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第82話 続・鷹野家調査


「鷹野先生、次男なんだね」


「弟が能力持ちで顔も性格もイケメンなんて、兄貴は病みそうだけどな」


「……先生のこと意外と評価してるんだね」


「じゃなきゃあんなイジらないよね」


「……」


 藤原君、自覚あったんだ……。


「でもお兄さん良い人そうだし、兄弟仲は良さそうだったよね」


「あんなもんなのかね」


 藤原君はやっぱり納得いかない様子でため息を吐く。


「世の中の人、みんな誰かさんみたいに捻くれてないんだよ」


「誰のことだろなぁ」


 藤原君がわざとらしく首を傾げた。


「あと捻くれてる俺だから言うけど、鷹野の母親は生きてるのな」


 ふざけてた笑顔が消えて、鋭い視線を鷹野家の方へ向ける。


「法則から外れた――何か条件が違う、か」


「それって助かる方法があるってこと?」


 藤原君が私をじっと見る。


「……かもね」


「なら調べなきゃ!」


 私は胸のところで拳を握った。

 少しでも希望があるなら!


「次は鳥居だよね?!」


「……そうだね」


 駆け出した私の後ろを、藤原君が相変わらずのペースでついてくる。


 ……はずだった。


「つらっ」


「春菜遅いよ」


 鳥居の先は入り口から見えなかったけれど、小さな森の奥へと急な石段が続いていた。


 いつのまにか先頭は藤原君に変わっていて、私は息も絶え絶えにその後を追う。

 やっとのことで頂上に辿り着いた。


「康介君は意外と体力あるよね」


「何に対しての意外?」


「え、色白だし儚げだし、ずっとパソコン触ってそうだし」


「クソ偏見だな」


 少し歩くと開けた場所に出た。

 中央には古びた祠がぽつりと佇んでいる。


 そして、祠を見守るように離れた場所で、切り株に腰掛けているお爺さんと目が合った。


 それが人間だと認識するのに時間がかかり、しばらくお爺さんと見つめ合う。

 お爺さんがゆっくりと口を開く。


「……小鬼がおる」


「ラピュタかよ」


「……ふっ」


 思わず小さく笑ってしまうと藤原君が睨む。

 私は雑なツッコミする、意外とノリの良い藤原君も好きだよ。


「お爺さんは、ここで何してるんですか?」


 藤原君が笑顔で訊ねる。

 でもお爺さんは虚ろな目で、どこか一点を見つめたまま。


 藤原君は眉をしかめる。


 私は石段を登った暑さに帽子を脱ぎ、パタパタと仰ぎながら、お爺さんの座る切り株の近くにしゃがみ込む。


「お爺さん、日向ぼっこですか?」


「春菜……」


 藤原君の私を見る顔が余計なことをするなと言っている。


「おや、あんた……榊の巫女だったか」


 お爺さんが私の顔を見て呟いた。

 藤原君の鋭い視線がお爺さんを射抜いた。


「榊の巫女?」


 藤原君が目を細める。


「榊家をご存知なのですか?」


 お爺さんの目が少しだけ開いて、藤原君の目をじっと見る。


「ああ、あんたは……つききず……」


「俺が、“つききず”?」


「待っていたんだ……」


 お爺さんの目が揺らぐ。


「怖がらんでいいよ」


「何を?」


「今日からは……」


 お爺さんの要領を得ない言葉に、藤原君が小さく舌打ちする。


「埒があかないな」


 私の方に視線を向ける。


「春菜、“彼氏” 呼んどいて」


 え、あ!

 夕夜――。


 でも。


「なんで?」


「こっちはキツいんだ」


 藤原君がお爺さんの前にしゃがみ込む。

 肩に手をそっと置いて、視線を合わせる。


 ――藤原君?


玉輪(ぎょくりん)


 藤原君の低い声。


「――空蝉未(うつせみ)


 次の瞬間、見つめ合った二人の動きが止まる。

 十秒、いや実際には三秒くらいかもしれない。


 お爺さんの頭がこてんっと俯くと、藤原君もその場で膝を崩した。


「だ、だいじょ――」


「くくっ」


 片手でお爺さんを支えながら、藤原君が俯いたまま笑っていた。


「あいつ――」


 私は倒れそうなお爺さんの身体を支えると、木の枝に寄りかからせた。

 そして地面に手をつきながら身体を震わせてる藤原君に駆け寄る。


「ふ、こ、康介君?!」


「鷹野、養子だった」


「えっ?!」


「長男いるのに何だよそれ?」


「藤原君?」


「あいつ、どこから――」


 藤原君は笑いながら、その場で倒れた。


「藤原君!!」


 あ、ゆ、夕夜!

 震える手で夕夜の番号を押す。

 2コール目で夕夜が出る。


『どこ?』


「と、鳥居の……」


『すぐ行く』


「あ、人いる」


『分かった』


 それだけだった。

 けど、夕夜の声で少し落ち着いた。


 藤原君を日陰まで運ぼうとしたけど、重い。

 私じゃ抱き起こすことも難しい。


「大丈夫かい?」


 いつのまにか目を覚ましていたお爺さんが、じっとこちらを見ていた。

 心なしかさっきより視線が定まっている。


「あ、お爺さんは……?」


「わしはここを預かっとる。鷹野の人間だ」


「あ、いえ。その、お身体は……」


「はて……なんだか夢から覚めた気分だ。別に、悪い夢ではなかった気がするがな」


 お爺さんが小さく笑った。

 身体が無事そうで安心した。


「なあ、貴満は……元気にしとるか?」


 心臓が跳ねる。

 藤原君みたいに上手くやらなきゃ……。

 小さく深呼吸をした。


「貴満、さんですか?」


 知らないフリをする。


「ああ、息子だ。優しくて強い、自慢の⋯⋯」


「会ってないんですか?」


「何年もな」


「きっと、お忙しいんですね」


「……ここが、嫌いなのかもしれんな」


 お爺さんが寂しそうに祠を見上げた。


「は……春菜!」


「ゆう……」


 ……なんだっけ、夕夜の名前。


 夕夜は息を切らしながら駆け寄ってくる。

 お爺さんに気づくと会釈する。


「康介は?」


「か、階段と暑さでバテちゃって……」


「……とりあえず下に行ける?」


「うん」


 夕夜が藤原君を抱き抱える。

 藤原君が力なく目を覚ます。


「あれ⋯⋯兄貴じゃん……」


 掠れた小さな声で呟く。

 藤原君を肩に担ごうとした夕夜が、一度しゃがむ。


「お前、意外と重いな……」


「落とすなよ?」


「お前な……」


 こんなときでも藤原君な藤原君に、夕夜は呆れながら私を見る。


「春菜、背負うから手伝って」


「あ、うん」


 藤原君の腕を取り、夕夜の肩へ回す。

 合図と共に藤原君を背負った。


「行ける?」


「うん」


 私が振り返るとお爺さんはわずかに微笑んだ気がした。


「小鬼さん方、いたずらはほどほどにな」


「お爺さんも。貴満さん、きっと来ますからお元気で」


 お爺さんに手を振って、私たちは石段をゆっくりと降り始める。


 しばらくして夕夜が口を開く。


「鷹野に余計なこと言うつもりでしょ」


「お爺さん会いたいんだって」


「やめときなよ」


「どうせ先生にはバレるでしょ」


「てかさ……」


 夕夜の後ろから藤原君のか細い声。


「俺明日もここ来るよ?」


「えっ?!」


「祠ん中、調べてないし」


「えぇ?! お爺さんに最後っぽく挨拶しちゃったじゃん!」


「勝手に締めてんじゃねえよ⋯⋯」


 そう言って、藤原君は再び目を閉じた。


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