表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/94

第51話 倍返し⋯⋯って何?


「でね、鏡夜が元彼で藤田君は顔で選んでないんだけど、天音さんは二人に興味はないのね」


「……うん」


「分かってる夕夜?!」


「……うん」


「聞いてないでしょ?!」


 授業が終わって、夕夜を廊下に引っ張り出す。

 さっきのことをちゃんと全部報告しているのに、夕夜は気のない返事ばかり。


「……聞いてるけど」


「けど?」


「知らない情報がなかった」


「ええ?!」


「まあ、強いて言うなら石上家の家伝の話くらい」


「“治癒”じゃなかった、は?」


「先輩が毒魔法とか言ってたときに、藤原が『作用の話だ』って否定してたし」


「え、じゃあ改竄は?」


「その時期に何かあったんだろうなとは。鏡夜も藤原も普通にしてるし……そういうものかなって」


 夕夜が呆れてるような視線を向ける。


「華だって、『なんでこんな偏差値高いとこに』って文句言ってたじゃん」


 う、確かに。

 夕夜と兄についていくため、死ぬ気で頑張った。

 なんであのときに気づかなかったんだ、私。


「……じゃあ、鏡夜のことも?」


 私の目を見ていた夕夜の視線が、伏せられる。


「“かぐや姫” の記憶のせいで混乱しているのは知ってる」


 夕夜は、鏡夜のこともちゃんと見てたから知ってるんだ……。

 また、私だけが知らない――


 俯くと、指先にそっと夕夜の手が触れた。


「鏡夜の口から聞くべきことだと思うから、俺からは勝手なこと言えないけど」


 夕夜が頬に手を添えて、私の顔を上げる。


「あいつは華のことを一番に考えてるから」


「⋯⋯うん」


「ねえ、学校ではやめとけば?」


 後ろから呆れた声がする。


 デジャヴ。


「藤原君……」


 振り返ると鞄を肩にかけた藤原君が立っていた。

 まるで今登校してきましたとでもいうように堂々としている。


「廊下でキスはさすがにやりすぎ」


「なっ! 違っ!」


「名竹さんは違くても、大伴君は分かんないよ?」


 意味深に夕夜へ視線を向けた藤原君は、そのまま教室へ戻っていく。


「な、なんなの……?」


「なんだろうね」


 夕夜が口元だけで笑って、そのまま教室へ戻っていく。


「なんなの……?」


 二人に続いて教室に入ると、鞄をかけたままの藤原君が天音さんに声をかけていた。


「放課後、テスト勉強しようよ」


「だから天音、必要ないんだけどな」


「ただの口実、言わせんなよ」


「あはは。まぁ、いいよ」


「教室でいい?」


「うーん……図書室かなぁ」


「じゃあ、そこで」


 二人の世界に割って入る。


「それ私と夕夜も行くから」


 藤原君が笑顔のまま睨んでくる。

 夕夜は呆気に取られてる。


「⋯⋯保護者同伴になったみたい」


「ふふっ。じゃあ玲香ちゃんも誘おうよ」


「それは楽しそうだ」


 すれ違いざまに藤原君が小さく舌打ちした。


「邪魔しないでくれる?」


「本気なら邪魔しないよ」


「本気だって言ってるだろ」


 火花を散らす私と藤原君を見て、夕夜がため息をついた。



 ***



「華、テスト前にこんなことしてて大丈夫?」


「だってしょうがないでしょ。藤原君と天音さん、二人きりになんてできないよ」


「そういう話、俺がいないとこでしろよ」


「華ちゃん、かっこいいね」


「天音さん、嫌なことされたら私にすぐ言ってね」


 放課後の図書室。

 天音さんの隣を陣取り、向かいに座る藤原君を睨む。

 対角線に座る夕夜は呆れている。


「ちょっとは空気読めよ」


「読んだ結果です」


 藤原君はため息をついて頬杖をつく。

 何かの機会を伺っているかのように、私のことを見下ろしている。


「何、藤原君?」


「そこ間違ってるよ、“it” いらない」


「え?」


 藤原君がノートを指さす。


「“the book which I bought yesterday.” でいい」


「あ、そか」


「ほんとは “which” もなくていいけどね」


「そうなの?」


「そこ分かってないの結構ヤバいよ、名竹さん」


「光輝君、やっぱり英語できるんだね」


「いや、これ初歩だけど」


 藤原君は天音さんへの“設定”を忘れたのか、素で呆れてる。


「藤原は英語できないんじゃなくて、嫌いなだけでしょ。“情報”と真逆だし」


「分かる? 俺の英語答案、三角ばっかなのよ」


「省略しすぎなんだよ」


「コードなら通るのにね」


「命令じゃ人間は通らないよ」


「だから嫌い」


 夕夜と藤原君が笑い合ってる。

 なんか……普通の男子校生みたい。


 この夕夜も可愛い。

 萌える。


「どうしたの、名竹さん?」


「いえ、別に」


「華ちゃん、夕夜君へのラブが漏れてるね」


「え?! 違っ! 今のは藤原君とセットで萌えてただけで!」


「そういうの、巻き込まないでくれる?」


 冷たい視線の藤原君の横で、くすくすと笑ってる夕夜と目が合って、顔が熱くなる。

 天音さんがそんな夕夜をじっと見ている。


「何?」


 夕夜が訊ねる。


「ううん、別に」


 天音さんは小さく微笑んで目を伏せた。


「そう言えば玲香ちゃん、遅いね」


「ああ、鏡夜が体育館でバスケしてるから見に行ってるの」


「そう」


 天音さんが無表情で答える。

 う、兄の名前出すんじゃなかった。


「名竹君、バスケ部入るの?」


「ううん、鷹野先生に『青春しろ』って無理やり連れてかれた。顧問なんだって」


「あの人の青春推しなんなの……」


 夕夜が呆れてる。


「なんか年寄りくさいよね、天音あのノリ無理」


「えー、そこの温度差がいいのに」


 私の言葉に三人の視線が突き刺さる。


「名竹さん」


 藤原君が冷ややかな視線を向ける。


「よくそれで俺にモノ言えるよね」


「え、ただのファンだよ?」


「大伴君、嫌なことされたら俺にすぐ言えよ。倍返ししてやるから」


 藤原君が鋭い目のまま笑う。


「……材料は揃ってるよ?」


「――え?」


 冗談なのか本気なのか分からないその物騒な笑顔に背筋が凍りつく。


「ふふ。夕夜君、モテモテだね」


 天音さんが優しく微笑んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ