表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/35

第15話 記憶改竄

 

『中学生のときは恋人だったんでしょ?』


 ――その一言で。


 頭の中で、何かが繋がりかけた。


 でも――


 どこか、おかしい。


「あ、あれ?」 


 視界が歪む。

 ぐらりと身体が揺れた。


「華!」 


 腕を引かれ、強く抱き寄せられる。

 夕夜の匂い。


 でも。

 もっと近くで感じていた気がする――。


 脳の奥に痛みが走った。


「もしかして」


 藤原君の声が、少し低くなる。


「名竹さんって……もういじられてる?」 


 夕夜の腕に力がこもる。


 夕夜……?


「そう、訳ありか」


 藤原君が一歩、近づいてくる。


「大伴君、ごめん。今のは完全に俺が悪い」


 私をそっと夕夜から引き離す。


「!」


「だから、これはお詫び」


 警戒する夕夜に手のひらを向け制止すると、私の前に立つ。


「消してあげるよ」


「え?」


 肩に手を置かれ向き合う。

 顎を、少し上げられた。

 藤原君の青みがかったグレーの瞳が、私を捉える。


 思わず息を飲む――。


玉輪ぎょくりん――空蝉未うつせみ」 


 藤原君の瞳の奥に、白い光が灯る。

 その光は輪になって、瞳の中を静かに広がる。


 金属音が響く。


 頭の中が、白くなって。

 あまりにまぶしくて。


 思わず目を閉じた――。



「あ、あれ?」


 目の前に、美しい顔。


「かみさ――」


「神様って呼ぶなよ」


「え、じゃあ⋯⋯王子?」


「存在を消してやろうか?」 


 ……王子、口悪い。



「はぁ、こっちは体力持ってかれるんだよな……」 

 大きなため息を吐いて藤原君がしゃがみ込む。


「え、大丈夫?」 


 ……あれ。


 そう、夕夜――


「え? 夕夜?」 


 振り向くと、夕夜が呆然としていた。

 戸惑ったような表情で藤原君を見ている。


「夕夜?」


「……華」


 腕を掴まれる。

 また、あのすがるような目。


「夕夜?」


「……大丈夫?」


 少し震えた低い声。


「大丈夫だよ、大伴君」


 しゃがんだままの藤原君が、小さく笑う。


「え、何が?」


「名竹さんに自覚ないの、厄介だね」


 困ったように笑って、夕夜を見上げる。


「……」


 夕夜が俯く。


 藤原君は呼吸を整えると、立ち上がり伸びをする。


「藤原……」 


 夕夜が呼び止める。

 何か言いたそうだった。


「……名竹さんの噂さ、掲示板に書かれてた」


「え?」


「入学初日であれは、相当執着があるみたいだから気をつけなよ」


「掲示板? 私のことって……」


 あ、玲香が言ってたあの噂のこと? 


 藤原君が私を見て、深いため息をつく。 


「……そっちも消してあげようか?」


「そっちも、って?」 


 藤原君は面倒そうな顔をした。


「そもそもさ、あんたは何なの?」


「え?」


「大伴君といるけど、それだけじゃないよね?」


「……」 


 探るような目。

 私の出方を伺っている。


「……藤原君が先に名乗るなら、私も名乗るよ」


「へぇ?」


 藤原君は好戦的な笑みを浮かべる。


「俺と駆け引きするつもりなんだ」


「違くて。先に名乗るのが礼儀でしょ」


「面白いね」


「待って、華」


 夕夜が割って入る。


「藤原も……何やってんの?」


「でも夕夜!」


「華、大丈夫。藤原は五家の人間だよ」


「へ?」


 夕夜の後ろで藤原君がにやにや笑ってる。


「あれ、もうバラしちゃうの?」


「え、なんで分かったの?」


 夕夜はバツが悪そうに私を見た。


「名竹さん、意外とちゃんとしてるんだね」


「へ?」


「あれでペラペラ素性話し出したら、心底軽蔑するところだったよ」 


 明るい笑顔でそんなことを言う王子、怖い。


「ねぇ、場所変えて話さない?」


 まさかの王子からのお誘い!

 でも……。


「じゃあ、どっか入ろうか」


「あ! それは⋯⋯」



 ***



「ねぇ、高校生にもなってお茶もできないくらい財布に金ないってどうなの?」


 ブランコに乗って文句を垂れる王子も美しい。


「すみません。昨日、想定を上回る出費がありまして……」 


 夕夜が呆れた目を向けてくる。

 昨日の帰りの電車賃すら兄に借りてるくらい、今の私は金欠だった。


「本当にすみません」


「別にいいけどさ。奢ってもらうのが当たり前なやつよりはいいんじゃない?」


「ありがとうございます」


 口は悪いけど、なんだかんだで優しい王子。


「藤原君って、もっと無関心なタイプかと思ってた。孤高の王子、みたいな」


「何それ? 俺、わりと好奇心の塊だよ」


「そうなの?」


 思わず笑う。


「そうそう、余計なことに首突っ込んで火傷するタイプ」


「……確かに、そんな感じだな」 


 夕夜が、藤原君の隣のブランコに腰かけた。


 いつもならこっち側に座りそうなのに。

 夕夜がこんなにすぐ心を開くのは珍しい気がする。

 二人は意外と相性がいい?


「あぁ、掲示板(そっち)もなんとかしないとね」 

 藤原君はノートパソコンを開く。



「で結局、名竹さんはなんなの? 五家ではないよね」


「名竹家は、“かぐや姫” の家系だよ」 


「名竹が、“かぐや姫” の家系?」


「?」


「やっぱり……帰ってないんだ、“かぐや姫” は」 


 藤原君の口角が僅かに上がった。


「藤原君は知らなかったの?」


「まぁ。でも、それは藤原家の “性質” かな」


「性質?」


「藤原家は、“記憶改竄” が得意でね」


 キーボードを叩きながら、軽く言う。


「代償もデカくて、やり過ぎると自分の記憶も消える」


 代償――?


「いつかの先祖(バカ)たちのせいで、藤原家にはデータがないんだ」


 藤原君はパソコンに目を落としたまま。


 力に代償があるなんて、考えもしなかった。

 それは、夕夜や鏡夜にも?


「名竹さんも力はあるの?」


「私はなくて、兄の方に」


「兄……名竹鏡夜の方か」


 藤原君はほとんど独り言のように呟く。


「地上に残って、子孫がいる、“かぐや姫” の力……」


「藤原君?」


「いいね、面白い」


 キーボードを叩く指が止まる。


「黒幕候補が一人、増えた」



 ――藤原君は、声を押し殺して笑った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ