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第28話 血糖値爆上がり


「華っ!」


 遠くから玲香の声がする。

 バスを待つ校庭はジャージ姿の一年生で溢れかえっている。


「華っ!」


 息を切らした玲香が私の肩を掴む。

 玲香が何に慌てているかを私は知っている。


「見た?」


 玲香は何度も大きく首を振った。


「てか、来る!」


 玲香が指さす。


 人の波がかき分けるように道を作る先にいたのは……


 鏡夜。


 周りの視線をかき集めながら、気だるそうに一人歩いている。


「あ、ハナ」


 私を見つけるとこちらに近寄ってきた。


 体操服とジャージでこんなに色気を出せる人がいようか。


「ねぇ、ユーヤ君知らない?」


「夕夜は実行委員だから、前の方だと思うよ」


「そなの? 俺、どうすればいいんだろ」


 置き去りにされたゴールデンレトリバーみたいな姿に思わず笑う。


「B組は向こうだから。あの、青いはちまきのとこ」


 ちらりと視線を向ける。


「……いいや。ここにいよ」


「スチルやば」


 玲香が息も絶え絶えに後ろで呟いた。


「あ、そうだ! 鏡夜」


 玲香の横に立つ。


「え、華っ!?」


「友達の瀬戸玲香ちゃん」


「レイカ? あぁ、あの」


 どの? なんて小声で慌てながら玲香は背筋を伸ばす。


「あ、瀬戸です。どうも」


 いつもより低めの声は震えている。


「よろしくね、レイカちゃん」


 視線が玲香の顔に向けられる。


「……入試ん時、隣だった人?」


「?!」


 兄が、他人を覚えてるなんて珍しい!

 これは!!


「えっ、あ……はい」


 玲香が赤面して俯く。


「試験中もめっちゃガン見されてたから覚えてるわ」


 兄が笑う。


 玲香、何してんの……。


「この人、こんなんで受かんのかなーって思ってたわ」


「……受かりました」


「ハハ、ウケる」


「まぁ、余裕です」


 一生懸命にクールぶる玲香が可愛い。


「瀬戸さん。そんなキャラじゃないよね?」


 隣にいつの間にか藤原君が立っていた。


「お、コーキ」


 知り合いを見つけた兄はどこか嬉しそうだった。


「昨日はどうも」


「え、あの二人は知り合いなの?」


 玲香が耳元で囁く。


「うん、昨日からだけど」


 というか……。


「「これ、合法?」」


 ビジュやば。


 きっとここにいる全員、同じことを思ってる。


「建国と傾国が並ぶなんて……」


 玲香が呟く。


 いや、昨日も並んでたはずだけど。

 空気張り詰めてたし。

 うちのアパートが藤原君の魅力を半減させてたせいで、気がつかなかった。


「生きてて良かっ……名竹鏡夜のおかげで、この世から戦争は無くなるよ」


「ふふっ」


「何? 瀬戸さん、また発症してんの?」


 藤原君が呆れてる。


「レイカちゃん、そっち側なんだ」


「だ、大丈夫です。今、戻ります」


「何、瀬戸さんって名竹君狙いなの?」


 冷ややかな目で玲香を見る藤原君が言った。


「ふふっ。私が初めて藤原君と話したときと同じ感情だと思う」


 藤原君は少し考えてから、苦い顔した。


「あぁ……()()ね」


「藤原君、ありがとうね」


「何が?」


「鏡夜、連れ出してくれて」


「別に。お互いメリットがあっただけだから」


「それでも、ありがとう」


「……どういたしまして」


 少しだけ首を傾けて、そっけなく言う藤原君のらしさに頬が緩む。


「昨日、あの後大丈夫だったの?」


「えっ?」


「帰り際。大伴君」


「夕夜?」


「少し怒ってたでしょ?」


「え、気づいてたの?」


「うん、面倒そうだから触れなかったけど。俺にっていうより、名竹さんにだったし」


「えっ、私に?!」


「あんまり俺と仲良くしちゃダメだよ?」


 藤原君が口元だけで笑う。


「え、昨日は死ぬまで一緒にいようって言ってくれたじゃん」


「……勝手に一人で死んでてくれる?」


「私と藤原君の仲じゃん」


「それ俺にメリットある?」


 ふざけて笑い合う。


「お前たち、そんなに仲が良かったの?」


 兄が入ってきた。


「名竹君には、これが仲よく見えるの?」


「まぁ、あいつの情緒に関わるくらいには」


「俺にそこまで影響力あると思う?」


「あいつ、あれで全然余裕ないからな」


「あいつって、夕夜? 余裕ないの?」


 二人は驚いたように目を見開いた。


「……ハナちゃんが分かる女になってる」


「あの木偶の坊だった女が、ね」


「なにそれ、私のことバカにしてる?」


「あと、勝手に俺のこと決めつけないでくれる?」


 ?!


「ゆ、夕夜……」


 空気が止まる。


 いつからそこに……。


 その視線に、さっきの会話を全部聞かれていた気がした。


「鏡夜」


 いつもより低い声。


「何よ、ユーヤ君?」


「鷹野先生が呼んでる」


「誰?」


「あ、鏡夜の担任の先生!」


 私は空気を変えようと、鏡夜の腕を引っ張って先生を探す。


「あそこの先生……えっ!」


 先生が!

 ジャージ着てる!

 しかもメガネなし?!


 かっこいい!


 てか……あれって!


「まんま、ラブチャの先生だね」


 玲香が言う。


「やっぱ、そうだよね!」


「むしろ本家超え」


「どうしよう、え、どうしよう」


 前から似てると思ってたけど、今日の先生はドンピシャ!


 やだ、写真撮りたい!


「へぇ……あいつがそれか」


 鏡夜の顔に闇が宿る。


「え? 鏡夜?!」


「ちょっとヤッてくるわ」


「待って、何を?!」


「名竹鏡夜、第二形態?! ほんと尊い……」


「瀬戸さん、マジ病院行けば?」


 私は慌てて夕夜の腕を掴む。


「ねぇ、夕夜!」


 冷めた視線が私に向く。


「鏡夜、一人で行かせて大丈夫かな?!」


「……まぁ」


 その目は冷たい温度のまま鏡夜の背中を見送る。


「再起不能にしてくれればいいかな」


 え、どっちが……どっちを?


 なんか、夕夜まで黒い……。



 幸先不安な歩行会が、いま始まる――。

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