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第5話 仲良くできる?

 

「俺、石上富士いしがみあつしね」


 夕夜に支えられ公園のベンチに腰掛けながら、人懐っこい笑顔で言った。

 見た目ほど怖い人ではないようだ……まともでもなさそうだけど。


 耳には三つも四つもピアス。

 制服も校則の範囲外に着崩している。

 どうみても優等生には見えない。


「私は名竹華です。で、こっちは……」


「大伴夕夜。それ、折れてますよね。右足」


 夕夜は若干引いている。


「ね、折れたわ」


 石上先輩は他人事のように笑った。


「まぁ見ててよ」


 そう言って前かがみになり、折れた足に手を近づける。


玄兎げんと――薬式くすしき


 指をパチンと鳴らす。

 白い光が集まり、一つの塊になる。


 次の瞬間。


 光が弾けて、半透明な白うさぎが飛び出した。


「可愛い!」


「だろ?」


 石上先輩が得意げに右足を差し出す。

 白うさぎは階段を駆け上がるみたいに足の周りで跳ね回り、そのまま膝の辺りで霧のように消えた。


「ほら、治った」


 石上先輩は立ち上がり、地面を二度ほど踏み鳴らす。


「……って俺、上履きのままじゃん」


「取りに戻ります?」


「いや、別にこのままでいいや」


 そう言ってまたベンチに腰掛けた。


 黙って見ていた夕夜が口を開く。


「どこまで治せる?」


「……俺が理解できる怪我や病気だけ」


 石上先輩は肩をすくめた。


「頭の中で組み直す感じ。だから構造や仕組みを知らないと治せない」


 夕夜をじっと見る。


「ぶっちゃけ医者レベルで理解してないと無理。 何? 助けて欲しい人でもいた?」


「……いや、別に」


 夕夜は一瞬だけ私の方を見て、すぐに視線を逸らした。

 少しだけ沈んでいるように見える夕夜に胸がざわついた。


「ところでさ、華ちゃんだっけ?」


 石上先輩がふっと声を柔らかくした。


「あんたがおヒメさまなの?」


 私の右手をそっと握る。


「まぁ、それで来たんだろうけど、俺も五家の一人。ずっと会いたかったんだ」


 少し嬉しそうに笑う。


「可愛い子で嬉しいな。俺のことはアツシでいいよ。よろしくね」


「あっ。先輩⋯⋯」


「違う、こいつじゃない」


 そう、私じゃない。

 夕夜が先輩に握られていた手を振り離す。


「“かぐや姫” はこいつの兄だから。鏡夜とよろしくしてやって――()()()()


「兄? キョウヤ?」


「はい、“かぐや姫” の生まれ変わりは私の双子の兄の方です」


「双子? え? 男なの?」


「まぁ、兄なので男ですね。でも私よりも全然美人ですよ」


「いや、美人でも男はな。……ちょっとテンション下がるわ」


 正直すぎる感想に、思わず笑ってしまう。

 でも夕夜は冷ややかな目で先輩を見ていた。


 ……あれ?

 私たち、仲良くできるよね?


「ってかさ」


 石上先輩が首を傾げる。


「なんで兄の方が生まれ変わりだって分かるの? 華ちゃんに可能性は?」


「兄には生まれつき強い霊力があるんですけど、私には全くないので」


 そう。

 私には鏡夜や夕夜みたいな霊力がないらしい。

 全部、鏡夜に持っていかれたようだ。


「へぇ、なんか面白いね」


 石上先輩は兄を探して辺りを見回す。


「で、今日は兄の方は来てないの?」


「今日っていうか、訳あってずっと学校に来てません」


「何それ、ヒメさま引きこもり?」


 先輩が笑う。


「ちょーウケる。それはそれで会ってみたいな」


 そして私の手を取ると、口元に引き寄せた。


「ねぇ、これから華ちゃん家行っていい?」


「あんたみたいなの、すぐに殺されるよ」


 手の甲に唇が触れる直前、夕夜が先輩の手を掴んだ。

 もう片方でぐいっと引き寄せられる。


 体勢が崩れ、そのまま背中が夕夜の胸にぶつかった。

 気づけば、私は夕夜の腕の中にいた。

 首元に腕を回され、逃げ場がない。


「……触るなよ」


 いつもより低い声。

 夕夜の苛立ちがすぐ近くで伝わってくる。

 先輩はそれを見て、満足そうにニヤついた。


「すごい、独占欲じゃん」


「……違う」


「じゃあ、何なのさ?」


 夕夜の腕に力が入る。


「夕夜?」


「あ……ごめん」


 夕夜はすぐに腕を離した。

 でも、さっきから様子が変な気がする。


「てか俺ヒメ守るんでしょ? なんで俺がヒメに殺されんの?」


「我が兄ながら狂犬みたいに危険な奴なんで⋯⋯」


「はは、美人で狂け――」


 そこで先輩が止まった。


「あれ、待って」


 口元を手で押さえて私を見る。


「キョウヤ⋯⋯って言ったっけ?」


 先輩の様子が変だ。


「双子ってことは高一で? あれが去年で⋯⋯の時に⋯⋯」


 先輩がぶつぶつと呟く。

 私と夕夜は顔を見合わせた。


「ちなみに華ちゃんは何中?」


「隣の更木市の更木二中ですけど」


「あぁぁぁ!」


 先輩が叫ぶ。


「やっぱり!」


「何が?」


「あ、いや……何でもない」


 目が泳いでいる。

 こんなに分かりやすいことある?


「絶対なんかあるでしょ?」


 夕夜が一歩近づく。


「何、鏡夜と知り合い?」


「いや、違う」


 先輩が慌てる。


「てか夕夜君さ。俺に敬語使ったの最初だけだったよね」


「あ、つい⋯⋯スミマセン」


 夕夜は口元を抑える。

 どうやら無意識だったらしい。


「いや、そんな事はどうでもいいんだけどさ。ちょっと俺……」


 石上先輩は一歩下がる。


「今日はいったん帰るわ」


「えっ?!」


「また明日な」


 石上先輩は視線も合わさずに、逃げるように去っていった。



「何だったんだろう?」


「中学の頃の鏡夜を知ってるんだろうね」


「中学って⋯⋯たぶん、あの時期かな」


「だろうね」


 一年前。

 “かぐや姫” の力を発現した頃から、兄は夜な夜な外に出るようになった。


 学校に行かなくなったのもその頃からだ。

 私も避けられていて、まともに会話もしてもらえなかった。

 傷を負って帰ってくる日もあった。


 たぶん石上先輩はその頃の知り合いなのだろう。


「鏡夜に聞いたら分かるかな?」


「さぁ」


 夕夜は冷たい目で先輩が去っていった方を見る。


「鏡夜は自分のこと話さないし、会った奴を覚えるようなタイプじゃないから。一方的な知り合いかもね」


 せっかく仲間が見つかったと思ったのに。

 私たち、上手くやっていけるのだろうか⋯⋯。


 ふと、先輩が座っていたベンチに、白い花が一輪、置き去りにされていた。


 え、なんでこんなところに? 

 先輩、こんなお花持ってたっけ? 


 花は詳しくないけど、ここにあるのは異様な気がする。


 ――綺麗なのに、怖い。


 周りを見渡しても同じような花は見当たらない。

 一瞬だけ胸の奥がざわついたけれど、それを無視した。



 この花が私の運命を大きく変えることになるなんて思いもせず。


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