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第20話 なぜか狙われる私


「来るっ」


 腕を掴む夕夜の手に力が入った。 

 教室の端から、小さな悲鳴が上がる。



「え、無貌(むぼう)?!」


 夕夜が睨む廊下側の壁から、半透明の白装束がすり抜けるように現れた。


 何で――。


 無貌は満月の夜にしか出ないはずなのに。


 しかも。


「……顔がある?」



 その無貌には “顔” があった。

 目と鼻の穴だけが空いた、仮面のようなものが張り付いている。

 こんなのがいるなんて聞いていない。


 教室が一気にざわめく。

 逃げようとする生徒たち。


 でも、扉は開かない。


 ――結界?


 閉じ込められている。



「ねぇ、夕夜……もしかして私、狙われてる?」


 その仮面の無貌は、明らかに。

 私だけを見ていた。

 視線なんてないのに。


 ――分かる。

 私を、見てる。


「……うん」


 そう言うと夕夜は私を後ろにやった。


「離れて」


 私は少しずつ後ずさる。


 無貌が私に合わせて、向きを変える。

 動くたびに軋む音がする。

 前の無貌と、全然違う。


 左右に二本ずつの腕。


 私は教壇に向かって走った。


 嫌な軋みを立てながら――

 すべての腕が、私に向かって伸びてくる。

 

 あれに触れては――ダメ!


「あ!」


「いやっ!」


「うっ……」


 無貌の手が、間にいた生徒たちをかすめる。



「名竹っ!」


 鷹野先生の声。



 来る――。


 とっさにしゃがみ、近くの机を蹴り倒す。

 無貌の手が机に阻まれた。


 ガツン、と鈍い音。


 ――硬い。



 えっ?!


 実体が、ある?!



「っ!」


 夕夜もそれに気づき、すぐに構える。


「行けるか」


 小さく呟く。


水鏡みずかがみ――鱗珠うろくずっ!」

 

 三匹のカジキが現れ、無貌を取り囲む。

 間合いもなく、一気に突き刺した。


 魚影が消え、無貌は立ったまま止まる。


 三つの傷口から、琥珀色の液体がどろりと溢れ、すぐに固まる。

 まるで、塞ぐように。


 でも、無貌は動かない。


 ……今だ!


 倒れた子のそばに駆け寄る。

 呼吸はある。


 よかった。


「華!」


 背後――。


 動かなかった無貌の背中から、もう一本の腕が伸びていた。


 五本目の腕――?!


 あ、間に合わない。



「水――」


宵待よいまち――玉響乱たまゆら


 低い声。


 無貌が伸ばす手の先に、鈍い赤い光の玉が現れる。


 それを無貌が掴んだ――。


 パキッ。


 何かが砕けた。



 一瞬の間。


 無貌の手が内側から弾ける。


 音が遅れて――。


 爆竹のような連鎖が走る。



 手から身体へ。


 無貌は灰になりながら崩れて、消えた。



「え、先生……?」


「大丈夫か」


 結界が解け始める。

 教室が一気にざわめいた。


「何だったの、今の」


「鷹野先生が倒したの?」


「え、大伴君じゃなくて? ってかカジキマグロいなかった?」



 ……まずい。


 普通に見られすぎている。



「藤原、頼む」


「あ、やっぱり?」


 この騒ぎの中でも、ずっと頬杖をついていた藤原君が、面倒くさそうに立ち上がる。


「言っとくけど、全員を “消す” のは無理だからね」


 教室の中央で床に手を付く。


 空気が変わる。


 まるで神聖な儀式でも始まるかのように、みんなが静まり返った。



玉輪ぎょくりん――僻覚絵ひがおぼえ



 床に、光の輪が広がる。


 教室全体をまばゆい光が包み込み――消えた。


 魔術師みたいだと思ったことは内緒にしておこう。


 

「あれ?」


「誰だったの、さっきの」


「不審者? 保護者?」


「どこに行った?」


「名竹さんが追い出した」


「警察呼ぶ?」


「てか名竹さん、ヤバない?」



 はっ?


 ちょっと待って。


 私が何? 


 何したの、藤原君……


 

 確か……

 なんか記憶操作が得意とか言ってたっけ。


 嫌な予感しかしない。


 

「先生。藤原、保健室連れていきます」


「ああ、頼む」


 夕夜が、ぐったりした藤原君を支えている。


「え、大丈夫?!」


「マジだるい……」


「手伝おうか?」


「大丈夫。それより――」



 夕夜の視線の先。

 倒れた三人の生徒が、先生に介抱されている。


 保健委員の子が廊下を出ていく。


「暇な男子二人と、女子一人か二人。運ぶの手伝ってくれ。あとは自習待機」


「あ、私が!」


 倒れている女の子くらいなら運べそうだ。


「いや、名竹は……ちょっと来い」


「?」



 先生が隣に立ち、声を落とす。


「石上は……治療できるのか?」


「あ! たぶん!」


「なら呼ぶか」


「私! 行ってきます!」


「待て。お前はこれ以上目立つな。一緒に来い」


「は、はい」


 駆けつけた隣のクラスの先生に後を任せ、私と先生は教室を出た。



「三年B組は……英語か。なら教室だな」


 先生はスマホで時間割を確認し、歩き出す。


 ――やっぱり。


 先生も、五家。



 たぶん ”火鼠ひねずみ皮衣かわごろも” の……


 『阿部御主人あべみのみうし』?



 ……それにしても。


「先生、夕夜とか藤原君のこと知ってたんですか?」


「あぁ……まぁ、鷹野家にはある程度の記録が残っててな」


「先生は “火鼠”?」


「……あぁ」


 歯切れが悪い。


 というより少し様子がおかしい。



「先生、なんか変ですよ?」


 足が止まる。


「お前こそ――」


 低い声。


「何であれに狙われてる?」


「あれって……無貌のことですか?」


「あれは――」


 先生は額を押さえた。


「”かぐや姫” しか、狙わないはずだろ」


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