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第79話 夏休み計画②


「じゃあ8月の無貌()()()は名竹君と石上二人で。同時進行で俺たち三人が “香島宮(かしまのみや)” を観測する」


「了解」


「りょーかい」


「⋯⋯お、おっけー」


 石上先輩、ごめんなさい。

 私には流れを止めることはできなかった……。


「あと……あんたたちはお盆はこっちにいるの?」


 藤原君が私たちに視線を向ける。


「墓参りくらいかな」


「あ! 私14日は玲香と東京行くよ!」


「え、聞いてないけど?」


 夕夜が一番に反応する。


「さっき決まったから。夕夜も行く?」


「⋯⋯どこ行くの?」


「コミケ」


「は?」


「玲香は夕夜も来ていいよって」


「え……やめとく」


 夕夜が反対側へ視線を下げる。


「行ったほうがいいよ大伴君」


 藤原君が揶揄うでもなく、真面目な声で口を開く。


「あの手の場所は、名竹さんみたいなのが一番餌になる」


「え、餌って何?! アニメのイベントじゃないの?」


 そんな物騒な要素ある?

 なんか玲香から聞いてたのと違う。


「あんた話しかけられたらついてくだろ?」


「そんな子供じゃないんだから、玲香もいるし」


「レイカちゃん、周り見えなくなってすぐはぐれそう⋯⋯」


 兄もふざける様子もなく、心配そうに私を見る。

 夕夜は少しだけ躊躇って、小さく息を吐く。


「⋯⋯俺も行くよ」


「え、そんな嫌ならいいよ」


「大人しく付いてきてもらえって」


「じゃあ藤原君も行こうよ」


「行くかよ」


「鏡夜は?」


「えー行けたら行く」


「絶対来ないやつだ」


「名竹君もそこそこ危ないだろうけどね」


 藤原君が半目で兄を見た。

 一体なんなのコミケ……。


「じゃあ、お盆はフリーでいいかな。夏休み中に石上ん家も見ておきたいとこだけど⋯⋯」


 藤原君はカレンダーに視線を落とし、なぞっていた指を止める。


「あ、名竹さんたち誕生日か。20日だよね」


「え、知っててくれたの?!」


 藤原君は薄い笑いを浮かべる。

 あ、これ正規ルートの情報じゃないやつだ。

 私はそのまま顔を伏せ、何も聞かなかったことにした。


「この期間は俺の方で五家関連を調べとくけど、無貌()()()前に名竹さんにお願いしたいことがある」


「え、何?!」


 藤原君に頼りにされるなんて、ちょっと嬉しい。


「できたら無貌戦に鷹野を連れ出したい」


「えっ?! 鷹野先生を?!」


「あいつの能力、一回見ただけじゃ分からない。検証したい」


「つ、連れ出すって、どうやって?」


「25日、古典の補習行ってきなよ」


「え?!」


「そこで上手く言って、約束してきて」


「はっ?」


「ウィンウィンだろ」


「せっかく補習回避したのに?!」


 私は思わず立ち上がる。

 全然ウィンじゃない!

 そもそもあの鷹野先生が、私なんかにお願いされてきてくれるはずもない。


「俺たちじゃ出来ない仕事だからね」


 藤原君が肩をすくめる。

 くっ……この王子、絶対楽しんでる!


「期待してるよ」


 目を細める藤原君に、夕夜も兄も何も言ってくれなかった。

 みんなひどい⋯⋯。


「せっかくの夏休みなのに!」


「楽しい夏休みにしような」


 藤原君は私を見上げて笑った。


 ちょうどそのとき、応接間の扉が開いた。

 扉のそばで立っていた斎藤さんが驚いて声を上げる。


「あ、明景(あきかげ)さん?!」


「あれ、斎藤ちゃんそんなとこで⋯⋯」


 立ち上がっていた私は、ダンディーで整った顔立ちの紳士と目が合う。


「……うちにべっぴんちゃんがいる」


 私を見ていた視線が降ろされ、テーブルに座る三人に向けられた。

 藤原君が眉をしかめて俯く。


「声がすると思ったら、光輝の友達か」


「なんで帰ってきた」


「なんかドタキャンされちゃってさ」


 紳士は見た目ほどあんまり紳士ではなく、茶目っ気のある笑顔でこちらに近寄ってきた。


「これ親父ね」


「これとは失礼だな。気兼ねなく “明景ちゃん” って呼んでね」


「マジやめろ」


 明景さんがニヤニヤとした表情を浮かべている。

 わざとらしく膝で藤原君を突いてみせる。


「光輝。この子が野球部マネの彼女?」


「いつの話してんだよ」


「えっ?」


 私が驚くと藤原君が顔を歪めた。

 夕夜と兄もちょっと反応したのを私は見逃さなかった。


「あれ違うの?」


「とっくに別れてるよ」


「ええっ、藤原君それいつの話?!」


「なんで名竹さんが乗ってくんの?」


「名竹……?」


 明景さんが少しだけ目を開いた気がした。


「あ、名竹華と申しますです! お邪魔してます!」


「キミ……光輝の新カノ?」


「だとしたらあんた地雷踏みすぎだろ」


「ふふ、違いますよ」


「こんな可愛い子、何放っといてんの?」


「俺に言うなよ」


「そんな奥手だったっけ光輝」


「俺に言うなって」


「もうこんな意気地なしより、おじさんと付き合っちゃう?」


 背中を叩かれた藤原君の顔が無になる。

 明景さんは大きく笑う。


「あ、冗談よ冗談。おじさん捕まっちゃうよ」


「気にしないで。親父、ほんと適当な奴だから」


 藤原君が呆れたようにため息を吐く。

 その視線が夕夜に向いた。


「ね、大伴君」


 夕夜が何も言わずに目を逸らすと、兄が小さく吹き出した。


「あれ、“大伴”ってことはキミはあれか! あれだな!」


 ずっと笑ってる明景さんに、夕夜が戸惑いながら頭を下げる。


「お父上を一度見かけたことがあるんだよ。ありゃいい男だな、俺の次に」


「話進まないからもう出てけよ」


 藤原君に追い立てられながら、夕夜と兄に軽く挨拶をすると、一通り騒いで明景さんは部屋を出て行った。


「コーキ、親父さんにそっくりだな」


「え、俺あんなにイカれてないよ」


「お前の方が深度は深いよ」


 確かにおしゃべりの感じはそっくり。

 性格もノリも全然違うのに藤原君と話してるみたいだった。

 気づけば会話の主導権を握ってるところなんて、特に。


「というか、藤原君って中学のときはちゃんと人生歩んでたんだね」


「俺いま何扱いされてんの?」


「なんで別れちゃったの?」


「あんた俺が引きずって傷心してたらどうすんの?」


「あ、ごめんね。思いもしなかった」


「……してないからいいけど」


「でもお前。マネージャーに手出すなんて、案外ベタなことやるんだな」


「ねぇ、この話必要?」


「俺も興味あるな」


「大伴君まで何言ってんの」


「はは、みんなお前が人の子で安心してるんだよ」


「⋯⋯だから、なんだと思ってんの?」



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