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第6話 なんか不穏。

 

「おかえりぃ、なんか遅くない?」


 リビングに入ると、ソファで仰向けに寝転んでいた兄がだらけた声で言った。


「お前がいなかったからね」


 夕夜が兄を睨む。

 帰りの電車でもずっと無言だった。

 こんな夕夜は珍しい。


「もうハラ減ったよ」


「え、食べてないの?」


「待ってたからね。俺、ユーヤ君の特製焼きそば食べたい気分なんだよ」


「やだよ、めんどい」


 夕夜はそっけなく答えた。

 やっぱり不機嫌。


「そうだよ。早めに夕飯にするから、今はお菓子で我慢して」


 この状態の夕夜によく頼めるな、と兄に感心する。

 戸棚からスナック菓子を出すと、兄は上機嫌に選び始めた。

 本当に子供だ。


 ちらっと夕夜を見る。

 兄を冷たい目で睨んでた。


「お前さ、マジで放課後だけでも来てくんない?」


「えー、何それ。さすがに意味なさすぎじゃない?」


「……俺、もうキレそうなんだけど」


 夕夜が額を押さえた。


「何。誰よ?」


 夕夜の様子に、兄の表情も曇る。


石上富士(いしがみあつし)。たぶんお前が中三のときの知り合い」


 兄がお菓子の袋を開ける。


「石上って『子安貝』の? 知らないな、どんな奴よ?」


「今三年。銀髪のヤンキー」


「銀髪? 何、そいつが五人衆の一人なの?」


 ポテトチップスを頬張りながら兄は天井を見つめた。


「あー……銀髪。あいつか? いたかもね」


「え?!」


 思わず声が出た。

 ろくに学校も行っていないのに、兄に知り合いがいるなんて。


「どこで会ったの? どんな知り合いなの?」


 私が訊ねると、兄は光のない目でじっと私を見る。


「ヒミツ」


 口角を上げたが、その目は笑っていない。


「えっ?!」


「冗談だよ、ジョーダン。遊び仲間。名前も知らなかったくらいだよ」


 名前も知らない人と一体、何して遊ぶの……。

 どう考えても治安が悪い。


「で、能力は?」


「治癒」


「あー。だから、あいつら生きてたのか」


 ……ん? 

 今、聞き捨てならないこと言わなかった?


「しかし、世間は狭いな」


「まぁ、五家同士の取り決めであの高校に入るように決まってるからね。知らないだけで近くにもなるよ」


 夕夜はそれ以上聞かなかった。

 でも私は気になって仕方がない。


「ねぇ、本当に危ないことはしてない?」


「え〜、そんな心配しなくても大丈夫だよ」 


 軽くあしらう兄に不安を覚える。

 夕夜は聞いても無駄だと小さく首を振った。


「あ、でも」


 兄は黒い笑顔を見せた。


「あいつと仲良くってのは無理だろうな」


 石上先輩の、怯えたような顔を思い出す。

 一体何をしたんだ、兄。



 ***



 翌朝。


 私と夕夜は言われた通り、職員室の前に来ていた。


 巻き添えで怒られるのは癪だけど、兄が話さない以上、石上先輩に聞くしかない。

 だが、いくら待っても先輩は来ない。


「もうすぐホームルーム始まっちゃうんだけど」


「呼び出しの上に遅刻までつくね。いい迷惑。戻ろうか」


 しゃがんでいる私に夕夜が手を差し出す。

 その手を借りて立ち上がったとき、職員室の扉が開いた。


 中から二、三十代くらいの若い先生が出てきた。

 トレーナーとジーンズというラフな格好で、教師には見えない。


 少し癖のある前髪から覗くクマのある目で私たちを見る。


 その視線が――

 夕夜と繋いだままの私の手元に落ちた。


「何でお前ら、職員室前でいちゃついてんの?」


「えっ、あ! 違っ」 


 慌てて手を離すも、これでは逆に怪しい。

 案の定、先生は呆れたようなため息をついた。


「場所くらい考えなさいよ。ほら、教室に戻れ。ホームルーム始まるぞ」


「⋯⋯はい」


 夕夜に促され、その場から離れようとしたとき。


「……あれ?」


 目を細めながら先生が顔を近づけてきた。


「お前、名竹の妹か」


 無機質な疲れきった顔なのに良く見れば整っている。意外と目が綺麗。


 って近い……。

 思わず背中を逸らす。 


 先生はポケットから眼鏡を取り出してかけた。


「あぁ悪い。名竹鏡夜の担任なんだ。どうせ今日も来てないんだろ。一度学校に来いと伝えてくれ」


 眼鏡をかけるとまた雰囲気が変わる。

 アンニュイな大人の雰囲気。

 すごくかっこいい。


 ……あれ? でも、それこの人。

 どこかで見たことあるような――。


 その瞬間、予鈴が鳴った。


「行こう」


 夕夜に腕を引っ張られる。


「ほら、遅刻するから早く行け」


「あ、はい! なんか、兄がすみません」


 慌ててお辞儀をして、その場を離れた。

 結局、石上先輩は来なかった。


 ……なんか。

 本人もだが、藤原君にしろ、石上先輩にしろ。

 “かぐや姫” の周り、社会不適合者多くない? 

 気のせいだろうか。



「あ、藤原いる」 


 教室に入ったところで夕夜が小声で言った。

 窓際の前方。

 頬杖をつき、つまらなそうに窓の外を眺めている。


 あの一角だけ、神々しく光って見える。

 クラスの女子も近寄りがたいらしく、遠巻きにチラチラと様子をうかがっている。


「うわぁ。相変わらず注目の的だ」


「校内じゃ目立たずに接触するのは無理だろうね」


「じゃあ帰りに尾行して家に行くしかないか」


「マジで言ってる?」


「半分ね」


「あんまり突っ走らないでよ」


 夕夜は自分の席に戻る。

 近くに居た梶君に挨拶されると、夕夜も笑顔で返した。


 私や鏡夜の前では澄ましているけど、こういう夕夜は男の子っぽい。

 なんだか微笑ましい。 


 この青春の一風景を兄にも見せてあげたい。


「おはよう、須藤さん」


「え、あ、名竹さん……。おはよう……」


 席に着いて、須藤さんに挨拶をすると、少しぎこちない返事。


「一限目って、現国だよね」


「え、うん……」


「?」


 それだけ言うと、須藤さんはスマホに視線を落とす。

 昨日はもっと普通に話をしていたのに。

 どうしたのだろう。 


 もう一度、話しかけようとしたとき。

 強い視線を感じて振り向く。

 斜め後ろの席。


 頬杖をつく瀬戸さんがこちらを見ていた。

 目が合っても逸らさない。

 まるで品定めでもするみたいな彼女の視線がじっと突き刺さる。


 そのとき。


 前の席の方で女子二人が小声で話しているのが聞こえた。


「……ほんと?」


「昨日、見たって」


「えー……」


 私が視線を向けると、二人は慌てて前を向いた。


「ホームルーム始めるぞ。席つけー」


 ……なんだろう。


 教室の空気が、どこかおかしい。

 胸騒ぎがする。


 先生の話はほとんど耳に入らないまま、ホームルームが終わった。


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