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第34話 歩くだけのイベントで⑤


「俺が数えたので五回」


 一番後ろの席で藤原君が控えめに言った。

 前にいる先生と玲香に聞こえないように。


「雷が落ちた」


「確かに、何回か近くに感じたかも」


 無貌でそれどころじゃなかったけど。


「屋外で、大伴君は水まで使っていた」


「でも夕夜も私も離れてたから」


「あの距離だったら普通は何かしらあるはずだよ」


「確かに……」


 夕夜が口を開く。


「最後飛び出したとき、無貌の近くに落ちた……」


「うん、俺もあの雷は気になった」


「電気はあいつに流れて大きくなったけど、その間、動きが止まって一瞬の隙ができた。あれがなければ普通にやられてたかも」


「えっ、気づかなかった」


 それだと――。


「あの雷は無貌のものじゃなかったってこと?」


「まぁ、まだ言い切れねぇけどな」


 兄が少し考えている。


「コーキの言う通り、普通なら巻き込まれてもおかしくない。助けるつもりならそもそも落とさない」


「狙って落としたのか、それとも――」


 藤原君が呟く。


「助けるつもりでも “落とす必要があった” か」


「落とす必要?」


「どちらにしても――気まぐれな神様がいるのかもね」


 藤原君がふっと笑った。



「大伴」


 前から声がかかる。


「もう着くけど、お前どうする? ゴール地点で待つか」


「……いや、一緒に降ります」


「え、大丈夫?」


「うん、あと少しだし平気」


 椅子にもたれたままの身体はまだ重そうだ。


「俺もう支えないよ?」


「名竹さんが支えるよ」


 藤原君がニヤつく。

 睨みつける。


「大丈夫だから。鏡夜も、ありがとう」


「貸し、だかんな」


「分かってるよ」


 夕夜も兄も小さく笑った。




「華ちゃん!」


「天音さん」


 車のドアを開けると、天音さんが出迎えてくれた。


「夕夜君といなくなるからびっくりしたよ。無事で良かったぁ」


 そうか。そう言うことになってるのね。


「心配かけてごめんね」


「ほんと、二人で抜けるなんてやらしいよね」


 後ろから降りてくる藤原君が笑う。

 睨みつける。


「華ちゃんたちがそんなことするわけないでしょ」


「えー、分かんないよ? だってさぁ、この二人――」


「ちょっと、藤原君! いいかげ――」


「ハナ、詰まってるから早く進んでよ」


 顔を出した兄の視線が天音さんを捉える。


「あっ」


 兄の視線を受け取った天音さんの顔が歪む。


「げっ」


 鏡夜と天音さんが見つめ合う。

 二人とも、美しい顔を露骨にしかめて。


「よぉ、久しぶり」


「……どちら様ですか?」


 初めて聞く天音さんの低くて冷たい声。

 それを見て鏡夜が笑う。


「あ、それで行くのね」


「何のことでしょうか」


「はいはい、ハジメマシテ」


 そう言うと兄は先に行ってしまった。

 兄の背中を見る天音さんの無表情が、少し怖い。


 二人に何があったの……。


「あ! 夕夜君もおかえり!」


「……その雰囲気の後に話しかけるのやめてくれない?」


 夕夜が天音さんを見て、わずかに眉をひそめた。

 みんなの凍りついた視線を集めながら、天音さんは何事もなかったように振る舞う。


「あ、先生! 天音疲れたからゴールまで送ってよ」


 結局、天音さんはリタイア組と一緒に別の車で先にゴールへと向かうことになった。


 ――何だったんだろう、さっきの。


「鏡夜と天音さんって何があったの?」


 先頭を歩く鏡夜と先生から離れて、小声で夕夜に聞いてみる。


「いや、俺も知らない。知り合いなのもさっき知った」


「なんか王道ラブコメの入りだったよね。俺様系――」


「瀬戸さん、話進まないからちょっと黙ってて」


 藤原君が玲香に視線を刺す。


「鏡夜、まさか天音さんに……」


「それはないと思うけど」


「なんで?」


「同年代と付き合ったのって最初だけで、あとみんな年上だし」


 ……そうなんだ。

 彼女の気配は感じてたけど、知らなかった。


「そもそも名竹君って本当に女遊びしてるの? 噂は聞いたことあるけど」


「……あいつが追わないから誤解されるだけだよ」


 夕夜が視線を落とす。

 夕夜は兄とそういう話もするのかな。


 私にはあまり話してくれないけど。


「はいはい、自己破壊型俺様ヒーローね」


 玲香が呟く。


「いいね、尊いね名竹鏡夜。遊んでるように見えて、ただ寂しいだけのやつでしょ? 本命できたら一気に重くなるやつ。愛され慣れてるくせに、愛し方は知らないタイプでしょ」


 玲香に視線が集まる。


「……早口で確信つくのやめてくんない?」


 藤原君が冷めた声で言った。


「ははっ。別に、確信じゃねーよ」


 空気が一瞬にして凍る。

 話に入ってきた鏡夜の目は笑ってなかった。


「タカノが、あとは好きにしていいってさ」


 兄が前の方を指さす。

 先生はいつのまにか前の集団に合流していた。


「で?」


 兄に肩を組まれながら、顔を覗き込まれる。


「ハナちゃんは何が気になってるのかな?」


「あ、えと」


 みんなの視線が私に集まる。


 何か、言わなきゃ。

 聞きたいこと……


「あ、天音さんとはどう言う関係なの?!」


 考える間もなく口にしてしまった。

 鏡夜は少し驚いてる。


「え、アマネのこと?」


「え、うん」


「なんだ、そっちか」


「そっちって?」


「女の話かと思った。アマネは、婚約者だったんだよ」


 さらっと言う。


「「「「はぁ?!」」」」


 夕夜も声を出していた。

 みんなの驚く顔を見て、鏡夜は吹き出すように笑った。


「元だよ、元」


「鏡夜に婚約者がいるなんて聞いてないんだけど?!」


「言ってないからね。夕夜パパが取り消してくれたから今は解消してるし」


「父さんが?」


「元々は名竹と榊の誓約だったんだけどね。アマネがめちゃくちゃ嫌がって破談になった」


「え、何したの?」


「さぁ、何だろうね?」


 目を細めてにこっと笑う。

 天音さんのあの態度、絶対兄がなんかした。


「じゃあ――」


 藤原君が言いかけた。

 けど玲香を見て、その言葉を飲み込んだ。


 たぶん、私と同じことを聞こうとしていた。



 榊家にも――天音さんにも能力があるのか、と。



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