第59話 鏡夜の暴走
「大伴選手、今のお気持ちを」
「瀬戸、ほんとやめて……」
「なんか、夕夜君の原点を見た気がするね」
夕夜が玲香と天音さんにいじられてる。
夕夜は視線を逸らしながら、私を見る。
「……もう戻っていい?」
「ごめんね、そんなに嫌だった?」
思ってたよりも夕夜が困っていて、私も焦る。
「いや、そうじゃないけど……」
「けど?」
夕夜は私をじっと見る。
怒ってる、のかが分からない……。
「ご、ごめんね?」
「……華が満足したならいいよ」
「うん、ありがとう!」
「……うん」
小さくため息を吐いた夕夜は、それでも優しく目を細めてくれた。
思わず、少し長めに見つめ合ってしまう。
私が先に視線を逸らすと、夕夜もふっと笑って応援席に戻って行った。
「なんか最近甘々だな、大伴」
「え?」
「ちょっと前の大伴なら、もうちょい拗ねて華にカウンターくらわしてたよね」
「確かに……最近、黒夕夜見てない!」
「それは華ちゃんがちゃんと示してるからでしょ」
「えっ?!」
「夕夜君、安心できてるんだよ」
天音さんがふふっと微笑む。
「でも華ちゃんは安心しちゃダメだよ!」
「えっ?!」
「付き合ってないうちは何も出来ないし、誰かが来ても文句言えないからね?」
天音さんがわざとらしく人差し指を立てて、妖しい笑みを浮かべた。
「ゆめゆめお忘れなきよう」
「きょ、教祖様……!」
「天音教誕生だな」
私が指を組んで天音さんを拝むと、玲香が苦々しく笑った。
その後もしばらく、天音さんの手厳しい恋愛指南と、あまり役に立ちそうにない玲香のキャラ別攻略法を聞かされた。
「あれ? 藤原光輝?」
玲香がこちらに向かって、歩いてくる藤原君に気づいた。
なんか、様子が変。
怒っているような鋭い眼差し。
目が合うと顎でこっちに来いと示される。
何かあった――?
「どうしたの、藤原君」
駆け寄ると、耳打ちをしてきた。
「名竹君。今、中庭にいる」
「えっ?」
「大伴君に声かけてから、石上連れてく」
石上先輩が必要って、まさか……。
藤原君が小さく頷く。
「まだ隠せる。バレないように行きなよ」
「わ、分かった」
駆け出したい気持ちを抑えて歩き出す。
「放送トラブルで名竹さん呼び出し」
玲香と天音さんに軽く説明すると、藤原君は夕夜の元へ向かった。
藤原君が夕夜に声をかけている。
夕夜は一言だけ返して席を立ち、私の姿を確認すると外へ駆け出した。
校舎玄関のところで夕夜と落ち合う。
「どうしよう、夕夜」
「落ち着いて、とりあえず中庭に」
夕夜が震える手を握ってくれる。
「普通にして」
「うん」
「あいつ、最近落ち着いたと思ってたけど」
「何があったんだろう」
握られた手に力が入る。
中庭に着き、辺りを見まわす。
隅の影になった場所にあるベンチに、鏡夜が膝を立てて腰掛けている。
「逢引きか?」
光のない、冷たい目をこちらに向ける。
「鏡夜――!」
近寄っても目線が合わない。
小さな呻き声に足元を見ると、壁際に三人の男子生徒が血を流して倒れている。
「鏡夜!」
「死んではないだろ」
「そうじゃなくて!」
夕夜が駆け寄り、鏡夜の腕を掴む。
「戻ってこい」
「はっ、何がだよ。俺だよ」
「違う」
「違わねーよ、俺がやった――っ」
鏡夜を抱きしめる。
どうしたらいいのか、分からない。
ただ、そばにいなきゃいけないと思った。
「離せよ、ハナ」
「やだ!」
「痛い目みるよ?」
「いいから!」
鏡夜がため息を吐いて舌打ちする。
「ほんと、お前ら嫌――」
「玉輪――僻覚絵」
まばゆい光が辺りを包む。
鏡夜の視線が一瞬だけ揺れた。
「少しは冷静になれば?」
藤原君が冷たい声を投げつける。
鏡夜は目元を抑えたが、顔を上げると視線を左右に動かして状況を確認する。
立ち上がって地面に寝転ぶ三人を見下ろすと、一人の身体を足で踏みつける。
「次は殺すからな」
去り際に、鏡夜が藤原君を睨みつける。
「お前も、次は無いからな」
藤原君は黙ってその視線を受け取る。
後ろにいた石上先輩が一歩引く。
「鏡夜!」
夕夜だけが鏡夜を追いかけ、腕を掴む。
すぐに振り払われたが、歩き出した鏡夜の後ろを夕夜はそのままついて行く。
藤原君は二人の背中を見送ると、石上先輩に言った。
「早く治しなよ」
「え? あ、おう」
石上先輩が三人に駆け寄る。
藤原君が私を見る。
「俺、あれ処理してくるけどどうする?」
藤原君は渡り廊下の監視カメラを見上げる。
私は涙を拭って、藤原君に向かい合う。
「一緒に行く」
「じゃあ見張りね」
「うん」
「華ちゃん、ここは俺に任せといて」
「ありがとうございます」
私は先に歩き出した藤原君の後を追った。
「何があったの?」
「あの三人。いじめの主犯」
「いじめ?」
「暴力とかじゃなく、もっと陰湿な」
「それで鏡夜が?」
「始めは、奴らから情報を吐かせようと脅してた」
「情報って?」
「いじめのターゲットが……五人目の五家候補」
「えっ?」
「事情で俺たちだけで接触しようとしてた」
「事情?」
「名竹君の名誉のために言えば、あんたと大伴君を守るため。それに今回のも恐らく」
藤原君が足を止めて振り返る。
「 “五家” を守ろうとしてた」
「え? 五家?」
「⋯⋯あれは “名竹君” の意思か?」
「…… “かぐや姫”?」
藤原君の視線が鋭くなる。
その視線は私に向けられた。
「先に謝っておく」
「な、何を?」
「名竹君に能力を使おうとしてミスってる」
「えっ?! さっきの?」
「僻覚絵じゃない。もう一つの方」
「何を……?」
「言っただろ? 藤原家は記憶改竄が得意って」
「え、鏡夜の記憶を改竄しようとした、の?」
「いや、“かぐや姫” を見ようとしただけ」
「見るって?」
藤原君は視線を外に向けた。
それ以上、話す気はないらしい。
「けど、通らなかった。条件が厳しくてね」
「鏡夜が、怒ってたのはそのこと?」
「うん。僻覚絵は気づかれてないと思う」
藤原君が空を睨む。
「大伴君に共有してもらっていい」
鋭い視線が戻ってくる。
「俺はチャンスがあれば、また試すから」




