第58話 私のラッキーナンバー
「僕たち出番だから、次は華と藤原でお願いね」
「はいっ」
「おい、気安くハナとか言ってんじゃねーよ」
「きょ、鏡夜」
なぜか本部席に鏡夜がいる。
誰も何も言わない。
後ろから宇佐美先輩を睨んで威嚇している。
でも先輩は笑顔を崩さない。
「華の周りはいい男がいっぱいだね。僕も仲間に入れて欲しいな」
「悪いな、こっちには人外魔境王子がご在籍済みだ。王子様は間に合ってる」
「名竹君、俺の評価そんな感じなんだ」
頬杖をついてグラウンドを眺めている藤原君が呟く。
「華はサッカーとかやってたの?」
「おい、無視かよ」
「いえ? サッカー、ですか?」
「リレーのスライディング。いい反射だったから」
「避けるので精いっぱいで……適当です」
「じゃあ、危機回避が上手いのかな? 判断慣れしてるね」
ふふっと笑う。
藤原君と兄の視線が先輩に向けられた。
「そういえば、藤原は天音の彼氏だったんだね」
藤原君が先輩を見据える。
「天音と知り合い?」
「どうだろう? 向こうは僕のこと知らないかもね」
あ、宇佐美先輩も『先輩』だ――。
もしかして天音さんの?
藤原君もわずかに口元を緩めた。
「ねえ、先輩。いまスマホ持ってる?」
「え? ああ」
「RINE教えてよ」
「え、僕の?」
「別に一個くらい増えても変わんないでしょ?」
藤原君はポケットからスマホを取り出す。
いつものスマホとまた違うし……。
まだ了承もしてない先輩のそばまで寄り、圧をかける。
「男の連絡先なんていらないだろ、お互い」
先輩はそう言いながら、渋々スマホを取り出す。
「ライバル候補は潰してかないとね」
「別に天音を取ろうだなんて思ってないよ」
「可能性低くても念の為だよ」
「そんな顔して意外と重いのかな?」
藤原君が先輩を見下ろしながら、手元を盗み見てる。
登録がされると藤原君は小さく笑った。
「ありがと」
「変わった子だな。もう行くよ?」
「うん、もういいよ」
藤原君は先輩が去ると席へ戻ってきた。
「可能性は低いかな」
「そうなの?」
「榊天音と違って警戒なさすぎ」
「天音さん?」
「宇佐美にもそこそこ怪しさはあるけど、なんかハマらないんだよな。警戒心の差が気になる」
藤原君は口元に指を当てて、視線を外す。
「榊天音、アプリを全部ライブラリから開いてた。女子高生のスマホ、結構見てきてるけどファースト画面だけの奴は初めて見たし」
……結構見てきてるって。
いや、突っ込まない。
「コーキ、なかなかキモいな」
突っ込んだ……。
「宇佐美は真逆。トーク画面も俺に見せちゃうくらい警戒がない」
「天音さんが特殊なんじゃない」
「それはある。今日ずっと見てたけど、あいつ誰かに視線を止めることがない」
「え?」
「何かの訓練受けてるんじゃないかってくらい。あれも “見せたくない” 側の心理?」
「お前、ほんとアマネ好きだよな」
兄がくっと笑い、私も思わず頷く。
「期待させて悪いけど、他人のものに興味はないよ」
藤原君は冷めた表情のまま、口元だけで笑った。
その後も私の実況はボロボロで、藤原君は一言しか喋らないのに、何か言うたびに歓声が上がる。
気づけば兄もいなくなっていた。
「もう来年は絶対、違う委員会にする」
「何にする?」
藤原君がにっこりと微笑む。
「……藤原君と違うやつ」
「寂しいこというなよ」
「私使いたいだけでしょ」
「自己評価高くね? 思ったよりサボれてねーよ?」
藤原君が声を出して笑う。
確かに今日は藤原君にはフォローされまくってる。
「ふふ、ありがとね」
「次、女子競技でしょ? 早く行きなよ」
「あ! そうだ!」
「何?」
「借り物競争、『王子様』があったから藤原君呼ばれると思うよ」
「マジかよ」
「天音さんがいても、藤原君はみんなの王子様だからね」
藤原君はグラウンドに視線を向ける。
流した視線は一瞬だけ天音さんを掠めた。
「俺はもういいや」
小さく頷くとすぐに立ち上がり、口元に笑みを浮かべながら宇佐美先輩の元へ行く。
「先輩、あんたに全部譲るよ」
「なんの話? 急に」
藤原君は不敵に笑うと「あとはよろしく」と言って背中を向けた。
藤原君が不在で、『王子様』は目論見通り、宇佐美先輩が連れて行かれた。
玲香が鷹野先生を呼んでいる。
紙を見せられた鷹野先生は顔を歪ませたが、渋々ついていく。
でも判定で追い返される。
玲香……。
一体、何が書かれてたんだろう……。
そして、私の番が来た――。
夕夜の位置を確認する。
梶君と笑いながら応援席で話をしてる。
なんか少しドキドキする。
ピストルの音で駆け出した。
「華ちゃん!」
石上先輩が手を挙げて手招きしてくれた。
「はい、これ」
くじを引くふりで、こっそりと紙を渡される。
私は中を見て、それを手に握りしめた。
「本当にこれでいいの?」
「はいっ!」
「ドラゴンボール集めるくらい難しい気がするんだけど」
「ふふっ、ありがとうございます!」
私は夕夜の元へ走った。
「夕夜! 夕夜!」
「え?」
来てきてと手招きすると、梶君の顔がニヤける。
「あらら〜」
「俺?」
夕夜は少し警戒しながら、近づいてくる。
「早く早く!」
「お題なんなの? 『運命の人』とか?」
梶君が手元の紙を覗いてくる。
「『7』? どう言うこと?」
「え、華……」
戸惑う夕夜の手を引く。
「行こう!」
「マジかよ……」
躊躇いながらもスピードを合わせて走ってくれる夕夜の手を握る。
「マジ行きたくないんだけど」
夕夜が呟く。
「なんで? 私のラッキーナンバーだよ!」
笑いかけると、視線を逸らしながら恥ずかしそうに俯く。
夕夜の手をぎゅっと握った。
判定係に紙を渡す。
なぜか石上先輩も寄ってきた。
「夕夜君って実は神闘士だったりする?」
「なんですか、それ」
「なんで『7』で夕夜君?」
「ふふっ」
私は夕夜の腕を掴んで引き寄せる。
「七夕生まれの夕夜君です!」
先輩たちの空気が一瞬止まる。
夕夜が項垂れる。
「え? 似合いすぎだろ」
唖然とする石上先輩が呟く。
「……まぁ、それなら」
判定係の先輩は同情の目を夕夜に向け、ゴールへと通してくれた。
「ほら、行こう夕夜!」
「マジ、勘弁して⋯⋯」
もう走る気力を失った夕夜の腕を引っ張ってゴールした。
「なんで? 夕夜にぴったりだよ!」
夕夜は観念したように目を伏せた。




