火花で弾ける。

 白い光の筋は落ちていく小石とともに地面へと流れる。


「剥き出しだ」


 電気を失った無貌は枯れ木のような表皮を露わにした。


「作戦続行。このまま宝物殿へ」


 藤原君が再び駆け出す。


 ま、まだ走るのか。

 無駄に広い境内を恨む。


 隣に並んだ藤原君が悪戯な笑みを浮かべた。


「返すね」


 走りながら濡れた帽子を頭に乗せる。

 冷たい。


「清い水だから」


「はへっ?」


 呼吸が乱れたからなのか、あり得ないことをされたからなのか分からない声が出る。


 今、そんな嫌がらせしてる場合?!


 藤原君がくすりと笑いながら、夕夜の横に並ぶ。


「あとは大伴君で行けるかな」


「うん」


「任せたよ」


 そう言うと藤原君は一瞬後ろを見て、私の手首を強く引く。

 バランスを崩し転びそうになると、伸びてきた無貌の腕が宙を空振った。


「集中しなよ、名竹さん」


 その後も迫る腕を避けながら、やっと宝物殿に辿り着く。


 すぐに夕夜が無貌に向き直る。


「……いける」


 夕夜の目が無貌を射抜くと同時に、三匹のカジキが無貌の胸を突き刺した。

 動きが止まった無貌に安堵の息が漏れた。


「や、やったぁ」


 思わず地面にへたり込む。

 もう走れない。

 呼吸を整えるだけで精一杯だった。


 静寂を藤原君が見据える。


「……妙だな」


 私を隠すように二人が前に立つ。


「消えないね」


 夕夜が呟く。


 見上げると、満月を背にした無貌の仮面がゆっくりと陰る。


「え?」


 かたんっと仮面が落ち、そこから無貌の表皮が剥がれ出す。


「っ?!」


 二人が臨戦体勢に入る。

 めくれ上がった表皮の奥から、もう一体の無貌が這い出てくるように姿を現した。



『ラスボスが一回で倒れるわけないだろ』



 こんなときに限って、兄の言葉が頭をよぎる。


 目の前の無貌が、一歩踏み出した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ