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第85話 誰に動かされてる?


「よし、行くか」


 鳥居の石段の前。

 夕夜と黒髪マッシュな藤原君と一緒に、私も連れてこられた。

  

「私、いる?」


「……バディなんだろ?」


 今の間、絶対いらないじゃん!

 お爺さんいたら気まずいだけなんだけど!


「まあ今日は悠介いるし、デートだと思えば?」


「でも康介君いるじゃん」


「あれ俺邪魔?」


「邪魔か邪魔じゃないかで言えば、けっこう邪魔」


「言うようになったじゃん、悠介」


 藤原君が目を細めて夕夜を見ると、その視線を私に向ける。


「昨日何があったんだろうね?」


「な、何も!」


「春奈、康介と話すのやめときな」


 夕夜が冷ややかな声を投げつけて、石段を先に登り始める。

 藤原君が肩をすくめると私たちも後を追った。


 涼しい顔して登りきった二人の陰から、息を切らして祠の方をちらりと覗き見る。


 良かった、お爺さんいない。


「あの中?」


 夕夜の視線の先には古びた祠が、相変わらず寂しそうにぽつりと佇む。


「うん。何を祀ってるか調べたい」


 藤原君は祠に近づいて、扉をそっと開ける。

 お爺さんが手入れしているのだろうか。

 中は思ったより綺麗だった。


 小さな盃に御神酒が供えられている。

 でも、それ以外には何もなかった。


 藤原君がポケットからライトを取り出して中を照らし、数カ所叩きながら隅々まで確認する。


「さすがにそんなギミックないか」


 藤原君は自分で自分を笑うかのように呟いた。


「特に神紋もないな」


「外側も無さそうだよ」


「……となると、これ自体が祀るための場所じゃないか」


 藤原君は祠が向く遠くを見つめる。


遥拝所(ようはいじょ)かな」


「遥拝所?」


「遠くの神様とか神社を拝む場所」


 私が訊ねると、夕夜が教えてくれる。


「あの爺さんが榊家を知ってるなら、香島宮(かしまのみや)と繋がってる可能性もあるけど」


 藤原君がスマホを取り出しマップを開く。

 祠から遠くへとまっすぐ視線を向ける。


「向きは合ってる、か」


「じゃあ香島宮の遥拝所?」


「……繋がりの証拠が欲しいな」


 藤原君がもう一度、祠の扉を開ける。

 そっと盃を手に取る。


五稜鏡(ごりょうきょう)……水盤……の代わりだとしたら?」


 藤原君が真上の空を見る。


「あ、もしかして五本の柱もあるかな?!」


 辺りを見回す。

 大木だらけの森の中……それっぽいものはない。


「いや……悠介、あれってさ」


 藤原君が一本の大木に近寄る。

 夕夜も近づいてその木を見上げる。


「うん。榊の木かな?」


「っぽいよね」


 手の届く位置に伸びた枝の葉をスマホで撮る。

 画像検索をかけているようだ。


「まぁ一致するかな。こんなデカいと自信ないけど」


「神棚で使うのは枝だしね」


 周りを見ると似たような葉の大木が全部で四本。

 気にして見ると、等間隔にそびえ立ち、周りの木から少し浮いてる。


 一本足りない……けど。


「あ……」


「あの爺さんだな」


 藤原君と顔を合わせる。


 五本目があると思われる場所に、お爺さんが腰掛けていた切り株。


「榊と思われる木が五本、その中央に祠の盃」


「だいぶ、()()()ね」


 私が言うと藤原君は肩をすくめる。


「今はまだ、()()()ってだけだけどな」


「町に聞きに行く?」


 夕夜が訊ねる。


「いや動きすぎたし、これで引こう。次、爺さんに会ったらボケを完全に治しちゃいそうだし」


 本気とも冗談とも分からない発言に私と夕夜は視線を逸らす。

 私たちは人が来ないうちに車に戻ることにした。


「鷹野さ、榊家のこと何かしら知ってただろ?」


 石段を降りながら藤原君が口を開く。


「授業抜けた補習のとき?」


 石段を降りる私に手を差し出しながら、夕夜が訊ねる。


「あのとき、生徒名簿で榊家のこと知ったような口ぶりだったじゃん?」


「うん」


「でも高校にある榊天音の情報で、“榊家” に違和感持つのはまず無理」


「……どう言うこと?」


「データ上、榊天音は何も問題ない。住所は市内、両親健在。俺でさえ、中学時代の名簿を漁ってやっと香島宮に辿り着いたくらい」


「「……」」


 夕夜と目が合ったけど、お互い何も言わずに伏せた。


「鷹野は “名竹鏡夜がかぐや姫” なのも知っていたらしいし」


「うん」


「今思えば榊家経由の情報網なのかもな」


「え、それって天音さんから?」


「榊天音は分からない。ただ、鷹野家と榊家は繋がってる可能性がある」


「じゃあ榊家は五家と協力関係にあるのかな?」


「問題はそこ」


 私が訊ねると藤原君は足を止める。


「そもそも鷹野家は五家じゃない」


「あ! そうか、鷹野先生……」


「鷹野貴満は養子。これは俺が見たから()()


「鷹野自身は貴公子の末裔で……」


 夕夜が確認するようにゆっくりと呟く。


「鷹野家にわざわざ引き取られている」


「しかも榊家との繋がりまで見えてきた」


「お兄さんがいるから跡取り目的でもなさそう」


 私たちは押し黙る。

 一瞬の静寂を藤原君の舌打ちが破る。


「きな臭いな。ったく、誰の意思だろうな」


 その言葉に胸の奥がざわつく。


 鷹野先生も、榊家も、この場所も……。

 まるで最初から誰かが並べた駒みたいだ。


 そして……。

 藤原君は何も言わないけど、きっと鷹野先生のお母さんは……。


 胸の奥が冷たくなる。


 何かを見つけるたびに遠のいて。

 私たちは今、何を追いかけているんだろう……。



 ***



 昼食後――。

 いきなり動植物園の駐車場で車が止まる。


「え?」


「名竹さんと大伴君で」


「なんで……?」


「んー、調査調査」


 金髪に戻った藤原君はスマホから目も離さずに、適当に言う。


「これチケットです」


 斎藤さんから二枚のチケットを手渡される。

 え、斎藤さんもグル?


「何を拗らせてんのか知らないけど、その妙な雰囲気なんとかしてきて」


「えっ?!」


 車のドアが開いて、夕夜と一緒に降ろされる。

 後部座席で苦笑いを浮かべる兄と目が合った。


「じゃあ終わったら連絡して」


「え、何が……?」


 藤原君がニヤリと笑い、ドアを閉めた。


「えっ?! 何が終わったら?」


 私たちを置いて走り出す車を、呆れた眼差しで見てる夕夜に訊ねる。


「華がずっと挙動不審だからでしょ?」


「え?! ふ、普通だよ?!」


「どこが」


「普通だったもん!」


 ちゃ、ちゃんと夕夜とも話してたし!

 バーベキューだってちゃんと焼いたし!

 今日だっていつも通りにしてた!!


「……」


 夕夜がわずかに瞼を下げて私をじっと見る。


「じゃあ藤原に聞いてみる?」


「ふ、藤原君はいらないんじゃないかなぁ?!」


 そんなことしたら……昨日のことがバレる!

 い、意識しない方が無理に決まってんじゃん!


「……だからこんなことになってるんだからね?」


 夕夜が小さくため息を吐いて、私の手からチケットを取る。


「まぁいいや。俺カピバラ好きだし」


「え、初耳なんだけど……」


「なんか華に似てるよね」


「えっ! す、好きって、え、あ、そうじゃなくて⋯⋯あ、か、カピバラ可愛いもんね!」


「⋯⋯うん、可愛いよね」


「っ!」


 その表情は何? 

 なんの感情⋯⋯?


 もう恥ずかしくて死ねる⋯⋯。


「ほら遊んでないで行くよ」


 夕夜が可笑しそうに笑った。


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