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第55話 耐えられない距離


「えっ、鏡夜1位?!」


「むしろ何間違えて2点ミスしたのか気になるね」


 2位の夕夜がくすくすと笑う。


「いやいや、そもそも学校来てなかったのに?!」


「先生が一番困ってそうだよね」


 中間テストの結果が貼り出された。

 上位10位までの発表でも、その中のさらに上位に三人も周りの人間が入っている。


「大伴に負けたか」


 4位の玲香が大げさにため息を吐く。


「バイトしてて4位は尊敬するよ」


 夕夜が褒めてる……玲香すごい。 

 私、尊敬なんて言われたことない。


「ふっ、これもすべて推したちのおかげ」


「ごめん、それはよく分かんないや」


 夕夜は視線を逸らした。

 そのまま私に視線を向けてくる。


「華は個票見た?」


「う、うん」


 こんなのこの人たちに見せられないけど。

 このまま封印しよう。


「帰ったら確認するから」


「お、鬼!」


「甘やかしたって仕方ないでしょ」


 勉強に関しては優しい夕夜はいない。

 兄に泣きついて回避しよう。


「名竹さん、古文ギリギリだったよ」


「藤原君?!」


 なぜ知ってるんだ。


「助動詞壊滅だったから、そこ見てあげなよ」


「何でそんなことまで知ってんのよ?!」


「名竹さんが隠すようなら、大伴君に見せてあげるよ」


「藤原⋯⋯」


 夕夜の呆れた視線に、藤原君は薄笑いを浮かべてる。


「てか藤原は意外に載らないんだな、あれ。数学は満点だったでしょ?」


 玲香が順位表を指さすと、藤原君は表情を崩す。


「上位取るなんて、めんどいことやらないよ」


「何それ、調整できますみたいな言い方」


 私が言うと、藤原君は真顔になる。


「え、下げるのは普通に出来ない?」


「くっ、嫌味」


 藤原君が笑う。


「ああ、名竹さん下から数えた方が早いもんね」


「何で言うの?!」


「華、そんななの?」

 

 夕夜が呆れを通り越して引いている。


「あ、赤はないから!」


「てか、名竹さんのせいで平均見誤ったから俺もヤバいんだけど」


「何で私のせいなのよ」


「名竹さん基準で平均低く見積もりすぎた」


「華基準はブレるからやめときなよ」


「だね。中間は情報もないし微調整ミスった」


 テストって平均見積もるものなの?

 夕夜もさりげなくひどいし。


「で、藤原君は何位なのさ?」


「18」


「充分じゃん!」


「12くらいが色々ラクなんだよ」


 なんだコイツ!

 全然仲間じゃない!


「……てか、期末って情報もあるの?」


 私は恐る恐る夕夜に聞く。


「必修科目だしね」


「もっと日本語のテストにしてくれないかな」


「古文も日本語だけどね」


 夕夜が分かってくれない。

 寄り添ってもくれない。


「俺は期末の方がラクそうだな」


「もうやめときなよ、微調整」


 この人たち、絶対におかしい。


「とりあえず華は補習も大丈夫なの?」


 玲香が心配そうな視線を向ける。


「うん! 今回は!」


 ギリギリセーフ。乗り越えた!


「逆に補習受けといた方がいいんじゃない? ギリギリが一番危ない」


 藤原君がニヤけながら言う。

 これ以上、ペラペラと人のテスト事情を話されては困る。


「だ、大丈夫。夕夜先生いるし!」


 夕夜の腕にしがみつく。

 呆れた視線が降りてくる。


「華……」


「ちゃんとやるから!」


「いや、違くて」


 夕夜は諦めたようにため息を吐く。

 何か言いたげだけど、何も言わない。


「大伴君、その名竹さん耐えれんの?」


 藤原君の顔は相変わらずニヤついたままだった。



 ***



「ハナ、委員会なの?」


「うん、体育祭までしばらく残るかも」


 放課後。

 兄が教室まで迎えに来た。

 放送委員の私は体育祭の準備が始まっていた。


「ユーヤは?」


「俺は教室で待ってるけど、お前どうする?」


「えー……じゃあ、俺も待つよ」


「たぶん一時間くらいかかるよ? 二人で帰っててよ」


「危ないから却下」


 兄が即答する。

 夕夜も無言で私を見る。


「俺が送ろうか?」


 藤原君が後ろから覗き込む。


「コーキが?」


「俺も放送委員」


「一度も仕事してないけどね」


「いい委員会だよね」


 仕事になると消えるくせに。

 藤原君を睨むと、くすりと笑った。


「なんで二人が一緒なの?」


 兄が眉をひそめる。


「美化か保健狙ってたんだけど」


 藤原君の視線が私に向けられる。


「名竹さんが女子に放送押し付けられてて」


「え?!」


 藤原君、気にしてくれたの?!


「これは放っておけるなと思って」


 藤原君がにっこりと笑う。


「それ最初からサボりたいだけじゃん!」


「ラクでいい委員会だよね」


 兄と夕夜が呆れた視線を向けている。

 でもミーティングには参加はするつもりらしく一応、ペンケースは持っている。


「体育祭はちゃんとやってよね」


「本部席にいられるのがいいよね」


「絶対サボるつもりでしょ」


 藤原君は薄い笑いを浮かべた。


「で、どうする? 送ってけばいいの?」


「あ。夕夜、それでもいい?」


 兄と藤原君の空気が止まる。


「華⋯⋯待って」


 夕夜が項垂れる。

 視線を逸らして赤面する。

 

 獲物を見つけたように、藤原君が目を細める。


「え、何?」


 愉しそうな声。


「許可制なの、大伴君?」


「いや、そういうわけじゃ、ないから。ほんと」


 藤原君がどこか嬉しそうに笑う。


「名竹さんも学んでんじゃん」


「え、何が?」


「安心できていーね?」


「だから、違くて」


 口元を覆いながら、しどろもどろで答える夕夜。

 そんな夕夜を見て兄が、ふっと笑う。


「何? お前が振り回されてんの?」


「何が」


 夕夜が怒る。


「あのユーヤ君がね」


「何がだよ」


 いたずらっぽく笑う兄を夕夜が睨む。


「じゃあ今回はコーキに任せるよ」


「了解」


「終わったら夕夜に連絡するね」


 夕夜が視線を逸らしながら頷く。


「ハナちゃんになんかしたら、タダじゃおかねーからな」


「俺が何するってんだよ」


「あと、あんまユーヤいじめんな」


「いじめてないよ、いじってるだけ」


「お前、ほんと性格悪いな」


「そんな褒めると伸びちゃうよ?」



 ――そして1週間後。

 伸びきった藤原君の本領を私たちは目の当たりにする。



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