表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/44

第31話 二人だけの戦い


 ――突然の雷。


「え、何?!」


 急に空が暗くなる。

 夕夜の近くへ駆け寄る。


「夕夜、これって!」


「うん、上から来る」


 神社の方を睨み、夕夜が構える。


「夕夜、ごめん。いったん、ここ任せる」


「華っ?!」


 私は駆け下り、みんなが見える位置に移動する。



 ――『二つ目。動くやつじゃない。動かないやつを見てろ』


 鏡夜の声がよぎる。

 天人に繋がってる “誰か”。


 後ろの方で木の折れる音が聞こえる。

 木々の間から仮面の無貌むぼうが現れる。


 玲香が悲鳴を上げた。


 ――え、雷? 


 ひび割れた仮面をつけた無貌は、その身体に電気の帯をまとっている。

 その光が仮面に空いた穴を、不気味に照らす。


 次の瞬間、下へ行こうとする私の腕を掴まれた。


「名竹さん! 俺あの二人、連れ出す」


 藤原君が、玲香と天音さんに視線を向ける。


 二人とも無貌を見上げている。


 ――けど。


 天音さんは無表情だった。


 え。


 怖がってない?

 それとも恐怖で固まってる?


「あ、うん。お願い!」


「それと――」


 藤原君が私の腕を引き上げる。


「結界が張られてない。下に行くより、あれを上に連れて行った方がいい」


「分かった! あと鏡夜に会ったら――」


「当たり前」


 そう言うと私と藤原君は反対方向に駆け出した。

 ちらりと後ろを見ると、心配そうにこちらを見つめる天音さんと目が合った。


「夕夜!」


「華っ!」


「お待たせ」


「いや、華も一緒に下がって――」


「とりあえず無貌を神社まで連れて行く」


「え」


 私は夕夜より先に無貌に向かって走り出した。


「結界が張られてないの!」


 それだけ言うと夕夜も駆け出した。


 上り坂、結構キツいな……。


 無貌の脇を抜ける。


 私に気づいた無貌が、迫ってくる。

 全力で、神社を目指す。


 夕夜が追い抜き様に私の手首を掴んだ。


「転ばないようにだけ気をつけて」


 そのまま引っ張られる。

 いつもより早いスピードで、参道を駆け抜けていく。


 神社に辿りついた時には夕夜も息が切れていた。


 すぐ近くに雷が落ちる。

 社殿の陰に身を潜める。


「無貌の、あの光って……電気かな」


「だとしたら、俺と相性悪……いかも」


 夕夜は呼吸を整えながら参道を睨む。



 大きな雷がまた一つ、落ちる。

 

 ――その直後。


 衝撃と共に無貌が現れた。


「とりあえず、電気ぶつけてみるか……」


 夕夜が無貌を睨む。


水鏡みずかがみ――鱗珠うろくず


 無貌に向かって飛び出た電気ナマズが放電しながら体当たりする。


 バチッ。


 一瞬、空気が鳴った。


 ナマズの電気が吸われるように無貌に流れる。


 ――効いていない。


 そして魚影が弾き飛ばされる。


「……最悪」


 夕夜が呟く。


「やっぱり電気?」


「だね。あいつに流れた。でも、抜けなかったから実体がある」



 ――『三つ目。逃げずに囮になれ。ただし俺か夕夜の視界内で』。


 よし。

 覚悟を決める。


 ――視界内で、囮に。


「夕夜。夕夜のこと信じてるから。何か見つけよう」


 そう言って私は無貌の前に飛び出す。


「華っ!?」


「大丈夫だから!」


 無貌は私の姿を見つけると身体の向きを変える。

 私は、夕夜から離れるために駆け出した。


 空気の破ける音――。


 振り返る。


 次の瞬間、雷が落ちる。


 無貌はいつのまにか私に向かって5本の腕を伸ばしている。


 方向を変えて逃げる。


「?」


 あれ、腕が?


 無貌の腕を避けながら、違和感を探る。


 ――あっ!


「夕夜、腕!」


 腕には電気が帯びていない!


「っ! 水鏡みずかがみ――鱗珠うろくずっ!」


 電気ナマズが、今度は無貌の腕に向かって放たれる。


 バチッ。


 火花が弾け、無貌の腕からわずかに白い煙が上がる。


 一瞬だけ、動きを止める。


 ――さっきと違う!


「華っ! 攻撃が効く!」


 それなら!


 私は走り続け無貌の腕をかわす。

 何か当てる方法を見つけなきゃ。

 夕夜も無貌から視線を外さない。


「あいつ、電気を溜め込んでるだけか。それなら――流せるか」


 夕夜が呟く。


水鏡みずかがみ――鱗珠うろくずっ!」


 無貌の四方に電気をまとった細長い魚影が現れる。


 ――ウナギ?


 四つの槍のように、無貌を囲うように突き刺さった。


 無貌の身体に触れた瞬間、電気がウナギの身体に沿って線を描くように流れていく。


 白い線が、ところどころで火花を散らしながら、複雑に絡み合う。


「見つけた――」


 夕夜が無貌の前に飛び出る。


 と同時に、無貌のそばに雷が落ちた。

 轟音が鳴り響く。


 無貌の動きが一瞬だけ止まる。

 弾けた電流が、そのまま無貌に流れ込んだ。


 無貌のまとっていた電気が、わずかに強くなる。


「……やっぱり、溜めるか」


 夕夜が私に視線を向ける。


「華! こっちに!」


「うん!」


水鏡みずかがみ


 夕夜が深く呼吸を整える。


幾許群そこばくっ!」


 次の瞬間、空間に無数の銀色の粒が現れる。


 魚の……群れ――?


 それぞれの粒が重なり合い、一本の大きな水のうねりとなる。


 呼吸を忘れる――。


「行け」


 夕夜が呟く。


 魚群は大きな水流となり渦を巻きながら、無貌に突っ込んでいく。


 無貌の身体にぶつかった水流は電流を受け流し、電気を外へと流していく。


 ほんの一瞬、無貌の身体に纏う電気が薄くなる。


「電気が抜けた――!」


「行ける。もう一度――」


 夕夜が集中する。

 空に向かった水流が二つに分かれ、無貌を挟むように向かっていく。


水鏡みずかがみ――鱗珠うろくずっ!」


 水流が無貌の身体から電気を引き流す――


「――今だ」


 その瞬間、現れた三匹のカジキが一気に突き刺した。


 鈍く、湿った音が沈む。


 水流は一つ一つの粒に戻り、弾けながら雨のように降り注ぐ。


 無貌は動きを止め、静まり――


 僅かに残った電気が、バチッと弾ける。


 次の瞬間。


 白い光が、縦に走った。

 空と地面を貫くような稲光が弾け、無貌は、そのまま掻き消えた。


 ……やった。


 力が抜けて、へたり込む。

 魚群の残した水が、静かに戦いの跡を消していく。


「華、怪我ない?」


 息を切らした夕夜がジャージを被せてくる。


「それ、着てて」


 夕夜のジャージもびしょ濡れで思わず笑う。

 いつものように差し出された手を取ると、私は思わず抱きついた。


「すごい、すごかったよ! 夕夜!」


 なんでこんなに嬉しいのか、分からない。

 でも胸が詰まって涙が出そうだった。


「……華も。無事で、良かった」


 夕夜がそっと背中に手を回した。


 あったかい。



 この日、私たちは初めて無貌に勝利した。


 ――そして。

 私たちを見ていたのが天人だけではないことをこの後知ることになる。


 どこかで、誰かが笑った気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ