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第21話 開花

 

無貌(むぼう)は、”かぐや姫” しか狙わない?」


「無貌……それは大伴家の呼び方だな」


「呼び方?」


「……あれに名前を付けるなんて真面目な大伴家くらいだ。で、なんで名竹が狙われてる? 力を持っているの兄の方だろ」



 ――先生、そこまで知ってるの?


 でも、今日まで先生から接触はなかった。


 ……警戒、した方がいいのかも。


 私が黙り込むと、先生は戸惑ったように視線を逸らした。


「……悪い。少し急ぎすぎたな」


「え、あ……いえ」 


 先生は気まずそうに眼鏡をあげると、背を向けて歩き出す。



 3年B組の教室に着くと、先生は廊下で待つよう言って先に中へ入った。 

 授業中の先生に軽く事情を説明すると、窓際の席で外を眺めていた石上先輩を呼び出す。


「え、俺ちゃんと反省文出したじゃん!」


 開口一番のその一言に、教室に笑いが起きた。


「いいから、ちょっと来い」


「え、やだよ」


「緊急なんだよ」


「何がだよ」


 頑なに拒否する先輩。

 私は先輩から見える位置に移動して、大きく手を振る。

 両手を合わせて “来てください” とジェスチャー。


「え?」


 先輩は先生の顔を見た。

 先生は無言で「来い」と顎で示した。


 しぶしぶ立ち上がる先輩。


「⋯⋯じゃあ、行ってきまーす」 



 クラスの視線を背中に受けながら廊下に出てきた。

 扉を閉まるなり、先輩が駆け寄ってくる。


「どうしたの、華ちゃん。これ、なんの組み合わせ?」


「いいから、とりあえず保健室に行きましょう」


 腕を引っ張ると、先輩は距離を詰めてくる。


「今日は大胆だね。夕夜君がいないから?」


「そんなこと言ってる場合じゃないんです! 急いでください!」


「石上、俺はいるからな」


 後ろから先生が睨む。


「あ、忘れてたよ」



 保健室の扉を開けると、保健室の先生と夕夜がいた。

 保健室の先生は鷹野先生を見ると安心したように駆け寄り、廊下に出て事情を聞き始める。 


 夕夜も私たちの方に来た。


「夕夜。藤原君たちは大丈夫?」


「藤原は寝てる。他のやつは……石上先輩に任せる」


「俺?」


「天人の成れの果て⋯⋯私たちは ”無貌” って呼んでるんですけど」


「むぼう? 天人のって、あぁ、あの満月のときに出る気味悪いやつ?」


「それがさっき教室に出て、三人触られた」


「だめなの?」


「たぶん、憔悴と⋯⋯記憶障害を起こしてると思う」


 石上先輩の肩が動く。


「それって……」


 先輩はカーテンを開ける。

 ベッドの上で男子生徒が苦しそうにしている。


「記憶は……無理だよ?」


「そっちは……藤原がいけると思う」


「藤原?」


「力使いすぎて倒れてる」 


 夕夜が一番端のベッドに視線を向ける。


「ほーん、なんか知らないうちに結構揃ってんのね」


 先輩は廊下の先生たちを確認すると、ぱちんと指を鳴らした。



玄兎げんと――薬式くすしき



 光の兎が4匹現れ、迷わずにそれぞれのベッドへ入っていく。


「とりあえず体力の回復だけだけど」


「ありがとうございます!」


「助かりました」 


「てか、ムボウ? って昼間にも出る?」


「いえ、私たちも初めてです」


「誰が倒したの? 夕夜君?」


「いや⋯⋯鷹野先生」


「鷹野って……タカセン? もそうなの?!」


「そうみたいですよ」


「え、俺一年からの付き合いなのに全然気づかなかったんだけど。タカセン、そんな強いの? あれって倒せなくない?」


「たぶん火……だと思います。最後、灰みたいになってたから」


「――名竹さん」 


 カーテンが開いた。


 藤原君が出てくる。

 シャツの胸元のボタンが開いていて、無駄に色気がある。


「お互いのこと、あんまり話さない方がいいと思うけど」


「なんだよ、俺のこと信じられないって?」


「まぁ……」


「なっ! お前……生意気だな」 


 ……あれ、ここも相性悪い?


「逆に先輩は俺のこと信じられるの?」


「俺は仲間は信じるぞ?!」


「……浅はかだな」


 冷たい目で笑う。


「喧嘩売ってんのか、お前!」


「でもまぁ……先輩、悪い奴では無さそうかな。ありがとね」


「なっ?!」


 出た。

 藤原君の飴と鞭。 


 先輩、拳の行き場に困っている。


「お、藤原。もう大丈夫なのか?」 


 鷹野先生が戻ってきた。

 そのままカーテンを覗いて、生徒たちを確認する。


「で、なんでお前は藤原を殴ろうとしているんだ?」


「ちげぇって! こいつが……ってかタカセン、あんたも五家なのかよ」


「……こんなところで話すな」


「ぐっ……」 


 先輩は言葉を飲み込む。



「藤原、どういうことになってる?」 


 先生はそのまま話を進める。

 さすがに報告をしなくてはいけないらしく、辻褄を合わせたいらしい。


「モンペが教室を間違えて入ってきたのを、名竹さんが追い出したことにしてある」


「はっ?!」


「今日の雰囲気にちょうど良かったから」 


 服を直しながら、くすくす笑う藤原君。


「華ちゃんのイメージぴったりじゃん」 


 石上先輩もニヤニヤする。


「……とりあえず、それで通すしかないな」 


 先生まで。


「倒れた人たちは過呼吸か、集団パニックってことでいいんじゃない? あ、そうだ」


 藤原君が私を見て、微笑む。


「大丈夫、おまけもしといたから」


「はっ?」 


 ――絶対ろくなことじゃない。


「ちょっと藤原君っ! 今度は何したの?!」


 怒った瞬間――


 藤原君の周りに、白い花がぽんっと現れる。


 次々と咲いて、足元に落ちていく。 



「えっ?」



 甘い香り。


 ……この花、見覚えがある。


 机に入ってた、あのときの花だ。



「何これ?」 


 藤原君が一輪、拾う。


「華⋯⋯」 


 夕夜が近づき、私の手を握る。

 指先がわずかに震えていた。


「とりあえず、落ち着いて」 


 いや、こんなふうに手を握られたら落ち着くものの落ち着かないんだけど。


「な、なんなの?」


 夕夜の様子を見て、藤原君は納得したように呟く。


「これ、名竹さんの能力か」


「えっ? 能力?」 


 私が一番驚いている。


「花を出す能力……かな?」 


 藤原君は私ではなく、夕夜を見る。


 夕夜は何も言わない。

 ただ夕夜の手に少しだけ力がこもる。


「夕夜……?」 


 何か知ってる?



「え、華ちゃん⋯⋯」 


 石上先輩が引いたような視線で私をじっと見る。



「……それ、は●かっぱじゃん」



「は?!」


 その一言で、また花が咲き乱れた。


 怒るたびに咲く花に、石上先輩と藤原君が爆笑する。

 先生まで肩を震わせていた。



 ただ――。

 夕夜だけが笑っていなかった。


 花をひとつ拾い上げると、諦めにも似た眼差しでそれを見つめる。

 唇が僅かに震えていた。


 何かを飲み込むように目を伏せた。


「夕夜⋯⋯?」


 はっと顔を上げた夕夜はいつもの表情に戻っていた。


「……なに?」


 いつもの、優しい笑顔。



 でも――。

 なぜかそれ以上を聞くことが出来なかった。



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