第77話 問7と問10
数日後。
帰りのHR。
各教科の答案はほとんど返却されてるけど、ついに個票が配られる。
情報は60点。
クラス平均65点には届かなかった……。
学年平均にかけるしかない。
ただ逆もあり得るわけで……。
ちゃんと全部、平均超えてるかな。
き、緊張する。
先生がテスト結果の個票を配り始める。
並んでる間も心臓がバクバクしている。
「名竹華ー」
「は、はい」
「頑張ったな」
「!!」
悪くはなさそう!
受け取って振り返ると、席で頬杖をついている夕夜と目が合う。
小さく微笑んでくれた。
ああ、でも一人でこれを見る勇気がない。
あ、あとで夕夜と見よう。
「名竹さん」
HRが終わって、クラスが個票や順位発表で騒ぐ中、ニヤけ顔の藤原君が声をかけてきた。
そ、そうだ。この人、校内システム見れるんだった。
当然、私の中身を知っているわけで。
「ふ、藤原君! まだ何も言わないで!」
「え?」
「み、見れなくて……」
「そなの?」
「ゆ、夕夜と一緒に見ようと」
藤原君が口角を上げる。
「大伴君」
「なっ!」
藤原君は勝手に夕夜を呼んでしまう。
夕夜が近寄ってくる。
私の手元の個票に気づく。
「見れないの?」
夕夜が眉を下げて苦笑いしている。
隣でニヤけている藤原君に視線を向ける。
「藤原、向こう行っててよ」
「えー、それひどくない?」
藤原君が愉しそうに目を細める。
でも、素直にその場から離れていった。
藤原君に意味ありげな笑みを向けられてドキドキする。
その表情はどっちなんだ……。
夕夜が隣の席の椅子を寄せて、腰掛ける。
教室に残る生徒もまばらになって、いよいよ開封の儀。
「心配なのは情報だけ?」
「うん、いつもよりは出来てるけどクラス平均はいかなかった」
「まあ、うちのクラス情報平均高いしね」
「私の敵は近くにいた⋯⋯」
夕夜がふっと笑う。
引き出しの中から情報の答案用紙を出す。
夕夜はそれを手に取って視線を流す。
一瞬、眉をひそめた気がした。
「で、では!」
「そんなに力まなくても」
個票を裏返す。
情報の学年平均は……
「62点……」
あ。
「ダメだった……」
ごつん、と額のぶつかる音が響く。
ああ、頑張ったのにな。
「惜しかったね」
「悔しい……」
夕夜が個票に目を落とす。
丁寧に一つ一つ確認している。
「総合平均だと余裕だね。数学も頑張ったじゃん」
それでも……悔しい。
私は両手をぎゅっと握った。
「全教科、夕夜に見せたかった……」
「見せてもらったよ」
小さく微笑む夕夜の視線を受け止める。
「……伝わってる?」
「うん、ちゃんと」
「……それなら、良かった」
少しだけ安心して、でもこのままも嫌で。
夕夜に訊ねてみる。
「次の期末でもう一回、リベンジしてもいい?」
「もう誕生日終わってるよ?」
「でも……ちゃんと約束守りたいし」
「伝わってるって言ったじゃん」
「じゃあ勝手にやるから見ててね」
夕夜がくすっと口元を緩ませる。
机に置いていた情報の答案用紙を手に取った。
「じゃあ、一つだけ」
「え?」
「ここ、問7と問10の解答なに?」
「え?」
あれ? な、なんか雰囲気が……
鬼夕夜になって、ない……?
「こんな点だけ取りに行く方法、誰に聞いたの?」
「ひっ」
夕夜は藤原君の“魔法の言葉”を指さしている。
先生は三角をくれている。
なんなら問7は丸なのに!
なんで分かるの?!
「共有化って、何と何で?」
「え、と……」
そもそも問題なんだったっけ……。
藤原君の言う通り、“内容なんか分かんなくても通ってる”⋯⋯。
「俺はここの点数加味しないから」
「お、鬼!」
夕夜が立ち上がって椅子を片付けると、そのまま私の机に手を置く。
夕夜が口角を上げながら、私を覗き込む。
「鬼相手に誤魔化しは通じないよ?」
こ、怖い。
夕夜は自分の机に戻り、鞄を取る。
「ほら、帰るよ」
「はい……」
私は慌てて帰る準備をした。
廊下で鏡夜と合流すると同時に、鏡夜の背中に隠れる。
「ハナ、どうしたの?」
「夕夜、怖い」
「何テストだめだった?」
「テストは頑張ってたけど、藤原に唆されたから減点した」
「何それ、ウケる」
藤原君が犯人なのまでバレてるし。
何なの夕夜。
「あれ、減点されたの?」
後ろから藤原君の声。
私たちの視線を受けながら、藤原君は愉しそうに笑ってる。
「あ、名竹君。今回も一位おめでとう」
親指で後ろに貼られた順位表を指さす。
「思ってもないだろ」
「いや? 絶対覇王はやっぱすげーなって」
「藤原、分かってて教えたでしょ」
「だから大伴君には内緒って言ったのに」
藤原君は私に視線を向けて、わざとらしく肩をすくめる。
「夕夜には普通にバレたよ?」
「まぁまさか、そのまんま書くとは思わなかったしな」
「え、ダメなの?!」
「せめて文章にしようよ?」
嘲るように笑って肩を叩かれる。
そんなの聞いてないし!
「俺3、名竹さん7くらいの過失割合だな」
「藤原……」
夕夜が藤原君と、なんなら私にも呆れてるようにため息を吐いた。
「で、コーキは何の用なの?」
「そうそう」
藤原君の上機嫌な声。
なぜか不安になる。
「俺もうずっと我慢しててさあ」
「「我慢?」」
嫌な予感に私と兄が顔を見合わせて、藤原君に訊ねる。
「名竹さん珍しく真面目に勉強してるし、一応、自重してたのよ」
藤原君が口元を押さえて笑ってる。
「話したいことあるから、明日うち来てよ?」
「お前ん家に?」
「夏休みの計画立てよ?」
「キモいな」
夕夜と兄が引いている。
「藤原君、夏休みでテンション上がるタイプなんだね」
「やっと自由に動けるからね」
色々と突っ込みたいところはあるけど、夏休みも藤原君と会えそうで私も楽しくなってくる。
「どっか行くつもりなの?」
「名竹さんは協力してくれるよね?」
「夕夜次第かな」
「じゃあ大丈夫だな」
「なんでだよ」
勝手に進む話に、夕夜が迷惑そうに口を開く。
藤原君がにやりと笑う。
「7日の二限目と昼休みのやつ、俺うっかり名竹さんに見せちゃうかもよ?」
「えっ?」
7日って夕夜の誕生日⋯⋯ま、まさか?!
「藤原……」
夕夜が項垂れる。
「なんで知ってるんだよ……」
「漁ってたら見つけちゃって」
得意げな表情で天井のカメラを指さす藤原君を、諦めの眼差しで睨みつける夕夜。
「お前、それもう言ったのと変わんねえじゃねえか」
兄が同情するように夕夜の肩を叩く。
夕夜はちらりと私の様子を伺うように顔を上げる。
「何があったの?」
少し意地悪で聞いてみる。
夕夜は視線を逸らす。
「別に……」
「あとでゆっくり聞いてやりな、名竹さん」
「藤原、黙れ」
「じゃあ明日、終業式終わったら俺ん家ね」
「……行かない」
ほとんど脅迫に近い藤原君の誘いに、夕夜は不服そうに眉をしかめた。
藤原君は口角を上げる。
私の隣に来て、鞄のポケットに入ってるスマホに視線を向ける。
「名竹さん可愛いストラップ付けてるね。あれ? でも俺それ、どっかで見たな」
「お前、ほんっと黙れ」
夕夜の怒りに、藤原君は愉しそうに笑った。




